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 リゼと紅緒の日常のほんのひとコマ、その二です。
 リゼ視点。
 本編の息抜きにでもお寄りください。

 愛してると言いなさい 



 はっ、と我に返るなり、リゼは慌てて立ち上がった。
 つい夢中になって古文書の解読に耽ってしまった。
 狭い家の中を見まわし、紅緒の姿を求める。
 
 いた。

 食卓にうつ伏せになり、「くー」と小さな寝息を立てている。どうやらリゼを待ちくたびれて寝てしまったようだ。
 テーブルの上には手作りの朝食と昼食。
 だが既に日は暮れて、まもなく夕食の時間帯だ。

「悪いことをしたな……」
 
 せっかくの食事が冷めてしまった。
 リゼは頭を掻いた。顔をしかめて額を小突く。紅緒はきっと何度も声をかけてくれたに違いない。だが研究や読書に一度没頭してしまうと周囲の声や雑音は遮断されて完全に自分の世界に入ってしまうときがある。
 これまで何度も同じ失敗を繰り返してその都度反省しきりなくせに、またやってしまった。
 せめて紅緒が滞在している期間中はこんなことのないようにしたいと心がけているのだが、如何せん、なかなか区切りよく中断できなかった。

「……それにしても、よく寝てるなあ」

 紅緒の顔にかかる髪をひと房、そっと耳にかける。
 顎から首にかけての細いきれいな線があらわになって、リゼはドキン、とした。
 ふっくらした唇を少しひらいて、眉尻を下げ、無防備に眠る姿はあどけなくて、かわいい。
 じっとみていると、時折、むにゃむにゃと口を動かし、眉根を寄せたり、頬をぴくぴくと引き攣らせたり、かと思うと、にこっと不意に笑ったりして、とんでもなく面白い。

「ぶくくくくっ……」

 リゼは口に手をあて、必死に声を堪えて、ひとりで肩を揺すって忍び笑いを漏らした。
 紅緒はなにか夢を見ているに違いない。
 いまはむすっとした陰気な顔で歯軋りし、咽喉の奥で唸っている。
 もう我慢できず、リゼは腹を捩って大笑いした。

 かわいい。かわいすぎる。

 リゼは衝動的に紅緒の唇を奪った。顔を寄せて唇に唇を押しあてたが、反応はない。

「……僕は知らないからね。君がかわいいのがいけないんだ……」

 愛しさのあまりより深く唇を重ねて吸うと、今度はピクリと反応があった。

「……ン……」

 リゼは唇の角度を変えて、紅緒の柔らかな唇の感触を味わい、もうちょっとだけと軽く啄ばみ、自制心がきかなくなる寸前のところで、渋々と身体を離した。

 起こすのは忍びない気もするけれど、これ以上遅くまで寝かせておくと後が困るかもしれない。

 リゼは紅緒に呼びかけた。

「ベニオ」

 白い桃のような頬を指でつつく。
 紅緒はいやがって鼻の頭に皺を寄せる。

「ぶはっ」

 面白すぎる。
 またつつくと、今度は顔を背けられた。
 そしてもぞもぞと動いて「うーん」と唸り、伸びをすると、紅緒はようやく眼を醒ました。

「……ふわあっ……ン、あ、リゼ、もう終わったの?」
「うん」
「ごはん食べるでしょう? 冷めちゃったから、いま温め直すね」
「ありがとう」
「座ってて。すぐ出来るから。あ、でも、いま何時なのかな。えっ、もうこんな時間なの? やだ、寝すぎちゃった。どうしよう、リゼ、晩ごはんも食べる?」
「食べます、食べます」
「チビクロは?」
 
 紅緒がきょろきょろすると、家の梁の上にいたチビクロがストン、と飛び下りて床に着地した。

「にー」
「ごめんね、いまごはんの支度するから待っててね」

 紅緒は愛猫を掌にすくってキスを落とすと、エプロンをつけて、手を洗い、早速厨房に立った。
 リゼはちょっと考えて、紅緒の隣にいった。腕まくりをする。

「僕も手伝うよ。なにをすればいい?」
「ええ? どうしたの、急に」
「少しでも君の傍にいたくてさ。あと、かわいい寝顔を見せてもらったから、そのお返し」
「寝顔?」
「いや、なんでもない。こっちの話」

 本当はなんでもなくないけれど。
 好きなひとの寝顔を独り占めできる、優越。
 好きなひととひとつ屋根の下で過ごす、時間。
 それは極上の甘い生活。


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【2012/01/04 00:14】 | 四年間の日常
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ワイニスト
 くふふ。
 またも甘くて酸っぱいリゼ紅コンビのシチュエーション。
 時々あるとなんだかホッとします。
 どんなに世界が大変なことになっていても、『愛してる~』だし、リゼと紅緒でいてほしい……そういう思いがあるんでしょうね、僕には。
 一読み手の、本音をちらり。

 ワイニストでした。

Re: ワイニスト様へ
安芸とわこ
 こんばんは、ワイニスト様! ご来訪ありがとうございます!
 
 本編、出番のないリゼを憐れんで? の小話です。
 まさにひとコマ。女の子の寝顔を盗み見してはいけませんの巻。笑。
 息抜き活用にしていただけたらさいわいです。

 本編、ここにきて停滞中。なんでだろう? 物語は出来ているのに、進まない。
 お正月ボケ??
 
 そうそう、私、実はUPされてすぐに >other side ≪Ruri Izumi≫ 読了済みなんですよ~。
 が、先行きを察するに、どうも痛々しい展開が待ち受けているような気がして、感想が中途半端になりそうで伺っていません。いや、それも、二人の間にあった避けられない衝突、になるのかな、と勝手に憶測しているのですが……一区切りつき次第、あらためて感想を、と思ってます。なぜだか、活動報告でちらっとおっしゃっていた感想云々~って、もしかして、私……? か、考えすぎ……?

 ともあれ、瑠璃編、お待ちしております。
 引き続きよろしくお願いいたします。
 安芸とわこでした。

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 ちょっと息抜き。

 本編より、番外編小話より、短く軽め。
 紅緒とリゼの四年間の日常のほんのひとコマ。
 リゼ視点です。

 愛してると言いなさい 

 

 

 リゼがそこに居合わせたのはたまたまだった。
 留守を預かっているはずの紅緒が家にいない。

 ――庭か?
 
 裏に回ってみる。
 最近、紅緒は野菜畑作りに精を出している。土を耕し、肥料だの、種だの、苗だのと忙しそうにしていた。魔法での助力は禁止をくらったため、いまのところリゼは手出ししていない。
 案の定、紅緒は裏にいた。だがひとりではない。眼元の涼しい、長身でがっしりした体格の青年が一緒だ。膝を折り、顔を寄せあい、手に土をすくって、真面目ながらも楽しそうに言葉を交わしている。青年の紅緒を見つめる眼には明らかに好意がこもっていて、リゼは瞬時に嫉妬に駆られた。

「この根野菜を育てるなら、もっと水は少なくていい。少し土が乾くくらいでちょうどいいんだ」
「そうなの?」
「肥料も――」

 リゼは「ベニオ!」と呼んだ。
 紅緒がリゼに気づき、ぱっと笑い、立ち上がる。青年がいかにも残念そうに講釈を中断し、曲げていた膝を伸ばす。むっつりとリゼを一瞥する眼にはひそかな敵対心がちらついている。リゼが魔法使いであることを知っていながらも、怯む気配はない。だが、面と向かって挑むには時期尚早と本人も自覚があるようで、会釈をするぐらいには礼儀正しさを欠いてはいない。

「こんにちは。お邪魔しています」

 リゼはにべもなく言った。

「そうですね。邪魔です。とっとと帰ってください」

 すると紅緒にきつく睨まれた。

「こら、失礼なこと言わないの」
「いいんだ。今日はもう帰るよ」
「またわからないことがあったら訊いてもいいですか?」
「もちろん。今度来るときは肥料の見本といい園芸書を持ってくる。俺、君の役に立てれば嬉しいんだ。ほら――君には結構、差し入れとか、もらってるしさ。他にも俺に出来ることがあれば、なんでも言ってくれよ」

 そう言って、爽やかにはにかんだように笑い、青年は帰っていった。
 青年を見送って、なにごともなかったように後片付けに入ろうとした紅緒の肩をリゼは掴む。

「なあに?」
 
 屈託ない顔だ。あの男の恋心などまるで気づいてもいない。
 リゼは不機嫌さを隠すことなく、苛々とごちた。

「あいつ、君に気がある」
「そんなわけないでしょ」
「そんなわけあるよっ。どーしてわからないかな!?」
「わかるわけないでしょ! ン、もう。なんでも色恋沙汰に結びつけるのやめてください。あのひとは、親切なご近所さんです」
「男がただで親切にするわけがないだろう! 下心があるに決まってる! だいたい、あいつだけじゃない。君にのぼせてぽーっとしてる奴が他にもまだいるじゃないか」
「い・ま・せ・ん」

 と、きっぱり宣言して、紅緒はリゼの主張を歯牙にもかけない。
 紅緒は手で土をぽふぽふと均(なら)し、シャベルやらバケツやらを片付けはじめた。
 リゼは紅緒にうるさくつきまとい、口を酸っぱくして言った。

「あのね、君は優しくてかわいいんだから、もっと警戒心を持ってくれないと困るんだっ。世の中の男どもは悪い狼! 不用意に近づくの禁止! 二人きりなんて言語道断! 阻止! 断固阻止!! 安全なのは僕だけですっ」
「はいはい」
「ちゃんと聞いてるのっ!?」
「聞いてます。ね、晩ごはん、なにがいい?」

 聞いてない。
 少なくとも、まともに取り合うつもりはないようだ。
 だが、罪のない無垢な瞳を向けられると、それ以上、怒る気にもなれなくて。
 いつもリゼはあっけなく白旗を掲げてしまうのだ。

「リゼ?」
「君には負ける」

 その天然鈍感なところも愛しく思うなんて、これが色ボケじゃなくてなんだというのか。
 リゼは紅緒の手から作業道具をひょいと奪った。

「僕が片づける。ベニオは先に家に入ってて」
「ありがとう」

 にこっと紅緒が笑う。
 いつまでも見ていたいような明るい笑顔。
 リゼもつられて笑う。

 なんてことのないやりとりが続く。
 それは幸福な一日。


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【2011/12/10 00:11】 | 四年間の日常
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紅梅
 紅緒ちゃんの天然小悪魔ぶりが・・・・。
 ある意味、気づかないって素晴らしい。リゼの嫉妬にも、気づいてる様子ないし。紅緒ちゃん、最強だ!!
 リゼ、苦労してたんだね。
 でもね? リゼが、一番危ないんじゃないかな!? 
 と思うのは、私だけでしょうか!?笑
 そんな、リゼも素敵ですけどね~

Re: 紅梅様へ
安芸とわこ
 こんばんは、紅梅様! コメントありがとうございます!

 わーい、いらっしゃいませ~。
 シリアス本編にお疲れの皆さまへ(それはおまえだろうというツッコミはなしの方向で)いつものゆるい二人をお届けします。

 ええ、紅緒、相変わらずニブイです。ほとんど犯罪なんじゃないかな。でもまあ、世の中には気づかない方が平和なことはいくらだってありますしねー!
 リゼも放置プレイされていてもまだ余裕あるし。もうしばらく苦労してもらおうかな。←悪。
 安芸が本編に疲れたらUPするかもしれないという、不定期更新まっしぐらの四年間の日常ですが、今後ともおつきあいいただければさいわいです。
 が。
 ご自身もお忙しいことでしょう!! 更新も忘れずにねっ。
 ではまた。
 引き続きよろしくお願いいたします。
 安芸とわこでした。
 

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