オリジナル小説サイトです。新刊書籍 王宮書庫のご意見番 恋するきっかけは秘密の王子様 発売中  異世界の本屋さんへようこそ! 全3巻 & 既刊 愛してると言いなさい全4巻 アルファポリス様より発売中です。よろしくお願いいたします
 お誕生日おめでとうございます、もにょん様!!!!!!

 昨日なんですけど……とほほ。
 日ごろお世話になっておきながら、逆バーズデープレゼントをいただいてしまった私です。
 
 こんばんは、安芸です。
 もにょん様より またしても素敵プレゼントをいただいてしまいました。
 安芸リクエストによるカトレー&ダナンです。
 今回は彼方~のリアルタイム王宮サイドです。
 かなりおもしろいです、皆様どうぞおたのしみください。

PS K様ー! もにょん様へメッセ届けさせていただきましたー。ありがとうございましたー!!
   安芸ももにょん様もとても嬉しいです~。
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もにょん様より頂戴いたしました!

心づくしの短編第二弾 『負けられない勝負』

12/10/21

 紅緒とリゼが旅行に飛び立って数日が経った頃……とある場所にカトレーとダナンが呼び出されていた。
「これは由々しき事態です」
 銀縁眼鏡の鼻ブリッジをくいっと押し上げながら、男は机の上に両膝を付き組んだ両手の上に顎を乗せ、眉間に薄く皺を寄せながら呼び出した2人を見つめた。
 対して呼び出された2人はそれぞれ、苦笑したり興味なさそうに別の場所を見ていたりと、あまり真剣さはない。
「30件です。ひと月半ほどで、30件ですよ」
2人の態度に眉間の皺を深めながら、机の脇に置いてあった分厚い書類の束を叩きつけるように机の中央に持ってきて声を尖らせた。
「内約を言えば宿下がりの願い出が17件、言い争いからケンカ沙汰になったのが8件、自傷及び自殺未遂が5件……これら全てが!」
 がたんと椅子を鳴らすように立ち上がってから、自身を宥めるように1つため息を漏らす。
「――ダナン殿が妻を娶り、カトレー殿が特別の恋人を作られたことによる、王宮内に勤務する女性の嘆きが原因です」
「――お言葉ですが、それは勝手に女性方が起こした行動で、私達に言われるのは筋違いと思いますが」
 カトレーがにこやかに、けれどきっぱりと自分は関係ないと告げる。
「まぁ気持ちは分からないでもないが、俺もそんなことを言われてもな、と思うが」
 ダナンも苦笑しながらも、自分がどうこうするつもりはないと消極的に伝えた。
 だが男はそんな2人を鼻で笑うと、机を回るようにして2人に近づく。
「本当にそうでしょうか。カトレー殿はずいぶんと火遊びを楽しんでいたようですし、ダナン殿にしても同じこと。貴方達ほど優秀であれば、そして誠実に生きようと思うのであれば、女性に期待を持たせることなくあしらうことくらい簡単なことだったでしょう」
 ゆっくりと言い聞かせるように語りながら2人の前までくると、机の上の書類に触れながら再びため息を付く。
「彼女達の行動が浅慮であったことは否めません。ですが彼女達もまた深く傷ついているのです。そして王宮としては一度に優秀な人間に30人も辞められるのはそれなりの痛手であり、醜聞でもある」
 国の中枢である王宮でそんなことがあれば、国民からも他国からもいらない疑心と誤解をもたれる可能性もあって、放置はしかねる事態となっている。
 本来、侍女や女官などの取りまとめは専任の女性が行っているが、宮廷人の男性も関与しているということで王宮内人事に関わる男にこの件が回されたというわけだ。
「そこで、2人に要請します」
 男は書類の中から数枚を取り出し、ダナンとカトレーにそれぞれ渡した。
「そこに書かれている名前は、それぞれダナン殿とカトレー殿を理由に宿下がりを希望したり問題を起こしたり、苦痛を陳述してきた女性のリストです。彼女達のケアを、2週間以内に全て終えて下さい」
「お断りします。そんな時間があるならアルディ殿と過ごした方がよほど有意義です」
「俺も同感だな。妻との時間が減るのは困る」
 再び2人が突っぱねるものの、その返事は予想済みとばかりに男は不敵な笑みを浮かべた。
「3日間の休暇」
 指を3本立てて見せた男の言葉に、気のなかった2人が気を引かれたように男を見た。
「この問題を先にクリアされた方に、3日間の休暇を差し上げます。もちろん、それぞれのパートナーと共に。すでに王陛下と王妃陛下とジークウィーン様には許可をもらい済みです」
 続く男の言葉にギラリとダナンとカトレーの瞳が輝いた。
 双方ともそれなりに忙しく纏まった休暇は取り辛い身であり、さらに言えば双方共にパートナーが勤勉で余分な休暇を取らない。
 それが、王族の後押しを受けて大手を振って3日間愛しい人と思う存分イチャイチャできるとなれば……。
「その言葉に二言はねぇな?」
「もちろんです」
 ダナンの確認の言葉に男が頷くと同時に、ダナンとカトレーが対峙して睨みあう。
「まぁ、せいぜい頑張れや若造」
「ふ。錆付いた交渉術の中年に負けるなどありえませんね」
 互いに挑発の言葉の応酬をした後、それぞれリストの書類を握り締めて足早に部屋を後にした。
 その後姿を見送りながら男はいい仕事をしたとばかりの笑顔を見せながら、
「もてる男どもせいぜい苦労して爆発しろ」
 と、爽やかに言い切った。

 それから2週間後のこと。
 抱き上げた妻に耳を掴まれながらも意気揚々と馬車に乗り込み出て行くダナンと、城の中庭の隅でうなだれながら恋人に頭を撫でられているカトレーの姿があったとかなかったとか。



ありがとうございました!


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【2012/10/22 03:01】 | 頂きもの
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 もにょん様より頂戴いたしました。

 幸せな未来図のお話。
 ぜひとも、まだ未読の方は 彼方へ 西イーヴル編を読了後、ご覧ください。
 素敵な物語をありがとうございました。皆様もぜひおつきあいいただければさいわいです。
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心づくしの短編 『夜空へ願う』

12/10/19

「ねぇ、まま?」
柔らかな毛足の長い絨毯に寝転がって絵本を見ていたこどもは、ふと顔を上げて傍らに座る母親の顔を見上げた。
「なぁに?」
絵本を読むのを止めて微笑みながら彼女はちょっと首を傾げて自分のこどもに視線を移す。
「ままはたくさんのながれぼし、みたことある?きれい?」
こどものきらきらと期待に輝く瞳を愛しそうに見つめながら彼女は頷いた。
「あるわ。とてもたくさんの流れ星がとても綺麗だったわ」
「どのくらいたくさん?10こくらい?」
小さなもみじのような両手をぱっと開いて突き出して見せるこどもにクスクスと笑いながら首を横に振る。
「もっともっとたくさん。お空を埋め尽くすくらい」
「わぁ!じゃあ、たくさんおねがいごとできるね!ままはなにをおねがいしたの?」
「ままは、ずっとぱぱと一緒にいられますようにってお願いしたわ。あなたは何をお願いするの?」
訪ね返されて眉間に小さく皺を寄せるほど真剣に考えて、こどもは1つ1つと指を折っていく。
「えーと、えーとね、またジークおじちゃまとあそびたいでしょ、あとケーキをたくさんたべたいでしょ、あたらしいボールがほしいでしょ、それから、それから……ままとぱぱみたいになかよくくらせるひとがほしい!」
最後の願い事にちょっと驚いた表情をする母親に、こどもはニコッと微笑んで首を傾げた。
「わたしにもできるかな?」
「……そうね、きっと現れると思うわ。でもそのお願いごとは、ぱぱにはナイショね?」
「どーして?」
「ぱぱが寂しいって泣いて拗ねちゃうから」
「ぱぱ、すぐないちゃうね」
2人は顔を見合わせてクスクスと笑った。


                         
   ありがとうございました!
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【2012/10/21 19:13】 | 頂きもの
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 もにょん様より頂戴しました。

 リゼの過去のお話です。
 とても優しい、素敵な物語ですので皆様どうぞおつきあいくださればさいわいです。

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第2巻出版お祝い短編『留められた時間』

2012年 01月 03日 (火) 07時 27分 52秒



 きぃ、と小さな音を立てて木材で作られた扉が開く。

「あら、まぁ……お久しぶりね」

 人里離れた林の中にぽつりと一軒だけ建つ、クリーム色の壁に上品な緑色の木戸をした小さな民家の主たる老婆は、その音に少しばかり意表を突かれたように目を瞬かせたけれども、すぐに柔らかな微笑で久しぶりの訪問者を迎えた。

「ん、久しぶりだね」

 ぶっきらぼうに老婆にそう返しながら客人たる青年は、他人の家とも思えないような足取りで家の中に上がりこみ、庭に続く大きな窓の傍に置かれたソファに腰を落ち着けた。
 老婆はそれを見送って自分は一度台所に引っ込むと、温かいお湯をたっぷり注いだお茶のポットと茶器のセットをお盆に載せて、青年の元へと戻ってくる。
 小さく陶器が触れ合う音とふわりとやさしいお茶の香りが柔らかな水音を伴って仄かに周囲に広がった。
 老婆は何も言わずに青年の前のテーブルの上にお茶を差し出す。
 それに一口だけ口をつけてぼんやりと庭を眺める長い金色の髪をした青年のことを、家と同じく落ち着いた上品な老婆は用件を急かすでもなく、かといってただ放置するでもなく、自分の分のお茶をカップに注ぐと彼の向かいの大きな藤の揺り椅子に腰を下ろした。
 ゆらゆらと軽くそれを揺らしながら、青年が来るまでしていたやりかけの刺繍を手に取り、色糸を通した針を動かす。
 開け放った窓からさやさやと心地よい微風が吹いてきて、揺れるレースのカーテンが磨き上げられた飴色の床に繊細な波模様を描き出していた。
 そうして互いに何もしゃべらずどのくらいの時間が経っただろうか。
 青年がふと、小さくため息をこぼした。

「――好きな女性が出来た」

 唐突に静寂を破ったその声は決して大きくはなく、変わらず庭へと視線を向けたままのそれはむしろ独白に近く感じられるものであった。
 けれど老婆は刺繍をしていた手を止めて、僅かな驚きを宿した瞳を青年に向ける。
 老婆は迷うように少し視線を左右に動かしてから、

「……そう」

 とだけ呟いた。


 老婆は自分がまだほんの小さな少女だった頃より前から、目の前の青年は変わらずに王宮にいたことを思う。
 彼女が魔法使いとして王宮に上がった時も、能力を認められ今は王太后になった女性の傍に控えるようになった時も、そうして訪れた『知る必要のないこと(ダウ・ダルク・ダージ)。知るべきでないこと(ダウ・サンダルク・ダージ)ないこと』によって自分が限界まで力を使い果たし、王宮を辞したその時も彼は変わらず、たとえ姿が見えなくともそこを守っていた。
 当時の彼女と彼はそれほど強い関わりを持っていたわけではない。会えば挨拶を交わし、仕事で必要があれば情報を交換する程度の付き合い。
 その当時の彼女は嫉妬するのも馬鹿らしい程の力の違いに張り合おうとすることもなく、先駆者に対する敬意と一定の距離を持って彼に接していた。けれど彼を取り巻く周囲は老いも衰えもしない彼にあるいは嫉妬や羨望を、そしてあるいは畏怖を持っている者も少なくはなかった。

――彼は高みから力なく老いていく自分達を見下ろし、侮蔑しているのだ。

 そんな悪意あるささやきも密やかに、けれど確かに存在していた。
 けれど王太后の傍近くにあった彼女は、彼が自分でも気づかずに愛しいと思う者達へと向ける愛情を知っていた。それは不器用にとても分かりづらいものだったけれど、彼は彼と違い老いていく者を見下してなどいないと確かに教えてくれた。
 だからこそ、彼女はふと考えたのだ。

――置いていく方と、置いていかれる方は、どちらが辛いのだろうか、と。

 そして彼に寂しくはないのかと尋ねた。
 ……彼は表情も動かさずに彼女を見て、寂しいってなんだいと尋ね返してきた。
 その時の胸を突かれるような何ともいえない気持ちを老婆はよく覚えている。
 外見などではなく、彼の心の時間(とき)こそが止まっているのだとまざまざと思い知らされた。
 きっと自分でも大切なものをどれだけ大切なのか気付かないように。

 ――失っても耐えられるように。

 彼女には彼にそのことをわからせるだけの言葉と気持ちの持ち合わせがなかった。
 だから代わりのように、「いつか一緒にお茶を飲みましょう」と言ったのだ。
 ほんの微かでも、彼の中に優しいものを残せればいいと思って。


 けれどその機会もなく、いつか自分がそんなことを言ったことも忘れたまま彼女は王宮を去ることになった。
 そのまま二度と会うこともないと思っていたのだが、静かに暮らすためだけに購入したこの家にある日ふらりと彼が訪れたのだ。
 お茶を飲みにきた、と。
 以来、数年に1度あるかないかくらいの頻度で、彼はこの家に訪れるようになった。
 老婆と彼は何を話すわけでも顔を向き合わせるでもなく、傍らにあってたまに彼がぽつりぽつりとこぼす言葉に彼女はただ静かに相槌を打ち、お茶を一杯だけ飲み干す頃に彼は去っていく。
 それが彼にとってどれほどの意味があるのか老婆にはわからない。ただ迎え入れてお茶をいれ、一時だけ空気のように寄り添うだけ。
 だがそれももう今日で終わるのだろうと数秒の間で頭の中を駆け巡った走馬灯のようなこれまでに、今度は彼女がそっとついた吐息が両者の沈黙を打ち破った。それはほんの少しの寂しさを含んだ安堵の溜息。
 失えないものを得ることは反面、喪失の恐怖を知ることだ。彼が凍らせ、留めていた心の時間が動き出していることを彼女は悟った。

「……恐いのかしら」
「――そうかもしれない」

 空気であることを止めた彼女の言葉に、初めて彼が彼女の顔と向き合う。どういう表情をしたらいいのかわからないという顔が、彼女にはなんだかとても幼い子供のように見えた。
 膝に乗せていた刺繍をテーブルに置いて椅子から立ち上がる。そして彼の傍に膝を付くと、すっかり皺だらけになった温かい両手で彼の手を包み込むように握った。

「――信じて」

 ゆっくりと言葉に力をこめるように声にする。

「自分を、貴方の大事な人を、そして世界をどうか信じて」

 孫を慈しむような目で彼を見上げながら、彼女は何もうまく言葉に出来なかった過去の自分をもう一度思い返す。
 本当はもう随分と前に言うべきだろう言葉は見つけていた。けれど自分が言っていいのかと思っていた。
 でも今なら許されるような気がした。彼に届くような。

「苦しいことだわ。それでも、たとえ形をなくしても、残るものはあると……信じて」

 じっと数秒間、互いに見つめあった。そして戸惑いながら青年が緩く彼女の手を握り返して、ちいさく「うん」と頷いた。


 彼のいなくなった部屋を見回して、老婆はやはり少しだけ寂しそうに瞳を揺らした。
 けれどそれはすぐに穏やかな微笑みに掻き消え、お茶の片づけを終えると彼女は再び刺繍を手に揺り椅子に腰掛ける。
 変わらない様でいて緩やかに過ぎ行く時間を表すように、ゆらりと揺り椅子が揺れた。

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【2012/01/03 18:00】 | 頂きもの
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もにょん 様より頂戴いたしました!

出版お祝い短編『とある伯爵令嬢の回想』

日付 2011年 05月 10日 (Tue) 18時 05分 08秒



 ジークウィーン殿下がご執心と噂の女性を見た時の私の感想といえば、なるほどというものだった。
 そして改めて思ったものだった。
 このマザコンめ、と。

 私はジークウィーン殿下が生まれた翌年、そこそこの財力と権力を持つ伯爵家の次女として生まれた。
 条件的にジークウィーン殿下の結婚相手としてそこそこ整った条件を持ち、さらにそこそこの出世欲はある父の意向もあって、私は生まれたそのときから殿下の許婚候補の末席に数えられるようになっていた。

「お前は殿下と結婚するんだよ」

 私だって乙女の端くれ、そう言う父の言葉にいつか王子様が自分を迎えに来てくれるのだと、胸ときめかさなかったわけではない。
 6歳になるまで私はそのことに疑問を持ったことはなかったし、夢見るお姫様になるための努力も、幼子ながらそれなりにがんばっていたと思う。
 けれどそんな可愛らしい純情な少女は6歳になりしばらく過ぎた春の日、初めて殿下と顔を合わせた時に粉々に砕け散ってしまった。
 忘れもしないうららかな日差しの午後、殿下も参加するためこどももぜひ、と言われて王妃様が主催したお茶会へと母に連れられて初めて王城へ登城した。
 王城は立派で間近に見る王妃様はとても美しく、色とりどりのお菓子は可愛くて美味しそうで、この日のために新調してもらえたドレスに身を包んでいることもあり、幼い私はこれ以上ないくらい浮かれていた。
 その上、一生懸命練習した挨拶を王妃様に失敗せず披露でき、さらに可愛い淑女(レディ)ね、と褒め言葉をもらえたのだから、エンジンはフル回転で空でも飛べそうにご機嫌だった……殿下に会うまでは。
仲良くしてね、と王妃様から紹介された殿下はそれは綺麗で愛らしい容姿で、可愛くいじましくも私はこの人が私の王子様なのだと胸ときめかせて緊張しながら自己紹介をしたのだった。
 けれど殿下は私の自己紹介など知らないとばかりにそっぽを向いて、ひどく退屈そうに苛立ってさえいる様子で、王妃様にここから離れて遊んできてもいいかと尋ねた。
 まぁ、大きくなった今なら、7歳の小さなこどもが社交の場に連れ出されてわけも分からない人たちからの挨拶を受けて回らなければならないとなると、相当に苦痛だったのだろうと理解を示すことも出来る。
 だがその時の私は何か失敗してしまったのかという焦りと、憧れていた王子様に無視をされるという悲しみから泣きそうになっていた。
 だから殿下が王妃様の許可を得て離れようとした時に、自分も一緒に行きたいと咄嗟に申し出ていた。
 殿下はちょっと嫌そうではあったけれど了承してくれて、私に背を見せながら来いと命令した。
 その後は私を振り返ることもなくずんずんと早足でお茶会会場の庭園から離れていく。
 私はドレスに合わせた華奢な靴と長いドレスの裾のせいでうまく付いていけなくて、半泣きになりながら何度も殿下に待ってとお願いした。
 そうして私のもたつきぶりに気付いた殿下が煩わしそうに私の手を取ってグイと引っ張ったのだ。
 たぶん引いてやろうと思ってしたことだったのだろうけれど、ただでさえバランスを崩しかけていた私は、その気遣いの欠片もない引き方にとうとう足をもつれさせて思い切り転んでしまった。
 下は土の地面で、もちろん精一杯着飾ったドレスはぐちゃぐちゃに泥に汚れてしまうし、軽く捻ってしまったのか足も痛い。
 私は少し呆然と泥だらけになった自分の姿を見下ろしてから、悲しくて痛くてとうとうこらえきれずに泣き出した。
 そんな私に向かって殿下が放ったのは気遣いの言葉などではなく、これだから女は嫌なんだという冷たい声。
 この瞬間に私の中で王子様の美しい夢は、ぞっとする悪夢へと成り果てた。

 それ以来、父のお小言を無視して時に無難にすり抜け何とか殿下に接触しないように、接触しても最低限で済ませるように努力に努力を重ねて私は16歳になった。
 この頃にはジークウィーン殿下の傍若無人ぶりは社交界に広まっていて、特に女性蔑視の傾向の激しさはものすごいといわれるようになっていた。
 そんな中、私もとうとう正式に社交界にデビューすることが決まり、その挨拶のために再び王城を訪れた。
 結論を言えば謁見自体はとてもスムーズに問題なく済んだ。問題はその後だ。
 私は陛下と王妃様から直々に、ジークウィーン殿下とお話をしてみてくれないか、と頼まれた。
 どうやら殿下の態度について、そろそろ改善を試みなければならないと思っているようで、とりあえず女性とのおしゃべりというところから入らせてみようと考えたらしい。
 本音を言うのなら死んでもお断りいたします、と言いたかった。
 しかし私も貴族の端くれ、主君たる方々から直に頼まれて嫌だとは言えない。
 どうにか譲歩案として1時間だけという条件を引き出し、多少引きつったかもしれないけれど、何とか笑顔を浮かべて引き受けた。
 そうして王城にいくつもある応接室の1つに通され、待たされること30分。
 いきなり乱暴に扉が開いて驚く私の前に、大変不機嫌そうな殿下が現れた。
 呆気にとられた私をじろりと睨んで、そのままツカツカと早足で私が腰掛けていたソファの向かいまで歩いてくる。
 はっと気付いて私が立ち上がるのと逆に、どすんと乱暴に殿下がソファに腰を下ろした。
 挨拶を述べる私の声を遮って、殿下は自分は嫌々しょうがなく来たのだと、だから勘違いをするなと言い放った。
 私はあら奇遇ですね私もですよ、と言い掛けてさすがに止めて、しおらしくお礼を言ってみた。
 ビクビクとした侍女にお茶を入れてもらうと、それ以上は役に立たないと思い侍女を下がらせる。
 殿下と2人きりなどできれば避けたいところだけれど、何も咎のない侍女に被害が及ぶのは可哀想だ。
 そうして私は1つ、気になっていたことを殿下に聞いてみることにした。

「おひとつだけ、訊いてもよろしいでしょうか」
「……なんだ?」
「どうして殿下は女性がお嫌いなんですか?」

 まさか男しょ…げふんげふん。
 それはそれで、ある意味とても夢見れる事なのだけれど。
 殿下は心底嫌そうに、さらに馬鹿にしきった様子で鼻を鳴らして侮蔑の眼差しで私を見た。

「女はくだらない。暇さえあれば宝石にドレス、お菓子の話ばかりして、男に擦り寄ってたぶらかそうとする。なよなよと男に寄生して自分では何も出来ず、その癖にプライドだけは高い」

 お前もそうだろう、と決めてかかる視線に困ったように弱々しく微笑んで見せながら、内心では逆に鼻で笑ってやった。
 要するに殿下が認められるような女性というのは、毅然として自分の意見をはっきり言える自立した強い女性、ということだろう。
 頭の中でぐるりとそういう人物を検索してみて、思い当たったのは王太后陛下と王妃様の2人。
 思わず生ぬるい笑みを浮かべたくなるのを必死で堪えた。
 ああ、この殿下はマザコンなのか、と。

「お答えいただきありがとうございます。では気に食わないでしょうけれど、もう少しだけ、お約束の時間だけ私にお付き合い下さい。ですが、私と話をしようとしなくても構いません。何でしたら、別の用事をされても大丈夫です。それで私は両陛下に、殿下は私の父に顔が立ちますでしょう?」

 出来うる限り穏やかな微笑をにっこりと浮かべ、殿下が来るまで味わっていた紅茶のカップに侍女が用意して言ったティーポットから新しいお茶を注ぐ。
 これで殿下が出て行くなら非は殿下にあるのだから、私の知るところではない。
 飄々とお茶を楽しみ始めた私に戸惑った視線を向けた殿下だったが、苦虫を噛み潰したようにソファに座りなおした。
 そうして同じ部屋、対面にいながらそれ以降一言も喋ることなく予定の時間を無事に消化し、私と殿下は別れた。
 そうして私は改めて、あんな不躾で思いやりもないマザコン殿下に嫁ぐものかと心に誓ったのだった。

 それからまたしばらくの時間が過ぎ、父のごり押しと、その他諸々の事情から出席した園遊会で、私は遠めに殿下の姿を驚きの眼差しで見ていた。
 まぁよくもあの無礼者がここまで改心できたものだと。
 そうして必死に意中の女性に自分をアピールしようとしている姿に、爆笑してしまいそうになるのを堪えるのにひどく苦労した。
 あの殿下を可愛いと思う日がくるなんて!
 ―― 見事に空回りしている姿に扇を持った手が笑いを堪えてぷるぷると震え、翌日に腹筋が痛くなってしまったのはここだけの話だ。




                                      ありがとうございました!

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【2011/05/11 22:15】 | 頂きもの
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