オリジナル小説サイトです。新刊書籍 王宮書庫のご意見番 恋するきっかけは秘密の王子様 発売中  異世界の本屋さんへようこそ! 全3巻 & 既刊 愛してると言いなさい全4巻 アルファポリス様より発売中です。よろしくお願いいたします
 書籍画像の入手方法を教えていただいたので、UPしてみました。
 貴重なアドバイス、ありがとうございます!
 
 5月26日発売しました ↓

アルファポリスHPよりダウンロード

 アルファポリス刊 書籍発売中です
 イラストレーター 甘塩コメコ様
 
スポンサーサイト

【2011/05/30 02:15】 | 日々あれこれ
トラックバック(0) |


くろアイルー
こんばんは♪
今日、書店に積んである"愛してる"を見て
ちょっとうるうるしてしまいました。(´ーÅ)
一緒にいた友人についぞオススメしちゃいました♪

リゼとの絡みが熱くてにやけてしまったなどは
きっと安芸さんの想定内かと思われますw
……いや、思ったよりもにやけ度は高かったはずっ!(〃▽〃)
はい、お馬さんだけぢゃここまでにやつきませんともw
チビクロのちっちゃさに萌えていたのもありますが……♡

より、色鮮やかになった方々に浸りつつ
次も楽しみにしております♪


Re: くろアイル―様
安芸とわこ
 こんばんは、くろアイルー様! コメントありがとうございます!

 わー! ちょっとぶりです、お会いできてうれしいです~。いまとっても疲れているので、おなじみの方にかまっていただけると癒される……。感涙。
 なにせ、ほら、さ、さぼっているわけじゃないんですけどっ、更新がままならず……っ。
 くっ。断腸の思いで、もうちょっとだけお休みさせてください。あと、6日で嵐が過ぎるので……!
 あ、でも、その前にちょっと活動報告だけしてきます。お暇があったら覗いてやってください。

 それはそうと。
 
 お友達にオススメありがとうございますー! 光栄です。えへ……。
 私、まだ書店巡りできてません。←告白。
 ちょうど時期が悪かったんですよね……私も愛してる~が店頭に並んでいるところ、みたいなあ。
 職場のある建物の中の本屋さんにはあるんですけど、なんだか身内? のような気がして、ありがたみが薄い……他の書店さんで見てみたいです。

 リゼ、いい思いしすぎ。笑。かっこよすぎ。イラストがまたすてきだから。やりすぎた感が……ジーク出遅れてますね、完全に。ガーデンパーティ編とデート編の強化でジークが追いつければいいんですけど。どうかなー? あ、でも、にやにや度UPでより愉しんでいただけたようでうれしいです。
 ちびくろ、ちっちゃっ! 安芸もイラスト見て、思わず探したほど。確かに、掌サイズ!!
 
 次。次です、次ですね。なぜに引きずる、デート編。
 早いところ終了させて第七章にいきたいものです。お付き合いいただけるとうれしいです!

 では、また。
 引き続きよろしくお願いいたします。
 安芸とわこでした。

コメントを閉じる▲
 おはようございます、安芸とわこです。
 
 遅くなりましたが、ご報告です。

 拙作 愛してると言いなさい 
 2011/5/26 書籍発売されました。 お世話になった方々、応援いただいた方々、早くも購読頂いたすべての皆さまに感謝申し上げます。ありがとうございました。

 本当にありがとうございました!!

 なぜか私の手元には昨日遅くに届いたという。笑。
 はっきり申し上げて、感動しました。
 自分の物語に感動ってどうなの? と笑わずに! 内容ではなくて、こう、形になったことに対して感動したと言いますか。それも、とてもかわいい挿絵つき、もったいないくらい華やかなカバージャケット。
 何日も徹夜したかいがありました。はは。
 支えてくれた家族のおかげです。感謝感謝です。

 で、せっかくブログを立ち上げたので、ここならば少しは愛してる~ネタを告白できるかな?

 興味のない方は回れ右をしてくださいませ。
 『どうでもいいわ、そんなこと!』な内容でしょう。なら書くな、というツッコミもあるかなあ、と思いつつ、ごく一部の方よりリクエストがありましたので、だーいぶ遅くなりましたが、思いつくままにちょっとだけ。


 以下、裏ネタです!


 裏話。


① 愛してる~は世界観設定を中世風、ただし、衣装はアジアン風にと、東西合わせ技です。
  だから、安芸愛用のファッション辞典より、
  アオザイ(ベトナムの民族衣装)→ ラミザイ
  旗袍(チーパオ。中国の伝統服)→ サラエン
  です。ただし、チーパオは手元の資料とネットなどで検索する画像がだいぶ異なっているため、一致しません。スィーラについてのモデルは、同じく中国の民族衣装です。
 というわけで、アレンジ含め、あんなです。
 当初の記載ではわかりにくかったためか、コメコ様(絵師様)もアジアン調だと思わなかったらしく、西洋ファンタジーな衣装で(それはそれで恰好よかったのですが)慌てて描き直ししていただきました。とても華やかに描いてくださってありがとうございますー!
 
② いただいた感想を見なおしてみると、もっといちゃ×を! が多かったので、改稿にあたり、増やしてみました。シチュエーションが重なって(特に部屋! ベッドの上!)いたため、展開場所をいじってみました。さりげなくね……気づいた方はいるかなあ?
  糖度UP、のつもり。リゼもジークも。ジークはまだbeforeなので、これ以上書けなくて残念。ガーデンパーティ終わったあたりから、ぐっと近づけるんですけどねぇ……。
 なので、ちょーっとリゼがいい目を見ています。

③ 挿絵。
  カトレーがいない!! 
  すみません。途中退場しちゃった……気が付いたら、リゼが3枚。カトレーの見せ場がなくはないけれど……アルディとのダンスシーンや舞踏会の夜の紅緒とジークの東屋でのどっきりやアビオンの博打、黒髪黒瞳の彼など、候補は色々だったのですが、諸々の調整もあっての6枚でした。
  ちなみに私は紅緒とリゼの額をコツン、と最後の一枚が好きです。

 長くなっちゃったから、今日はここまでに。
 
 近況は、昨日プレステージが終了したから、あとは本番を待つのみです。猛練習中です。← 趣味でちょっと踊っているんです。
 今日はお休み。新しい靴で靴ずれおこしちゃったから……痛いよう。
 書くことにします。出来れば新作を小説家になろう様に投入したいので、お気が向かれた方、覗いてやってください。
 アットホームコメディたまにラブコメ時々シリアスな和風ファンタジ―の予定です。
 どの辺が和風かと言うと、衣装! 大化の改新あたりと古事記な時代をごたまぜにしています。←どんなだ、それは。

 あ、そうそう。
 愛してる~の感想、厳しい書評などなど。お寄せいただければうれしいです。 なろう様でも、こちらでも。お待ちしてます。既に感想いただいた方、ありがとうございますー!!
 励みになりました。

 では、また。
 引き続きよろしくお願いいたします。
 安芸とわこでした。


追記を閉じる▲

【2011/05/28 03:02】 | 日々あれこれ
トラックバック(0) |


紅梅
あーきーさーまー!!!!!

届きました!!
激しい動悸に襲われました!!
読みました!!
昇天しそうになりました!!

なんですか!?
あのリゼや殿下達のかっこよさは!!
そして、紅緒ちゃんめっちゃかわいい~♪
アルディ、めちゃめちゃ可愛いよ!!

内容も、良いです!!!
読み終わっても興奮が止まりませんでしたw
ここが、違うとか探したりして読むのも楽しかったです。

ホントに、グッジョブ、安芸様ですよww

Re: 紅梅様
安芸とわこ
 こんばんは、紅梅様! コメントありがとうございます。

 滅茶苦茶熱い感想をありがとうございます! 紅梅様の迫力に圧倒されました。
 とっても喜んでいただけたようで、本当にうれしいです~。
 そう、恰好いいんですよ、皆。
 安芸は確かに細かくお願いしましたけど、コメコ様(絵師様です)は更に細かく描写してくださいました。なにせ、締切ぎりぎりのはずなのに、衣装の袖に模様を描いてくださったり、六枚目の挿絵で閉じていた紅緒の眼を開けて下さったり(土壇場での安芸のわがままでした)ほんっとうにぎりぎりまで丁寧に仕上げてくださったんです。ちなみに紅緒のモデルは宮崎あ○いちゃん。

 おまけ、どうでした? エピソード追加してみたんです。リゼ、かっこよすぎ? 苦笑。
 おお! 違う場所、わかりました? 通ですねー、紅梅様。
 
 よかった……愉しんでいただけて。ほっとしました。連載からご覧いただいている方々に「こんなの愛してるじゃない!」とどやされることだけが怖かった……だいぶ削りましたので。
 ご来訪もありがとうございます。また気が向かれたらいらしてください。
 引き続きよろしくお願いいたします。
 安芸とわこでした。
 

遅ればせながら・・・。
ワイニスト
安芸さん、こんにちは!

遅ればせながら、書籍買わせていただきました。
何かネットで買うよりも・・・・こう書店に置かれてるところ、見たくて。
しかし華やかな表紙にビックリ&ため息です。
そして・・・スイマセン、ワイニストは侮っておりました。紅緒ちゃん、もうちょっと普通っぽい娘を想像してた・・・・(謝)
24歳、恋愛経験少って設定はそういうことじゃないの?なんて・・・思ってました。ヤバ。
ともかく、これからは出勤の電車が楽しい時間に変わりそうなのでお礼を申し上げます♪
それとワイニストは最近『読もう』と『二次』のハーフ&ハーフな生活へと変わり始めております。
お暇なら、アノ激闘のG.W.の湯治がてら遊びにいらしてください。
では、私これから読書の時間ですので。
失礼いたしますー。

Reワイニスト様
安芸とわこ
 おはようございます、ワイニスト様! コメントありがとうございます!

 わ、お買い上げありがとうございます~! とっても嬉しいです。遅くなんてないですともっ。懇意にしていただいている方にお手元においていただけるだけで幸せ。えへ……。
 そう、カバージャケット、華やかなんですよー! もう絶妙な色遣い。コメコ様、すごすぎる!
 え!? 紅緒、普通ですよね!? 普通に可愛いですよねー!?
 そうそう! お誘いありがとうございます。さっそく、行って参りました。
  Love laughs at locksmith. - 年の差恋愛の始め方、続け方 -、読了済みです。せっかくだから、感想はあちらで! 

 ブログに感想はちょっとメンドクサイのにわざわざのお越し、うれしかったです。
 では、また!
 引き続きよろしくお願いいたします。
 安芸でした。
 

いえいえ実は・・・
ワイニスト
ワイニストです。
早速のお越し、ありがとうございました!
ワイニストはズブズブの素人なのでご指導いただけるのは本当にありがたいです。その件は、あちらで折り返しますが……
――――ちょっと言葉が足りませんでした。
『24歳、恋愛経験少』って、もうちょっと可愛くない設定かと思ってたんです……。
あんなに可愛いイラストになってたから、『これはちょっと非礼を詫びなければ……」と思った次第でして。
ゴメンナサイ、紅緒ちゃん。
それでは、ワイニストは逃げるように帰りますー。
ではまたー。

おめでとうございます!!
青崎赤斗
今頃ですが発売おめでとうございます!!

イラストかっこいい&かわいいっすね!!
まだ、買えていませんが、
買おうと思っています!!
今からワクワクしてますww

では、失礼しました^^

Re: ワイニスト様
安芸とわこ
 おはようございます、ワイニスト様! コメントありがとうございます。

 >『24歳、恋愛経験少』って、もうちょっと可愛くない設定かと思ってたんです……。

 紅緒、「普通です」って主張してますからね。笑。リゼは「かわいい」って言ってるんですけど、例のごとく、きいちゃいないんですよね~。
 普通に可愛いです。女性が一番きれいなのは、実はこの23、24歳。ぴかぴか、きらきらしています。
 
 そんな、逃げずとも! わざわざご来訪ありがとうございます~。
 またお気が向かれたときに執筆の合間にでもいらしてくださいっ。
 引き続きよろしくお願いいたします。
 安芸とわこでした。

Re: おめでとうございます!!
安芸とわこ
 おはようございます、青崎赤斗様! コメントありがとうございます。

 お祝いコールありがとうございます~。全然いまさらじゃないです、何度でもいつでもうれしいです。えへ。
 まだ、書籍になったこと&本編削除のことすら知らない方もいるのでは、と思うのですよね……。

 そう! イラストはかわいくてかっこいいんです! 挿絵もきれいです。コメコ様、ありがとうございますー!
 お買い上げは無理をなさらず。お財布に余裕のあるときに、ぜひ。ちょっぴりお高いから……←ぼそ。
 ああ、でも、本編おまけがあるんです! できれば感想伺いたいなあ……いつでもいいので、お気が向かれたらお願いします。

 では、また。
 引き続きよろしくお願いいたします。
 安芸とわこでした。

コメントを閉じる▲
前の話>>



 そして連れて行かれた王宮は四棟からなる巨大建造物で、いままで紅緒がみたこともないくらい豪華絢爛、堂々たる風格に満ちていた。
 
 王と王妃、それに王子の居室があり、執務室のある本棟。
 王宮で働く労働者のための、左翼棟。
 国王夫妻並びに王子の側近であり、更には国務の舵取りをする宮廷人のための、右翼棟。
 王室礼拝堂のある正面棟。
 そして、警備や憲兵、親衛隊、近衛兵他、軍事を司る兵舎である別棟。

 室内装飾は豪華絢爛、すべての調度が素晴らしい細工で、紅緒の眼には眩しすぎた。

「まず寛いでくれたまえ」

 と、アワードに案内された夏用の食堂で一服しているところへ、急に押しかけたものがあった。

「師がこちらにおいでとは本当か」

 ばたん、といきなり扉が開かれる。
 血相変えて息せき切って現れたのは、茶髪茶瞳、片眼鏡(モノクル)をかけた、リゼよりも背が高い男だった。濃緑のラミザイを着て涙型の銀の耳環を下げている。
 きつい眼つきでリゼを見つけるなり、瞳孔が開いた。

「お久しぶりでございます、師よ。お元気そうでなによりです」
「元気じゃない」

 男を見るなり、「ちっ」と舌打ちしたリゼは、おもむろに顔を背けて牽制した。

「言っておくが、僕はいま忙しいからな」

 紅緒は白と青と金に縁取られた素晴らしい陶磁器のカップでお茶をいただきながら「どこが?」と横で突っ込
む。
 すると男が紅緒に視線をやって、すぐさま腕を腹に添えて深々と頭を下げた。

「休息中、突然お邪魔して失礼しました。私はリゼ・クラヴィエ師が第四弟子、ラヴェル・イングレッサと申します」
「ベニオ・サガラです。ベニオと呼んでください」
「ありがとうございます。私のことは、どうぞラヴェルとお呼びください」

 ラヴェルと名乗った男は愛想よく微笑した。ついでつかつかとリゼの傍にやってきて、にこーと笑う。だが口元だけで眼はまるで笑っていない。

「ここで会ったが百年目、逃がしませんよ」
「百年も経ってない」

 リゼは焼き菓子を口に放り込み、もぐもぐしながら、眼を合わせようとしない。

「それでも、しばらくいらしてませんよね? その間、私はずーっと、放置されていましたよね?」
「おまえに任せていたんだ」
「また適当なことを……。まあ、いいでしょう。私は過ぎたことは申しません。なにぶん師はお忙しい方ですし、風の噂も耳にしております」

 そこで、ちら、と顔を窺われて紅緒は小首を傾げた。風の噂とはなんだろう?
 ラヴェルがこほん、と付け足したように咳払いする。

「こうして……噂の方を直に拝見できましたので、無粋なことは申しますまい」
「じゃ、帰れ。僕とベニオの甘いひとときが台無しだ」
「そうはいきません。仕事がたまっております」
「あとにしろ」
「いーえ。ここで逃がしたら最後、師は行方をくらますに決まっております。絶対そうです。どうか一緒に来てください、お願いですから」
「断る」

 しかしラヴェルも負けてはいなかった。リゼの耳元に口を寄せ、紅緒には聞き取れないほどの声で囁く。

「ただとは申しません。宮廷人の情報ではどうです? 師のベニオ殿に手を出しそうな、女たらし・口説き魔で有名な危険人物ばかりを網羅した一覧名簿です。見たくないですか……?」

 リゼの眼が喰いつくように、きらっと光る。

「名簿はどこにある」
「研究室に」

 リゼはがたん、と立ちあがった。

「すまない、ちょっと野暮用ができた。行ってくる」
 
 紅緒は頷き、ひらひらと手を振った。

「行ってらっしゃい」
「にー」
「僕がいなくても浮気しないでね」

 すかさず、紅緒の右の瞼の上にキスを落とす。素早いしぐさに、避ける間もない。

「こら!」

 リゼは笑いながら身を引いて、背を返した。

「部屋は同室にするように頼んでおいたから! 夜は一緒に寝よ」

 そしてラヴェルと二人、騒々しく出ていった。

「お弟子さんなんて本当にいたんだな……」

 紅緒はぽつんと取り残されてしまい、物思う。いるとは聞いていた。だが詳しいことはなにも知らされていない。
 温くなったお茶を啜る。
 チビクロは皿に盛られたビスケットをしゃくしゃくいただいている。

「私、リゼのこと結構なんでも知ってるつもりでいたけど、本当はそれほどじゃないのかも。どうしてかな? ちょっと寂しいね……」

 ぺろり、とチビクロが紅緒の指先を舌で舐める。なぐさめてくれているのだ。
 紅緒がポケットに忍ばせていた猫じゃらしでチビクロをかまっていると、侍女が来て告げた。

「陛下よりお使いが参っております」

 案内された居室で待っていたのは、二十数名の女性。紹介もそこそこに、脱がされ、頭のてっぺんから足の爪先まで、事細かに採寸された。更にどんな香りや石鹸が好みか、好きな花、食べ物の好き嫌い、嗜好、枕の硬さ、シーツの素材等、云々。あらゆる事柄を根掘り葉掘り訊かれた。
 そのあとは入浴。マッサージ付き。てきぱき動く侍女らに最高仕立てのサラエンを着せられて、屋上の小庭園が見える小さな部屋へ案内される。
 そこで待っていたアワードに王妃カルバロッサを紹介され、三人で食事。相槌を打つのもできないほど、ほぼ一方的にジークウィーン王子のことを聞かされまくった。


 


<< 次の話 
目次


追記を閉じる▲

【2011/05/18 04:33】 | 愛してると言いなさい
トラックバック(0) |
前の話>>



 眼下に広がる王都は、想像以上に整備された都市だった。

「すごい……」

 紅緒は思わず身を乗り出しかけ、リゼに肩を押さえられる。

「テス、サジェ、ゆっくり旋回してくれ」

 双頭の竜はやや高度を下げつつ、翼の抑揚のない水平な遊覧飛行へと移った。

「王都ラッセンシェルは、建設当初から機能的構想のもとに計画された都市で」

 と、リゼが紅緒を左腕できつく抱えたまま説明をはじめた。
 空いた右腕を伸ばし、指であちらこちらを示していく。

「市街の中央に建つのが王宮で、通称レンヴァルツ宮殿。市街全体を囲んでいる白い筋は環状道路。宮殿から幾筋も放射状に伸びている道は、それぞれ大建造物群に続いている。たとえば、一番手前に見えるあの建物は大聖堂。その隣の道は、貴族議事堂。他にも大図書館や魔法研究所、学校、美術館、歌劇場、広場、市役所、まあ諸々の施設が環状道路沿いに建てられているんだ。あとで君の好きなときに、案内するよ」
「うん、楽しみにしてる」
「さあ、じゃ、行こう」

 リゼの合図で、竜は下降した。地上が近づくにつれ、人々のどよめきや喚声が大きくなる。
 皆、急に空が陰ったことで上を見上げ、突然現れた竜の姿に驚きいっていた。
 双頭の竜が着地点に選んだ場所は、中央の王宮敷地内、ぽっかりと空いた緑の空間で、青々とした芝生の上に舞い降りた。

「送ってくれて、ありがとう。テス、サジェ」

 揺れないよう、落ちないよう、慎重に配慮された空の旅は快適だった。紅緒が礼を言うと、竜の鼻から息が噴き出した。

 ――我らに用のあるときは遠慮なく呼びなさい。
 
 と、テス。

 ――くれぐれも間違いのないよう、主を頼む。

 と、サジェ。
 リゼに抱きあげられたまま地面に立つと、降下の際の風圧に巻き込まれないよう距離を置いて待機していた一団が、わっと集まってきた。
 先陣切って駆けつけたのは、紫を纏った身なりのいい貫禄のある壮年の男で、まっすぐにリゼのもとにやってきた。

「リゼ! よくぞ来た、待ちかねたぞ!」
「出迎えはあなただけですか」

 対するリゼはそっけなく、冷ややかに、陰険な声で言った。

「招かれざる客には挨拶もない、と。いい態度の息子ですね」
「そう皮肉るな。あれは今日トラムに出かけておる。領地相続の件でひと騒動あってな、どうしても行かねばならなかったのだ。明日には戻るだろう。戻ったら挨拶にやる。それよりも――」

 男がそわそわしながら、きょろきょろと辺りを見回す。

「どこだ? おまえ推薦の『帰したくなくなる』ほどのいい娘とやらは?」
「眼の前にいるでしょう」
「え?」

 男の視線が下がる気配がし、しげしげと見つめられて、あんまりそれが長く続くものだから、紅緒はしまいにはいたたまれなくなった。
 そして一言。

「子供じゃないか」
「帰ります」

 リゼは紅緒の肩を抱き、即座に踵を返した。まだ居残っていたテスとサジェにその旨を告げる。

「用がなくなりました。このまま家に戻ります」
「わー、待て待て! 待てと言うのに!」

 焦って、男が止めにかかる。
 リゼは肩に置かれた男の手を払いのけながら、辛辣で嫌味のこもった蔑視を注ぐ。

「あなたの無礼さには呆れました。友達やめます。金輪際もう二度と、僕に関わらないでください」
「すまぬ! 悪かった、余の失言だ。許せ、この通りだ」
「どの通りでも許しません」
「リゼ、頼む」
「いやです。僕のベニオを侮辱したんです。許しません。罰します。覚悟しておきなさい」
「ベニオ?」

 男の注意が紅緒に振られる。困り果てた様子は、必死に紅緒の助けを求めていた。

「ベニオ殿とおっしゃるのか。すまない。余が軽率だった。わざわざ遥か遠方の地よりお呼び立てしておきながら、心なき言葉であった。幾重にもお詫び申し上げる」

 男が腰を折る。本当に反省し、謝罪しているのがわかった。

「頭を上げてください」
「そなたが許してくれるまで上げられぬ」

 なかなか頑固だ。紅緒は肩で息を吐き、口をきいた。

「許します。いいでしょう、リゼ」
「許さなくていいんですよ、そんな男。あとで僕が絞めてあげます」
「私がいいと言っているんだから、いいの。リゼも許してあげて。それから、お友達に、罰するとか、覚悟しろとか言うのもやめなさい。物騒でしょ」
「物騒でも本気なので」

 リゼは反抗的に眼を怒らせたが、紅緒にたしなめられると、渋々従った。
 紅緒は男に向き直って告げた。

「私、身体は小さいですけど、これでも二十四歳です」
「えっ。あ、いや、そ、そうなのか。では、そなたの方が王子より三つほど年上だな」

 男は咳払いをして、朗らかに表情を取り繕う。

「年も近いことだ、きっと仲良くなれよう。どうか王子をよろしくお頼み申す」

 紅緒は黙っていた。ある単語が消化できず、前を向いたままリゼを呼ばわった。

「リゼ」
「はい」
「王子って、どういうこと? あなた『友達が息子さんの件で困っているから助けてあげたい』って、言わなかった?」
「嘘は言ってない」

 開き直って、やけくそ気味で、リゼが男を見る。

「(一応まだかろうじて)友達。で、息子が王子」
 
 と言うことは、眼の前のこの人物はダスタ・フォーン国第九十三代アワード国王陛下――。
 紅緒は茫然とした。頭が真っ白になって、思考が飛んだ。隣ではリゼが俯き加減に指をいじりながら、ぐずぐずとなにか唱えている。

「……だって君、王族を相手にするなんて言ったら絶対引き受けてくれなかっただろう? だから黙っていたんだ……お、怒らないで……」
 
 アワードが控えめに、だが品位のある物腰で場を取りなしてくる。

「余がそうしてくれと頼んだのだ。リゼを責めてくれるな」

 そして恭し(うやうや)く紅緒の手を取り、指先に口づけた。

「改めてご挨拶申し上げる。余はダスタ・フォーン国第九十三代国王、アワード。息子の名はジークウィーンだ」

 ジークウィーン・テラ・リュッセル・ダスタ・フォーン――正当なる第一王位継承者。
 くらりと眩暈がする。
 まさかこんなことになるなんて、と後悔しても後の祭りだった。



<< 次の話 
目次


追記を閉じる▲

【2011/05/18 04:27】 | 愛してると言いなさい
トラックバック(0) |
前の話>>




「えっ」

 びくっとして、自分の恰好を見おろす。髪に手をやり、ほつれを気にしながら、なにがどうおかしいのか、うろたえながらあちこちを見る。

「ど、どこがひどいの。なにか変? なにが変?」

 自分ではまあまあ似合っている、と思っていただけに、ショックだ。

「君は……っ」

 眦をきつくして、リゼが唇を真横に引き結ぶ。力ずくで傍まで引き寄せられて、互いの身体の距離間がほとんどないほど密着した。

「君は……っ、ひどい! なんでそんなにかわいくなるんだ! 人前に出るのにわざわざきれいにするなんておかしいだろう!」
「おかしいのはリゼの方! 人前に出るからきれいにするんじゃない。なに言ってるのよ、もう」
「僕は、そんなにきれいな君を他の男に見せるなんて、嫌だ」

 紅緒はこめかみを押さえた。頭痛がする。毎度のことながら支離滅裂な言い分だ。

「……あのね、言っておきますけど、私の容姿は十人並みです。私をきれいなんて褒めるのは、あなたぐらいだから。それ、完全に身内の欲目。外でそんなこと言ったら笑われるのは私よ?」

 紅緒は大きな溜め息を吐いてリゼから離れ、荷物をその胸に押しつけて、鮮やかに半身を翻した。

「テス! サジェ!」

 双頭の竜――雲ひとつない青空に映えるダークアイアンの体躯は光を乱反射している。一枚一枚が涙型の鱗はギザギザで、触れると怪我をしそうだ。
 知的で智慧深いトパーズの瞳が紅緒を捉えて、わずかに和む。

 ――息災か?

 と思念波で訊ねてきたのは、右側の竜、テス。

 ――すまぬ。主がまた無理を申しているようだな。

 と常日頃より苦労性なのは、左側の竜、サジェ。
 紅緒は屈託なく微笑み、両腕を天に向けてひろげ、差し上げた。

「会えて嬉しい。元気だった?」
 
その手に擦り寄るように、二竜の頭部がわずかにくねって下がる。

「……あんまり甘やかさないように」

 いつのまにか背後にぴたりとついていたリゼの手が、紅緒の口元をそっと塞ぐ。

「……キスとか、しないでくれ。妬ける」

 いちいち言うことが細かくて正直鬱陶しいものの、反面、リゼはなんでも思ったことを口に出すのでわかりやすい。肩越しにちらりと一瞥すると、ぶっきらぼうな口調の通り、完全に拗ねていて、いかにも不機嫌そうだ。
 思わず紅緒はくすりと笑った。ちょっと叱られたくらいでへそを曲げるなんて、子供と一緒なんだから。
 そう言うとむきになってまた怒るだろうから言わないが。なにせ相手は、実年齢不明なほど、年上なのだ。本当はもう少し敬って距離を置くのが当然なのだろう。
 そこへ、脳裏に響く声なき声。水に通る波紋のように、するりと届く。

 ――乗りなさい。

 と、出発を速やかに促したのはテス。
 
 ――主(あるじ)よ。その者をあまり苛めるでない。嫌われようぞ。

 と、辛口の忠告をしたのはサジェ。
 リゼが無言で動く。すっと膝を折って身を屈め、紅緒を両腕に抱きあげて、地を軽く蹴る。重力に反した放物線を描きながら、竜の背に飛び移る。

「にー!」

 地上では取り残されたチビクロが抗議の声を上げたが、リゼはおとなげなく無視を決めている。
 紅緒の頼みでサジェが頭を下げて乗り移らせ、チビクロもまた無事に紅緒の手の中におさまった(ち、と言うリゼの舌打ちを、紅緒は聞かなかったふりをする)。
 リゼはあらかじめ用意してあった大きめのクッションの上に胡坐をかいて座る。

「おいで」

 優しく差し伸べられる手に紅緒は自分の手を重ねた。リゼが紅緒を自分の前に座らせ、後ろから抱きすくめる姿勢だ。身長と体格差により、紅緒はリゼの身体にすっぽりと隠れてしまう。

「もうちょっと離れてください」
「危ないからだめだね」

 紅緒は若干居心地の悪さを感じた。いくら相手がリゼとはいえ男性にさほど免疫があるわけではないので、この体勢は気恥ずかしい。そう言うと、リゼはにやりとして、いっそうぴったりくっついてきた。

「揺れるから」

 しゃあしゃあと、こう述べる。紅緒に睨まれてもどこ吹く風だ。
 竜の翼がひろげられる。緩慢だが優美な動き。ばさっ、と一度の羽ばたきで高々と宙に浮き、そのまま高度を上げて、ゆるやかに飛翔した。風が正面からぶつかってくる。地面は既に遠く、雑音も途絶えた。
 しばらくのんびりした飛行を楽しんでいると、リゼが紅緒のうなじに鼻筋を近づけてきた。

「……甘い匂いがする。それに柔らかくて温かくてふわふわして……君の身体は気持ちいいな」
「そ、それ以上、近寄っちゃだめ」
「なぜ? 僕、ちょっと齧ってみたい」

 そしていきなり、かぷっ、と耳たぶを甘噛みされた。

「リゼっ!」
「ははははははははは」

 リゼの屈託ない高笑いが蒼穹に吸い込まれてゆく。
 いつも通り仲良く喧嘩する二人と一匹をのせて、双頭の竜は、一路、王都へと向かった。




<< 次の話 
目次


追記を閉じる▲

【2011/05/18 04:19】 | 愛してると言いなさい
トラックバック(0) |
前の話>>


    
「なにを着ようかな」

 ベッドの下に収納していた衣装箱を引っ張り出して、一着一着眺めながら、紅緒は悩む。
 こちらの世界の標準服はラミザイといって、男女ともに立ち衿で丈が長く、両脇にスリットが施された上衣に下衣はゆったりとしたズボンを合わせるもので、男性は腰に太いベルトを締め、女性は細い飾り紐を結ぶ。
 身体のラインがすっきりと見えるし動きやすいため、紅緒は割と気に入っていた。
 だが今日は人と会うので、ラミザイより少し格式の高いサラエンの方がいいかもしれない。
 サラエンは、ワンピース型の長衣で、袖はちょうど振り袖のように長方形に長く、丈は踝(くるぶし)である。でも両裾にスリットが入っているので、歩きにくいことはない。右前を飾り紐で留める形式で、ラミザイより多少動きにくい。

「ね、どっちがいいと思う?」

 紅緒はベッドの上に足を揃えてちょこんと座るチビクロに訊ねた。
 すかさず、リゼが抗議の合いの手を入れて来る。

「待ちなさい! 服を選ぶのに訊くのならまず僕だろう! なんでそのチビに訊ねるんだ? 理不尽だ! 猫贔屓だ! 僕は断然抗議する」

 リゼの大真面目な主張に、紅緒はやや呆れ気味に言った。

「……チビクロと張り合うのってどうかと思うけど。そんなにむきにならなくてもいいのにね?」
「にー」
「うるさいぞ、おまえ」

 ばちばちと、火花を散らすひとりと一匹。
 紅緒はチビクロを掌にすくって抱き寄せ、上目遣いにリゼを振り仰ぐ。

「はいはい、じゃあリゼはどっちがいいと思うの?」
「僕はこっちだ」

 言って、後ろ手に隠していたものをさっと取り出す。見たことのない深い紺青のサラエンだ。
 白銀の糸で細やかな花の刺繍がしてあり、手触りが柔らかく、上質な光沢がある。

「どうしたの、これ」
「君に似合うと思って仕立てた」
「また無駄遣いして」

 きっ、と睨むと、リゼは慌てたように言い繕った。

「違う。これは、前回までの給料の一部だよ。たまにはこんなのもいいかなーと思って。君になにが欲しいのか訊いても、たいてい僕の研究試作品や消耗品やら実用品ばかりだから……」

 紅緒は口を横に結んで、じっとリゼを凝視した。
 貨幣価値の違うあちらとこちらでは、お給料が現金ではあまり意味がなく、そのため紅緒はほとんど物品支給でもらっていた。自動翻訳通訳機や警報装置付きの指輪、疲れない靴、肌のきれいになる石鹸、その他もろもろ。お金はこちらで不便がないよう買い物できるぐらいの金額(それでも四年も貯めれば結構まとまった額になった)しかもらっていない。
 リゼは大きな図体のくせに縮こまって、俯き加減に指をいじっている。

「あの、それとも、やっぱり気に入らない?」
「そうじゃなくて。こんなに高そうなものは受け取れないの。私の仕事に見合ったぐらいのものじゃないと、だめよ。こういう特別な品物は、恋人とか、奥さんにあげるものでしょう? ただの仕事の助手にはすぎた贈り物です」

 紅緒がきつい口調でたしなめると、リゼは眼に見えてしょんぼりしてしまった。
 手の中のチビクロが場を取り繕うように「にー」と小さく鳴く。

「だから、今回だけね?」
「え?」
「今回だけ、受け取ります。ありがとう。きれいな色……あなたの瞳みたい」

 はにかむように紅緒が微笑すると、リゼが弾けたように表情を明るくした。

「いや、君の髪の色だよ。光に透けると、そんな感じに見えるんだ」
「そう?」

 はしゃいだリゼは、膝をついて屈んでいた紅緒の腰を一気にさらった。

「ひゃあっ」

 と色気のない悲鳴が口をついて出る。紅緒はウェストを抱えられ、軽々と振り回された。

「僕の見立てだ、絶対似合うと思うんだ! あ、よければ着せてあげようか?」
「遠慮します!」

 べし、とリゼの顔面に平手打ち。
 それでもまだリゼは声を立てて笑いながら、ぐるぐるまわっている。

「……そんなに嬉しいの?」
「だっていつ渡そうか、ずっと機会を待っていたんだ」

 そう言うと気が済んだのか、トン、と紅緒を床に下ろす。

「……君の喜ぶ顔が見たかったんだ」
 
 リゼは紅緒の肩に顔を埋めた。囁く声は小さすぎて、紅緒の耳には届かない。

「さ、じゃ、着替えてください。僕は外で待ってるから」
「うん」
「ああそうだ。王都まで行くのに、飛竜と魔法と、どっちがいい?」
「竜」
「わかった。じゃ、呼んでおく。あ、戸締りもよろしく」
「了解です」

 片手をあげてリゼが踵を返す。が、すぐに戻ってきて、チビクロを鷲掴みにして出ていく。
 紅緒は腕に広げた紺青のサラエンを眺めて、大事に着よう、と心に決める。
 着替えをしながら、今回の滞在予定が完全に狂ってしまったことを考えた。いつも通り二連泊して帰るつもりだったので余分な下着を持ってきていない。

「向うに着いたら買いに行かなきゃ」

 よく話を聞いていないのでなんとも言えないが、いったいどのくらいの雇用期間なのだろう。

「引き受けるにしても、あんまり長くないといいな。こっちの空気に慣れすぎると困るもの」
 
 だが、リゼはたぶん帰したがらない。あの手この手で(しまいには泣き落としという最終技さえ辞さず)引き止めにかかるだろう。それを思うといまからもう憂鬱だ。
 髪を結い上げ、ゆるくまとめて、化粧してから着替えた。身支度を整え、窓の鍵や火の元を点検し、小さな手荷物ひとつ下げて表に出る。
 途端に、むっとした生き物の強い臭気を嗅ぐ。頭上に覆いかぶさる大きな影にはっとする。
朝の透明な光線を一身に浴びながら視界を埋めるのは、翼を柔らかに折りたたみ、しなやかな長い首をこちらに向けて座している、勇壮なる双頭の竜――。
 紅緒は自然と顔をほころばせて、そちらに駆け寄ろうとした。
 その矢先、空を泳いだ手首をぱし、とリゼに掴まれる。なぜか、真顔。遠慮のない眼でまっすぐに紅緒をまじまじと見つめて、打ちのめされたような悲愴な表情を浮かべている。

「どうしたの?」
「ひどい」


<< 次の話 
目次


追記を閉じる▲

【2011/05/16 06:27】 | 愛してると言いなさい
トラックバック(0) |
前の話>>



      三


 窓拭き・掃除・整頓・トイレとお風呂掃除、食糧庫と氷蔵庫の整理、洗濯・郵便物の種分け。  
 ここまで終えると、お昼をまわった。昼食には、こちら流でパンケーキを焼いた。ハチミツと山羊のバターをたっぷり塗って、チビクロに与える。それから、見た目はメロンで味はモモな果物アハルの皮を剥き、小さく切り分けて、これも添える。

「お茶もいる?」
「にー」
「はいはい」

 チビクロはひとと同じものをなんでもよく食べる。猫が雑食であることは知っていたものの、それにしても、本当に好き嫌いがない。ミルクよりお茶を好むし、辛いものもいける。熱いものはやはりだめだが、冷めるまで待って、きれいに平らげる。足りなければ催促し、おかわりまで要求してくるのだから、食事相手としてもまったく不足がない。

「おいしい?」
「にー!」
「よしよし」

 紅緒は食卓につき、銀製のフォークでパンケーキを口に運んだ。ちら、と奥のベッドを眺めるが、リゼが起きて来る気配はない。いつもであれば食べ物の気配には飛びついてくるのに。
 大魔法使いを名乗るリゼの助手になってから、四年が経過した。出会った当初はもっと違った間柄だったのだけれど、色々あっていまの形に落ち着いた。付かず離れず、浅くも深くもない、好き勝手言い合える、居心地のいい関係。
 でもここ最近のリゼはちょっとおかしい。情緒不安定気味というか、とにかく頻繁に喚びたがり、会いたがり、どこにでもくっついて歩いて、しまいには帰したがらない。
 そして紅緒の眼の届かないのをいいことに、自愛には無頓着という悪習に拍車がかかっている。

「いつか本当に倒れるかもなぁ」

 こくこくと、冷やしたお茶を飲む。
 この懸念が杞憂ですめばそれに越したことはないものの、このままいけば、近い将来には現実のものになりそうで心配だった。そのとき近くにいれば助けてあげられても、遠く離れた世界にいては、それもままならない。そもそもリゼの力なくては、こちらに来ることすらできない。
 紅緒は食卓上で皿についたハチミツを舐め取っているチビクロに話しかけた。

「誰かずっと傍にいてくれるひとを探せばいいのにね? かわいいお嫁さんでももらえば、私にがみがみ言われなくてもいいと思うんだけどな」
「……にー」
「でもそうしたら、私がここに来る理由がなくなるかあ」

 途端に、焦った様子でにょーんと皿を飛び越え、チビクロが胸にしがみついてきた。

「にー! にー! にー!」
「どうしたの? だ、大丈夫よ、すぐにはそんなことにならないと思うから……」

 チビクロの小さな頭を撫でながら、紅緒は棚上げされているさっきの件を思い出した。

「……女嫌い、か。私なんかでどうにかできるとも思えないけどな」

 正直、この話をもちかけられたこと自体が問題だ。リゼの研究の手伝いや家事だけでも、精神的・体力的にもめいいっぱいなのに、それ以上となると、こちらに滞在する時間がいまより格段に長くなるだろう。あまり長居すると本当に帰れなくなりそうで怖いのだ。

「……でもリゼのお友達の頼みだったら、このまま黙って見過ごすなんてできないし……」

 そんな具合に、思考はループする。結局、パンケーキを食べ終えて食器を洗い終えたときには、

「会うだけ会ってみて、無理そうだったら断ろう」という前向きだか後ろ向きだかよくわからない結論に至った。
だが考えがまとまったことで、午後の仕事はよくはかどった。

 調合薬含む備品の在庫リストをまとめ、一週間分の研究記録に眼を通す。家の裏手の菜園にいって雑草を摘み、水やりをして、楕円の形で色がピンクのナスをたくさんもいで、かごに盛った。他にも、キャベツ・タマネギ・トマト・ウリ、に似て非なるもどき野菜を収穫する。
 チビクロを連れて散歩を兼ねた買い物に行き、帰って夕食の支度にとりかかる。全部が出来た頃になって、ようやくリゼがのっそりと起きてきた。髪も服も寝乱れたまま、足をひきずるように厨房に現れて、ぼーっとしている。

「よく眠れた?」

 紅緒はちょうどシチューの味見をしていて、お玉と小皿を持っているため、両手が塞がっていた。

「……よかった」
「なにが?」

 リゼの腕が問答無用で伸びてきた。と、逃げる間もなく、不意に後ろから抱きしめられる。
 腰にまわされた手と、肩の付け根を押さえつける手の力は痛いほど強く、ただでさえ相手との体格差があるので、すっぽりと懐におさまってしまう。
 髪をまとめあげていたので、首筋は無防備で、そこにリゼの顔が押しあてられ、息が耳にかかる。寝汗をかいたのか、少し汗臭く、肌がしっとり湿っていた。紅緒にその気がなくとも、こんなふうにされればやはり動悸は激しくなるもので、鼓動が早鐘を打っている。

「な、なに? どうしたの? 怖い夢でも見た?」
「うん」
「どんな夢?」
「君が、僕を置いていく夢」
 
 この会話ははじめてではない。
 前にも何度か同じことがあって、そのたびに紅緒は同じセリフを繰り返してきた。

「ちゃんとここにいるじゃない」

 リゼがけだるげに息を吐く。耳に吹きかけられたようで、少しくすぐったい。

「そうだね。でも……今日の夢はいつもと違って、君が自分の代わりにって、見ず知らずの女を嫁に寄こしてとっとと踵を返して帰っていったんだ。ひどいよね」
「えっ……と」

 咄嗟に言葉が出てこない。若干後ろめたい気持ちがするのは、まさにその通りのことを独りごとにせよ口に出してしまったからで。
 リゼは忌々しそうに舌打ちし、腹立ちをおさめられないようだ。

「薄情すぎるだろ? 僕は君がいいんだって何度言っても信じてくれないし」
「……そ、そうね。薄情、かな? わかった、今度からそういうこと考えるのやめる……」

 空気が固まる気配。
 心なしか部屋の気温が下がった。
 リゼの凭れていた頭がゆっくりと離れる。問答無用で身体を反転させられ、向き合わされる。リゼはおもむろに跪いて、両手を拘束されたまま顔を覗き込まれた。
 紺青の眼が鋭い光を放っている。

「そんなこと考えていたの?」
「ちょっとだけ」
「へぇ……」

 ぞくっとするほど、冷たい微笑。やや首を傾けたしぐさが、妙に艶っぽい。

「僕、何度も言っているよね? 君の代わりはいないし、いらないんだって。とにかく嫁だろうとなんだろうと、君以外の女は必要ない。もっと言うなら、君をどんな形でも失うくらいなら、それを阻止するために僕はなんだってやっちゃうからね」

 にこ、と口辺をあげて笑うリゼの眼は、だが怖い。
 しかしそれも一瞬でリゼは膝を払って立ち上がると、急に話題を変えた。

「だから、君が嫌ならさっきの話も反故でいいよ。断るから。悩ませちゃってごめん」
「あ、それは――」

 リゼがいつものように飄々とした態度をとってくれたことに胸を撫で下ろしつつも、心臓がうるさくて息が継げず、すぐには言葉が続かない。
 リゼはなにも言わず待ってくれている。紅緒は落ち着いて呼気を整えてから、口を切った。

「その話なんだけど、会うだけ会ってみようかな」
「本当に?」
「ん。だって、リゼのお友達の息子さんなんでしょ? なんとかしてあげたいかな、って。でも、会ってみてやっぱりだめだと思ったら、断ってもいい?」

 リゼがすごい勢いで首肯する。
 紅緒は自分がお玉と小皿を持ったままで、鍋が火にかけっぱなしだったことにはたと気がついた。

「シチューが焦げちゃう! リゼ、お腹すいたでしょ。手と顔を洗ってきて。今日の献立は野菜シチューと甘酢のワニ肉団子です。冷めないうちに食べよ。チビクロも! おいで、ごはんだよー」
「ベニオ」
「え?」

 隙があったのかもしれない。
 リゼが、ちゅ、と頬にキスしてきた。

「ありがとう」




<< 次の話 
目次


追記を閉じる▲

【2011/05/16 06:21】 | 愛してると言いなさい
トラックバック(0) |
前の話>>



 びくりとする。紅緒は身体を引こうとしたが、リゼはそれを許さない。

「相手は誰? どっちの世界の男?」

 厳しく冷たい声だった。紅緒は射竦められたまま、だがかろうじて、突っ撥ねた。

「そんなの、気にしなくていいです」
「いーや、気になる。白状しなさい、いますぐに」

 頭ごなしの発言がむかついた。紅緒は空いている方の手で、ぺし、とリゼの手をはたき落とす。

「プライベートです。喋る必要ありません」

 すると、音を立ててリゼが立ち上がり、蹴るように椅子をどけて紅緒の肩を掴んだ。身動きが出来ないように、押さえつけられる。

「どうしても言わない気なら……」

 殺気だったまなざしで凄むリゼは、別人のようだ。紅緒はかろうじて首を振るしぐさをしたが、威圧され、言葉が出てこない。
 そのとき、小さな黒い影が視界を斜めによぎった。

「っ」

 咄嗟に、リゼが首を後ろに反らす。肩を拘束していた手が浮く。
 紅緒はその隙に逃げた。鋭敏な動作で床に軽やかに着地した小さな黒い影に眼を落とす。

「チビクロ!」
「にー」

 咽喉を鳴らして応えるのは、掌サイズの華奢な黒猫。紅緒のオスの愛猫で、こちら世界のペットだ。なぜかリゼとは折り合いが悪く、紅緒滞在時しか家にはいつかない。不思議なもので、紅緒が召喚されるとすばやく察知して、どこからともなく現れる。

「ありがとう、助けてくれて」

 黒猫チビクロを抱き上げ、ちゅ、とキスする。

「あーっ。ずるい! なんでそいつにキスなんて」

 紅緒はチビクロを胸に抱きしめたまま、リゼから確かな距離を取って言った。

「リゼ、怖い」

 半眼で、眦に力を込めて涙が滲むのをこらえながら、震える声で訴える。
突如として我に返ったリゼが、大仰に万歳をして大きく、ざっと飛び退いた。

「ご、ごめん」

 おたおたするさまは、いつもの少し情けない雇用主だ。
ばつの悪そうに頭を掻きながらリゼは謝った。

「悪かったよ――つい、あの、動揺して」

 それでもまだ紅緒が警戒を解かないでいると、リゼは天井を仰いで嘆息してから、交差した腕で顔を覆った。居心地のよくない、ぎすぎすした沈黙。ややあって掠れた低い声が耳に届く。

「君に触れた男がいるかもしれないって……そう考えたら、逆上しないではいられなかったんだ。君を脅すつもりじゃなかったけど、怖がらせたみたいで本当にごめん。許してくれないかな」
「……許してあげる」

 紅緒は抗議を唱えて「フーッ」と気色ばむチビクロを優しく撫でながら、リゼの傍にいって「顔を見せて」と言った。リゼが腕の力を抜いて、身体の脇に垂らす。紅緒に向けるまなざしは後悔と反省の色も濃く、そしてやるせなさそうな光を浮かべている。

「……リゼって」

 紅緒がくすっと笑って曰く、

「こちら世界での私のお父さんみたい」

 その瞬間のリゼは見物だった。

「――お、おとっ……お、父さん?」

 奇怪な人面岩ハンマーで頭を殴られたって、これほどの衝撃ではないだろう。というくらいに眼を剥いて、あんぐり口を開けたまま、絶句してしまう。
 紅緒は微笑みを残したまま、トン、とリゼの胸を指で軽く突いた。

「だってあんなに血相変えるくらいだもの、私が悪い男に引っかかってないか、心配してくれたんでしょう?」

 リゼは過呼吸に陥る寸前のところを踏ん張って持ち直し、懸命に否定した。

「ち、ちがっ。な、なんでそうなるんだ? お、俺は――いや違った、僕は、単純に面白くなかったんだぞ! いわゆる嫉妬で頭が狂ったアホな男、ってわざわざ自分で言うまでもないけど、つまり昂る衝動を抑えられなくて、君を無茶苦茶にしたいな―なんて、思ったような、思わないような……えーと、とにかく、お願い、『お父さん』はやめて……」

 なぜだか涙目になって懇願してくるリゼは、哀愁を漂わせていた。
 紅緒は「はいはい」と適当な返事をして、くしゃっと前髪を撫でた。リゼはされるがままだが、虚空に向かって、つらつらと独りごとをごちている。

「……ない、ないだろ。なんだって、お父さん……なんでこうなるんだ。ニブイ、ニブすぎる。お父さんって、お父さんって、それって眼中にないってことで……いやいやまさか……」

 ふと、リゼの顔色の悪さが気にかかった。ずっと口おかず喋っていたので見過ごしていたが、唇が青みを帯びて
いる。顔もよく見れば、土気色。

「……まさかとは思うけど、食べていないだけじゃなくて、寝てもいないの?」

 指摘が図星だったのか、リゼはぎくりとして怯み、眼を泳がせた。

「えーと」
「正直に言いなさい」

 追及すると肩をすぼめて、両手を差し上げた。降参のしぐさだ。

「……君が隣にいないと眠れない」

 言いにくそうに呟いて、そっぽを向く。

「それに、研究も佳境だったし、色々と忙しくて――」
「言い訳しないで、寝なさい! 信じられない、一週間も寝ないなんて倒れるでしょっ。どうしてそう無茶なことするの」

 紅緒はリゼをベッドまで引っ張っていって、強引に横にならせた。

「食べて寝る! 私がいなくても最低限それだけは守りなさいって、あれほど言ったのに」

 だが、リゼは素直に寝ようとせず、子供のように愚図った。

「せっかく君が来ているのに僕だけ寝るなんて、つまらない」

 今度は紅緒が凄んで見せた。

「ね・な・さ・い」
「……はい」

 紅緒のただならぬ剣幕にたじろいで、リゼはおとなしく従った。そのまま、ほどなく寝入る。
 紅緒は血色の悪い、疲れ切ったリゼの寝顔を眺めて考えた。リゼは人間があまり好きじゃない。よそで愛想よくしている姿など見たことない。そのリゼの口から、友達なんて言葉を聞いたのは本当にはじめてのことだった。
 思えば、アルバイトで雇われの身であるとはいえ、リゼには世話になりっぱなしだ。なにか自分で役立てるなら、その友達のためと言うよりも、リゼのために力を尽くしてあげたいと思う。
 紅緒はリゼの鼻の頭をつついた。あとでもう一度話をしてみようか。

「とりあえず、あちこち中途半端な仕事を全部片づけちゃおうかな。ね、チビクロ」

 左肩という定位置にちょこんとのっかっている黒猫は、きちんと紅緒の言葉を理解しているかのように「にー」と鳴いた。




<< 次の話 
目次


追記を閉じる▲

【2011/05/16 06:03】 | 愛してると言いなさい
トラックバック(0) |
前の話>>



 ぐっと身体ごと引き寄せられて、両方の二の腕をがっちり掴まれる。斜め上から見下ろされたが、紺青の眼は怒っているように黒々と燃えていた。
 わけがわからず、紅緒は不可解そうに眉をしかめて身動(みじろ)ぎする。

「ちょっと力ゆるめて……なあに、急にどうしたの?」
「行かせないから、絶対」

 声に切羽詰まったものが混じり、ぎゅっと細められた眼は物思わしげで。その様子が狂おしく、あまりに必死だったので、紅緒は間もなくほだされた。

「わかりました、行きません」
「……本当に?」
「行かせたくないんでしょ?」
「うん」

 紅緒は溜め息をついて「しょうがないなぁ」と続けて言うことに。

「寂しがりやなんだから、もう」
「……は?」
「寂しいんでしょ? 置いていかれるのが」
「いや、まあ、君がいないならそりゃ寂しいけど……って! そ、そうじゃなくて。僕が言いたいのは、やたらと無防備に男の誘いに乗るなということであって」
「そんなにむきにならなくてもいいのに。ちゃんと帰ってくるし、喚ばれればこっちにも来るわよ。どうせならハワイ土産にマカデミアナッツでも買ってきてあげようと思っていたけど、リゼがそんなにいやがるなら、不参加申請しておきます」

 それでもまだ疑っているのか、不安そうな眼でじーっと見つめられるので、紅緒は「約束するから」と真面目に請け合った。渋々リゼが手を放す。紅緒はなにごともなかったように身体を離して、スポンジの代用品の海綿を手に、食器を洗い始める。

「……どうしたら君を帰さないですむかなあ」
「え?」
「ん、なんでもない――いや、なくはない。そうか!」

 突然、素っ頓狂に声を高く張り上げられて、紅緒はびくっとした。あやうくリゼ専用の茶器を落として割るところだった。半歩引いて身体を捩じり、リゼを非難のこもった眼で見る。

「急に大声出さないで。びっくりしたじゃない。どうかしたの?」
「うん。あのさ、さっきの話だけど」
「どの話?」
「新しい仕事」
 
 ああ、と紅緒は相槌を打つ。そういえばその件を持ちかけられて、なんだか話が逸れたのだ。

「実はその話を持ってきたのは、僕の友達なんだ」
「えっ。リゼって、友達がいたの?」

 間。
 沈黙が重い。
 先に謝ったのは紅緒だった。

「ごめんなさい。とっても失礼だった……でも、だって私、あなたのところに来て四年経つけど、誰にも紹介されたことなかったから、てっきりひと付き合いが嫌いなんだとばかり思っていたの」

 次にリゼも謝った。

「それは君との時間を誰にも邪魔されたくなかったからで……でも、そうか。確かに他の人間に紹介したことなかったな。ごめん」
「いいの。リゼに友達がいるってわかっただけで嬉しい」

 紅緒は正直に言って微笑んだ。つられたように、リゼもきれいな歯を見せて微笑する。

「友達は少ないけど、いる。本当に少ないけどね。僕がひと付き合い、というか、人間があまり好きじゃないのは本当のことだし。実際、そんじょそこらの有象無象はどうでもいい。ましてや大切な君を紹介するなんてもったいないことはしたくない。第一、他の野郎に見せた時点で手を出されるかもしれないし、そんな危険は冒したくなくて当然だろう?」
 
 熱のいったリゼの主張を、「ぷ」と紅緒は笑い飛ばした。

「私をそんな眼で見るひとなんていないわよ」
「いるだろう、ものすごく、あちこちに!」
「いない、いない」

 すると、リゼはムキになって指折り数えはじめた。

「いつも行く野菜屋の息子、香辛料屋の主人、情報屋の若造、郵便配達人、引きこもり貴族、辺境警備隊の奴ら、それに、それから、それと……」

 ぶつぶつと呟く姿は偏執狂のようで。
 紅緒は、「もしもし、リゼさん。戻ってきなさいよー」と肩を揺すった。

「はっ」
「うん、それで? また話が逸れたけど、あなたのお友達がどうしたの?」

 リゼは咳払いをした。深刻そうに長い息を吐き、睫毛を伏せる。

「困っているんだ、ものすごく。それで助けて欲しいと縋られてね、弱っている」
「リゼが助けてあげられないこと?」
「僕じゃだめだ。君じゃなきゃだめなんだ」
「なにそれ、どんなこと? 仕事の内容は?」

 真面目に聞こうと仕事の手を休めて、きちんとリゼに向き合う。だが身長の差がありすぎた。正面から眼を見たいのに、首を急な角度に傾けた不自然な立ち姿になってしまう。
 察したのか、リゼは手近にあった椅子を手前に引くと、背凭れを胸に抱えるように後ろ向きに腰かけた。さりげなく紅緒の手をすくい取り、きゅっと握り締める。

「僕の友達の息子の『女嫌い』を治してほしいんだ」
「『女嫌い』?」
「そう。話を聞くところによれば、相当ひどいらしいよ。母親以外とはほぼまったく口も利かない」
「それは……確かにひどいかな」
「だろう? 彼の父親がその行状を見かねて、女性交際指南役として百人雇ったものの、責任感の欠如から、全員もれなくクビ」

 紅緒は軽く眼を瞠った。

「それで、真面目で信用のおける人材を、誰か紹介してくれないかと頼まれたんだ」

 話を聞いた紅緒は、最初、半信半疑だった。いつものように、自分をこちら世界に引き止めたがるリゼの苦肉の策ではないかと、ちょっぴり疑ってかかってしまったのだ。
 だがリゼは至って真摯な顔で、紅緒の反応を窺っている。
 口から出かけた言葉を呑みこみ、考えてみる。結論は割とすぐに出た。

「それ、私じゃ力不足よ」
「そんなことはないだろ」
「あるの。つまりその、私、男性に女性とのお付き合いの仕方をレクチャーできるほどの経験値がないの。皆無に近いの。れ、恋愛なんて、ほとんどしたことないから……」

 あまり大きな声で言えることじゃないので、言葉も声も尻すぼみになる。神妙に俯いた紅緒だったが、すぐに顎を持ち上げられた。

「わ」

 思わず、腰が引ける。眼の前に、ずいとリゼの精緻に整った顔が迫っていた。顎を絡めとっているのは、神経質そうな細い指。

「あのさ」
「な、なに」

 語尾が上ずる。リゼの表情が、再び険悪化している。眼もきついが、声も刺々しい。おまけに逆らうことを許されないような、びりびり緊張した空気。

「……皆無じゃないってことは、少しはなにかがあったんだ……?」



<< 次の話 
目次


追記を閉じる▲

【2011/05/16 05:56】 | 愛してると言いなさい
トラックバック(0) |
 こんばんは、安芸です。

 ようやく、デート編・十三をUPです。
 そしていきなり編集ミス。ごめんなさい、れい様ならびに、運悪くお越しいただいた皆様ー! 汗。
 まだまだ不慣れなブログの形態……。
 書くより神経を使いますね、これ。とほほです。

 気を取り直して。

 十日ぶりの愛してる~となりました。皆さまいかがお過ごしでしょうか?
 安芸は肉体酷使のため、疲労の蓄積の濃い毎日を過ごしていましたとも、はははは……。

 デート編はもうちょっと続きます。
 次はようやくあの方の登場です。

 引き続きよろしくお願いいたします。
 安芸とわこでした。

 

【2011/05/15 23:41】 | 日々あれこれ
トラックバック(0) |
前の話>>



 
    
 リゼの自宅兼研究室は、はっきり言って、物が多すぎる。
 一応一軒家だが、居住空間はセミダブルサイズのベッドの上と厨房と食事場所だけ。あとはすべて分厚い魔法書や怪しげな研究材料やいかにもな実験道具でしっちゃかめっちゃかだ。
 なので、紅緒の仕事はだいたいが整理整頓からはじまり、掃除、洗濯、食事の支度へと移行していくのだが、今日はまずリゼの食事を作ってから、片づけに取りかかった。
 家主であるリゼは、せっせと食べるのに忙しい。
 こちらの人間は平均身長が成人男性の場合はほぼ二メートル、女性でも一八〇センチくらいが普通で、紅緒の一六〇センチというのは、十四、五歳ぐらいに見られる。おまけにみんな、よく食べる。そのためか、気になる部分の発育具合が明らかに違っていて、年齢の割になんとも貧弱な体型に見られることは、既に諦めがついていた。
 そんな紅緒が食事中に眼の前をうろちょろすると気が散るのでは、と思うのだが、リゼはと言えば無神経にもほどがあって、

「いや、まったく気にならない。砂ネズミみたいで、かわいい」

 それが二十四歳の成人女性に対して真顔で言うことなの? と、紅緒は無言でこめかみに青筋を張りつけながら、手当たり次第に散らかったものを元の場所に戻していった。

「あのさ」
「お茶ですね」

 食卓上に並べたものがきれいに平らげられているのを見て、満足する。やはり完食されると気分がいい。なので、さっきの失礼な発言は水に流してやろうかな、と思う。
 紅緒はさっと動いて、手を洗い、少し前に蒸らしてあった茶葉に湯を注ぐ。茶器は自前で、こちらの土で紅緒が焼いたものだ。

「はい、どうぞ」
「ありがとう」

 素焼きの不細工なそれをリゼは気に入っていて、お茶は決まってこれに淹れる。こちらのお茶は華やかな甘味のある茶葉が主流で、何種類か自家ブレンドしたものを常時切らさずに用意していた。

「ところでさ」

 お茶を啜りながら、リゼが歯切れの悪い調子で続ける。

「新しい仕事、するつもりある?」

 紅緒は食器を下げる手を止めた。

「それ、あなたの助手をクビってこと?」

 リゼが「げえほっ」と噎せる。それから叫んだ。

「断じて違う!」
「こら、食事中大声を出さないの。行儀悪い」
「ごめん……だけど君があんまり恐ろしいことを言うから」
「おおげさ」
「おおげさじゃない! 僕はもう君なしでは生きていけない身体なんだっ」
「はいはい」

 涙ながらに訴えるリゼに対して、紅緒はくすくす笑いながらさらりと聞き流し、訊いた。

「じゃ、別に仕事を増やすってこと?」
「うん、まあ、そうなるかな」
「断ってもいい?」

 こちらとあちらの行き来にタイム・ラグはないが、それでも時間が止まるわけではないので、疲労は過不足なく蓄積される。いくら体力に自信があると言っても、限度があるというものだ。
 紅緒は「実はね」と切り出した。

「もうすぐ会社の夏季休暇で、それに合わせて社員旅行があるの。ハワイに四泊五日。あんまり乗り気じゃなくて行くつもりなかったんだけど、上司に強く誘われていて断りにくいの」

 食卓を台布巾できれいに拭いていた紅緒の手首を、リゼが不意に押さえつけた。

「ハワイって?」

 間近にあるリゼの顔が心なしか険しい。紅緒は作業を続けようと手を抜こうとしたが、逆に握り締められる。

「リゾート地。海辺で水着を着てくつろいだり、お買い物したりするの」
「上司、って……男?」
「そう」
「水着、ってどんなの?」
「布面積が極端に少ない身につけるもの、というか、裸に近い恰好になるかな」
「は、裸っ?」

 リゼの引きつった喚声が裏返る。

「や、裸じゃなくて、胸とかお尻はちゃんと隠れるから大丈夫」
「だめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだ、絶対、そんなの、許さないぞ、俺は!」

 突然激昂したリゼに、紅緒はきょとんとした。

「『俺』?」

 リゼがはっとして、慌てて取り繕う。

「僕! 僕だった、僕だから! とにかくっ。僕は許しませんよ、そんなあられもない君を、他の男の眼にさらすなんて、冗談じゃあないっ」
「許すも許さないも、大人の付き合いってものがあるの。そもそも社員旅行だから――いいかげんに、手、放してください。痛いです」
「行かせない」



<< 次の話 
目次


追記を閉じる▲

【2011/05/12 23:33】 | 愛してると言いなさい
トラックバック(0) |
前の話>>




 金曜の夜から土曜の夜明けにかけて、境界を越え、手紙が届く。
 それが届くと、どんなにぐっすり寝ていても、なんとなく眼が覚める。
 暗い部屋の中で、ホタルのように青白く発光する手紙は、異世界からの召喚状。


 相良紅緒(さがらべにお)は朝起きて、食事をすませ、いつものように身支度を整えた。
 膝丈のスカートと七分丈のカットソー。長い髪はまとめて結い上げ、鏡の前で軽く化粧をする。
 それからアパートの戸締りをすべて確認した。家電は留守録とファックス受信に切り替え、携帯は丸テーブルの上。パソコンの電源を落とし、外から覗けないよう、レースのカーテンを引く。
 持ち物は、二日分のお泊まり用具一式と万能通訳機能付き魔法のピアス。それから身分証兼緊急連絡用の指輪を嵌めて、足の疲れない靴を履く。

「あ。いけない、忘れてた」

 荷物に買っておいた猫じゃらしを付け加える。

「よし、行くか」

 ペーパーナイフで手紙の封を切る。半分に折られた用紙をひらくと、几帳面に綴られた異世界の文字がふわあ、と飛び出て来た。そのまま蜜にたかる蟻のように、文字はくるくると螺旋を描いて紅緒を取り巻く。
 紅緒は眼を瞑る。光が生まれる気配。何度味わっても、まだ眩しいと思う。
 そのまま音もなく連れ去られる。境界を超えて、空間から空間へ運ばれる一瞬のなんともいえない奇妙な浮遊感覚は、いつまで経っても慣れない。


 紅緒は眼を開ける。

「やあ、来たね」

 そこにいたのは、年齢不詳、やたらに見てくれだけはいい、大魔法使いリゼ・クラヴィエ。
 上背は二メートルくらい、腰が高くて脚が長い、細身の八頭身。長めのさらさらした金髪は紐で無造作に束ねている。切れ長の紺青の双眸、意地悪そうな薄い唇、潔癖な感じの高い頬、筋の通った鼻孔。腹黒いのに爽やか系のこの美形とのつきあいは、もうかれこれ四年になる。

「来ましたよー。あーあ、またこんなに散らかして」

 さいわい、あちらとこちらの行き来にタイム・ラグは生じない。出発した時間にそのまま戻るので都合がいい。 例えば、六月第三週土曜日の朝十時に出たら、たとえどれほどの期間をこちらで過ごそうとも、六月第三週土曜日の朝十時に帰れるのだ。
 だから「いたいだけいればいいじゃないか」とは、引き止められる常套句。でもそんなわけにもいかない。あまりにこちらに長いこといると、誰もいない部屋に帰るのもいやになるし、仕事に向かうのも億劫になる。やはり節度というものが大事だと、自分に言い聞かせるのもいつもの話。
 紅緒はここで、不定期に『魔法使いの助手』というアルバイトをしていた。
 まあ助手といえば聞こえはよくて、実のところは、簡単な筆記作業、調合の手伝い、使い走りや片づけ、食事の支度、家事全般など、ほとんど雑用係みたいなものなのだが。

「ンもう。本当にどうにかしなさい、その悪癖、この魔窟。片づける私の身にもなってください」
「片付けよりも先にごはんがいい。お腹が空いてるんだ。一昨日からなにも食べてなくて」
「だからどうしてそう不摂生な生活をするんです! あれほど三食きちんと食べなさいって言っておいたのに。誰のためでもない、自分のためなんですよ」
「僕の作るごはんはまずい。食べる気がしない。第一、面倒くさい」
「そう言う問題じゃないの! 身体に悪いと言っているんです」
 
 紅緒がぴしゃりとどやしつけても、なぜかリゼはとびきり嬉しそうで。

「私は真剣に心配しているのに……」
「……うん。ふふふふふふふふふふ」

 紅緒が怒って睨みつけているのに、唸るように含み笑いをし、顔を赤らめるリゼ。
 どうしてそこで照れるのか、わからない。

「だいたい、なにか作ろうにもまず買い物に……なに、この食材の山は」
「ん、今日あたり、君が来てくれるだろうと思って買い物はすませておいた。氷蔵庫にもたくさん入っている」
「……面倒くさがりやなくせに、こんなところばかりちゃっかりしてるんだから」

 紅緒は専用の白いエプロンをつけながら、厨房に立った。腕捲りをする。この家の厨房は紅緒の注文に合わせて魔法で改造されており、火も水も使い勝手がいい。調理器具も一通り揃っている。
 紅緒は食材をチェックした。はじめは馴染まなかった緑黄色、赤紫色、茶黒色な野菜も、調理法さえ間違わなければ、すべておいしくいただける。穀物は、米・小麦に似て非なるもの。肉は鳥類・哺乳類・爬虫類まで、種類豊富。魚は淡白な白身魚から竜魚と呼ばれる巨大魚まで、色々だ。
 あまりに違う食文化に対応するため、当初は近くの食堂に弟子入りした。それから腕を磨き、現在に至る。いまでは自分で肉も魚もなんなく捌ける。パンも焼けるし、お菓子もつくれる。そうしてわかったことといえば、異世界の『食』も、創意工夫さえすれば、なじみ深い『食』になる。紅緒はこれを、『もどき料理』と呼んでいた。

「ずっと待っていたんだ」

 厨房の入口に斜めに寄りかかり、じっとこちらを見つめながらリゼが微笑する。
 紅緒は野菜の水洗いをはじめながら、小さく肩を竦めた。

「たかが一週間ぶりじゃないですか」

 一週間、といっても、こちらの一日は約三十時間と長い。
 朝・昼・晩と十時間ずつ区切られているので時間配分はわかりやすいけれど、それでも元の世界時間と照らし合わせて正確に把握するのは面倒なので、紅緒は自分時間でカウントすることに決めていた。

「一週間は長いよ。僕としては、いつも君にいて欲しいんだから」
「私はあなたの奥さんじゃありませんので、いつもなんていられません。三日もなにも食べていないなら、胃に優しいものかな……鳥おかゆ食べる?」
「食べる」
「蒸し野菜サラダに、ホーホー貝はバターでソテーにでも。あ、ニンニクもあるなら、ガーリック・チップもつけようかな。ダチョウ卵プリン食べる?」
「食べる」
「はい、わかりました。じゃ、おとなしく座って待っていてください」
「あのさ……いつも君にいて欲しいっていうのは、本当の本当だから」

 紅緒は顔をあげてリゼを見た。吸い込まれそうなほど澄んだ深い紺青の眼は真剣で、一途で、真面目くさった態度がいじらしい。
 よほど飢えていたんだなぁ、と、リゼの心情とはまったく別の方向に解釈しながら、紅緒はかわいそうなものを見る眼で見やった。

「はいはい。大丈夫。心配しなくても、あなたみたいになにもできないひとを見捨てやしません。よっぽどひもじかったの? 作りおきのおかずが足りなかったから、そんなこと言うんでしょう?」
「えっ。ちがっ」
「次から、もっとたくさん作っておくね」

 なぜか、リゼは壁に手をつき、がっくりとうなだれた。
 紅緒が訝しげに小首を傾げる前で、遠くを見る眼でなにか言いかけたものの、やがて諦めたように、ふやけた微笑を浮かべる。

「……うん、ぜひそうして」
「了解です」
「ははは……ちっ、なんでこんなにニブいんだ……」

 リゼが大仰に「はーっ」と溜め息をつく。
 紅緒はそれをごはんの催促と受け止める。「まかせなさい」と罪なく笑って、やる気のある握りこぶしポーズを決めて見せた。



<< 次の話 
目次


追記を閉じる▲

【2011/05/11 23:27】 | 愛してると言いなさい
トラックバック(0) |
目次



「困っているのだ」
「僕、忙しいんです。用件は? くだらなかったら帰ります」
「聞いてくれ! 深刻なのだ。余はこのままでは孫の顔どころか嫁の顔も見られんのだ!」
「またその話ですか」

 リゼはうんざりして言った。
 自宅兼研究室に緊急呼び出しがあったのは、つい先程のこと。
 大魔法使いリゼ・クラヴィエは実験を取り止め、王宮最奥にひっそりと隠された秘密の間に駆けつけたところ(正確には転移した)、いきなりわっと縋られた。
 憔悴し、やつれた顔で泣きごとをこぼすのはダスタ・フォーン国第九十三代国王、アワード。
 銀髪紫瞳、陽に焼けて筋骨たくましく、王族にのみ許された紫衣をゆったりと纏い、銀細工の肩布を斜めにかけている。その風貌は四十九という実年齢よりも、ゆうに十は老けて見えた。
 思慮深く、機知に富み、戴冠後これまでのところは統治者として優れた裁量を発揮している。堂々たる威厳と貫禄を備えたアワードだったが、自分の子供に対してはただの親ばかだった。

「またではない! 余は本当に困っている。助けてくれないか。友達だろう」
「男同士の友情はあてにならないんです」
「いや、おまえに限ってそんなことはない」

 ひた、と見つめられてリゼは渋面をつくった。「ち」と舌打ちして、腕を組む。

「……来る日のお妃選びに備えて王子の女嫌いを治したいと、そんな話でしたよね」
「いや、女性が嫌いなわけではない。ほんの少しだけ、女性不信と言うか――」
「交際指南役の女性を百人もクビにすれば、立派な女嫌いでしょう。それで、僕にどうしろと? 言っておきますけど、『女好きになる薬』なんてくだらないものを調合するのはごめんですから」
「そうではなく、有能な人材を紹介して欲しいのだ」
「人材?」
「そう。王子と言う身分に気後れせず、余計な下心もなく、真面目で信用のおける、そんな女性が必要だ。仕事は息子が女性と普通に交流――いや、軽く交際できるくらい女性に慣れ親しめればそれでいい。できれば、そうだな、秋までに」

 リゼは口に手をあてた。
 ぽわん、とひとりの女性を思い浮かべる。明るくて元気で真面目で親切で優しくて、ちょっと鈍感で。家事が得意で世話焼きで面倒見がよくて、少しそそっかしい。表情がころころ変わるところも、よく笑うところも、とてもかわいい――大切なひと。

「心当たりはあります」
「なにっ。本当か! ぜひ紹介してくれ」
「いやです」
「どうして!」
「誰にも会わせたくないんです」

 リゼはきっぱりと言い切った。心の真ん中で輝く笑顔。ふと思い出すだけで胸が温まる。

「彼女は僕の宝物です。命です。すべてです。かけがえのないひとです。すごく大事にしているんです。うっかり誰かに苛められたり、傷つけられたり、口説かれたり、惚れられて持っていかれたら、困るんです。僕のなんですから」
「貸してくれ! 絶対に返すから」
「ところが返したくなくなるひとなんです」
「そこをなんとか頼む!」
 
 アワードがおもむろに頭を下げた。リゼは眼を瞠った。一国の王のとる行動ではない。

「頼む、リゼ」
 
 リゼは押し黙った。逼迫した声に胸を衝かれる。アワードは傍目にも相当くたびれていた。よほど追いつめられているのだろう。

「約束する。息子が一般的に女性と交際できるようになり次第、すぐに返す。無論、賓客として扱おう。接近禁止令と緘口令(かんこうれい)を出し、新しい交際指南役に関わること一切の噂を禁じて、礼もする。それほど長い期間のことではない。秋まで――あと三ヶ月弱、この夏の間だけだ」

 藁にも縋るような目で見つめられ、ついにリゼは折れた。

「……わかりました。訊くだけ、訊いてみてあげます。引き受けるかどうかは彼女次第です。ただし、もし彼女が引き受けたとしても、絶対の絶対の絶対に、次のことを守ってくださいね」
「なんだ」
「悪さをしない、苛めない、傷つけない、引き止めない。全部きっちり守るといまここで誓ってください。でないと話は振りません。それでなくとも、僕はものすごく不本意なので」
「わかった。誓う」

 アワードと眼が合う。リゼは最後に凶悪な形相で脅しをかけるのを忘れなかった。

「……言っておきますけど、彼女の身に少しでもなにかあったら、ただではすみませんから。相手が誰であろうとなんであろうと、僕、完膚なきまでにやっつけますからね……?」

 すべて納得ずくで、力強くアワードが首肯した。

「それで、いつから?」
「慌てないでください。召喚しなきゃならないんです」

 沈黙が落ちる。アワードの眼が点になり、怪訝そうに頬が歪む。

「……召喚? って、まさか」
「ええ。異世界の住人なんです」

 リゼはもう一言付け加えた。

「僕の助手です」





<< 次の話 
目次


追記を閉じる▲

【2011/05/11 22:52】 | 愛してると言いなさい
トラックバック(0) |
 こんばんは、安芸とわこです。

 このたび、出版お祝いに、と、小説家になろうにて懇意にしていただいている、もにょん様より、愛してると言いなさい 短編をいただきました!

 もにょん様、ありがとうございましたー!

 とある伯爵令嬢の回想 美しい筆致の中にユーモアをまじえた、もにょん様ならではの一品です。
 作者様了解のもと、こちらに転載させていただきました。

 どうぞ皆様、お愉しみくださいませ!


 そして。
 アルファポリス様よりご承諾いただけましたので、

 愛してると言いなさい 第一章と第二章をこちらに掲載できることになりました

 原稿は、初回投稿時のものではなく、せっかくなので、初稿(出版社に提出するための第一原稿)を上げたいと思います。

 書籍化のため投稿原稿をより絞り、もっと読みやすく、かつ、おまけを盛り込み、更に、シチュエーションを変えるという荒技を駆使したこの初稿、全文掲載できないのは残念ですが、愛してる~の新たな読者獲得のためにも! ぼちぼち掲載させてください。

 しかし。
 メカオンチの安芸です。
 目次しか、まともにつくれないので、カテゴリの中身を並べ替えたりはいますぐに対応できません。
 すみません。
 目次より読み進めるようお願いいたします。
 
 徐々にスキルアップ出来ればな、いいな。

 では、こちらに足を運んでくださる皆様にたくさんの感謝を込めまして!
 引き続きよろしくお願いいたします。
 安芸とわこでした。











追記を閉じる▲

【2011/05/11 22:41】 | 日々あれこれ
トラックバック(0) |
もにょん 様より頂戴いたしました!

出版お祝い短編『とある伯爵令嬢の回想』

日付 2011年 05月 10日 (Tue) 18時 05分 08秒



 ジークウィーン殿下がご執心と噂の女性を見た時の私の感想といえば、なるほどというものだった。
 そして改めて思ったものだった。
 このマザコンめ、と。

 私はジークウィーン殿下が生まれた翌年、そこそこの財力と権力を持つ伯爵家の次女として生まれた。
 条件的にジークウィーン殿下の結婚相手としてそこそこ整った条件を持ち、さらにそこそこの出世欲はある父の意向もあって、私は生まれたそのときから殿下の許婚候補の末席に数えられるようになっていた。

「お前は殿下と結婚するんだよ」

 私だって乙女の端くれ、そう言う父の言葉にいつか王子様が自分を迎えに来てくれるのだと、胸ときめかさなかったわけではない。
 6歳になるまで私はそのことに疑問を持ったことはなかったし、夢見るお姫様になるための努力も、幼子ながらそれなりにがんばっていたと思う。
 けれどそんな可愛らしい純情な少女は6歳になりしばらく過ぎた春の日、初めて殿下と顔を合わせた時に粉々に砕け散ってしまった。
 忘れもしないうららかな日差しの午後、殿下も参加するためこどももぜひ、と言われて王妃様が主催したお茶会へと母に連れられて初めて王城へ登城した。
 王城は立派で間近に見る王妃様はとても美しく、色とりどりのお菓子は可愛くて美味しそうで、この日のために新調してもらえたドレスに身を包んでいることもあり、幼い私はこれ以上ないくらい浮かれていた。
 その上、一生懸命練習した挨拶を王妃様に失敗せず披露でき、さらに可愛い淑女(レディ)ね、と褒め言葉をもらえたのだから、エンジンはフル回転で空でも飛べそうにご機嫌だった……殿下に会うまでは。
仲良くしてね、と王妃様から紹介された殿下はそれは綺麗で愛らしい容姿で、可愛くいじましくも私はこの人が私の王子様なのだと胸ときめかせて緊張しながら自己紹介をしたのだった。
 けれど殿下は私の自己紹介など知らないとばかりにそっぽを向いて、ひどく退屈そうに苛立ってさえいる様子で、王妃様にここから離れて遊んできてもいいかと尋ねた。
 まぁ、大きくなった今なら、7歳の小さなこどもが社交の場に連れ出されてわけも分からない人たちからの挨拶を受けて回らなければならないとなると、相当に苦痛だったのだろうと理解を示すことも出来る。
 だがその時の私は何か失敗してしまったのかという焦りと、憧れていた王子様に無視をされるという悲しみから泣きそうになっていた。
 だから殿下が王妃様の許可を得て離れようとした時に、自分も一緒に行きたいと咄嗟に申し出ていた。
 殿下はちょっと嫌そうではあったけれど了承してくれて、私に背を見せながら来いと命令した。
 その後は私を振り返ることもなくずんずんと早足でお茶会会場の庭園から離れていく。
 私はドレスに合わせた華奢な靴と長いドレスの裾のせいでうまく付いていけなくて、半泣きになりながら何度も殿下に待ってとお願いした。
 そうして私のもたつきぶりに気付いた殿下が煩わしそうに私の手を取ってグイと引っ張ったのだ。
 たぶん引いてやろうと思ってしたことだったのだろうけれど、ただでさえバランスを崩しかけていた私は、その気遣いの欠片もない引き方にとうとう足をもつれさせて思い切り転んでしまった。
 下は土の地面で、もちろん精一杯着飾ったドレスはぐちゃぐちゃに泥に汚れてしまうし、軽く捻ってしまったのか足も痛い。
 私は少し呆然と泥だらけになった自分の姿を見下ろしてから、悲しくて痛くてとうとうこらえきれずに泣き出した。
 そんな私に向かって殿下が放ったのは気遣いの言葉などではなく、これだから女は嫌なんだという冷たい声。
 この瞬間に私の中で王子様の美しい夢は、ぞっとする悪夢へと成り果てた。

 それ以来、父のお小言を無視して時に無難にすり抜け何とか殿下に接触しないように、接触しても最低限で済ませるように努力に努力を重ねて私は16歳になった。
 この頃にはジークウィーン殿下の傍若無人ぶりは社交界に広まっていて、特に女性蔑視の傾向の激しさはものすごいといわれるようになっていた。
 そんな中、私もとうとう正式に社交界にデビューすることが決まり、その挨拶のために再び王城を訪れた。
 結論を言えば謁見自体はとてもスムーズに問題なく済んだ。問題はその後だ。
 私は陛下と王妃様から直々に、ジークウィーン殿下とお話をしてみてくれないか、と頼まれた。
 どうやら殿下の態度について、そろそろ改善を試みなければならないと思っているようで、とりあえず女性とのおしゃべりというところから入らせてみようと考えたらしい。
 本音を言うのなら死んでもお断りいたします、と言いたかった。
 しかし私も貴族の端くれ、主君たる方々から直に頼まれて嫌だとは言えない。
 どうにか譲歩案として1時間だけという条件を引き出し、多少引きつったかもしれないけれど、何とか笑顔を浮かべて引き受けた。
 そうして王城にいくつもある応接室の1つに通され、待たされること30分。
 いきなり乱暴に扉が開いて驚く私の前に、大変不機嫌そうな殿下が現れた。
 呆気にとられた私をじろりと睨んで、そのままツカツカと早足で私が腰掛けていたソファの向かいまで歩いてくる。
 はっと気付いて私が立ち上がるのと逆に、どすんと乱暴に殿下がソファに腰を下ろした。
 挨拶を述べる私の声を遮って、殿下は自分は嫌々しょうがなく来たのだと、だから勘違いをするなと言い放った。
 私はあら奇遇ですね私もですよ、と言い掛けてさすがに止めて、しおらしくお礼を言ってみた。
 ビクビクとした侍女にお茶を入れてもらうと、それ以上は役に立たないと思い侍女を下がらせる。
 殿下と2人きりなどできれば避けたいところだけれど、何も咎のない侍女に被害が及ぶのは可哀想だ。
 そうして私は1つ、気になっていたことを殿下に聞いてみることにした。

「おひとつだけ、訊いてもよろしいでしょうか」
「……なんだ?」
「どうして殿下は女性がお嫌いなんですか?」

 まさか男しょ…げふんげふん。
 それはそれで、ある意味とても夢見れる事なのだけれど。
 殿下は心底嫌そうに、さらに馬鹿にしきった様子で鼻を鳴らして侮蔑の眼差しで私を見た。

「女はくだらない。暇さえあれば宝石にドレス、お菓子の話ばかりして、男に擦り寄ってたぶらかそうとする。なよなよと男に寄生して自分では何も出来ず、その癖にプライドだけは高い」

 お前もそうだろう、と決めてかかる視線に困ったように弱々しく微笑んで見せながら、内心では逆に鼻で笑ってやった。
 要するに殿下が認められるような女性というのは、毅然として自分の意見をはっきり言える自立した強い女性、ということだろう。
 頭の中でぐるりとそういう人物を検索してみて、思い当たったのは王太后陛下と王妃様の2人。
 思わず生ぬるい笑みを浮かべたくなるのを必死で堪えた。
 ああ、この殿下はマザコンなのか、と。

「お答えいただきありがとうございます。では気に食わないでしょうけれど、もう少しだけ、お約束の時間だけ私にお付き合い下さい。ですが、私と話をしようとしなくても構いません。何でしたら、別の用事をされても大丈夫です。それで私は両陛下に、殿下は私の父に顔が立ちますでしょう?」

 出来うる限り穏やかな微笑をにっこりと浮かべ、殿下が来るまで味わっていた紅茶のカップに侍女が用意して言ったティーポットから新しいお茶を注ぐ。
 これで殿下が出て行くなら非は殿下にあるのだから、私の知るところではない。
 飄々とお茶を楽しみ始めた私に戸惑った視線を向けた殿下だったが、苦虫を噛み潰したようにソファに座りなおした。
 そうして同じ部屋、対面にいながらそれ以降一言も喋ることなく予定の時間を無事に消化し、私と殿下は別れた。
 そうして私は改めて、あんな不躾で思いやりもないマザコン殿下に嫁ぐものかと心に誓ったのだった。

 それからまたしばらくの時間が過ぎ、父のごり押しと、その他諸々の事情から出席した園遊会で、私は遠めに殿下の姿を驚きの眼差しで見ていた。
 まぁよくもあの無礼者がここまで改心できたものだと。
 そうして必死に意中の女性に自分をアピールしようとしている姿に、爆笑してしまいそうになるのを堪えるのにひどく苦労した。
 あの殿下を可愛いと思う日がくるなんて!
 ―― 見事に空回りしている姿に扇を持った手が笑いを堪えてぷるぷると震え、翌日に腹筋が痛くなってしまったのはここだけの話だ。




                                      ありがとうございました!

<< 次の話  
目次


追記を閉じる▲

【2011/05/11 22:15】 | 頂きもの
トラックバック(0) |
 はじめまして、安芸とわこ と申します。
 このたびは当サイトにご訪問いただきまして、ありがとうございます。

 安芸物語 はオリジナル小説サイトです。
 本サイト内にあるすべての文章等の無断転載は禁止です。
 著作権はすべて作者本人に帰属します
 尚、本サイトを閲覧したことによって生じたいかなる損害に対しても、当方は一切の責任を負いません。
 予めご了承くださいませ。

 拙作 愛してると言いなさい 
 現在書籍化進行中
 そのため、当サイトでの掲載は第六章よりとなっております。
 *第五章までは削除
 申し訳ありませんが、その旨ご了承のうえで閲覧をお願いいたします。

 コメント・感想はいただけると大変うれしいです。お待ちしております。

 尚、小説家になろう様にて、安芸(あき)の名前で登録してあります。
 
 そちらにも完結したオリジナル小説がいくつか置いてありますので、興味を持たれた方はぜひお越しください。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸とわこでした。
 


追記を閉じる▲

【2011/05/09 23:22】 | はじめに
トラックバック(0) |

開設おめでとうございます!
れいちぇる
 やー、ブログ開設お疲れさまでした! こんなところにも出没するれいちぇるですがご容赦くださいませ!

 新雪と見たら、足跡を残していくしかないじゃあないですか! 一向に成長しないダメな大人ですみませんorz
 安芸さまが展開なさる世界にまた新しい訪問者様達が集まってくることでしょう! がんばってくださ~い!

 れいちぇるでしたっ

Re: 開設おめでとうございます!
安芸とわこ
 いらっしゃいませ、れいちぇる様!
 
 開設お祝いコメントありがとうございます!
 わ~。
 あなた様が一番乗りとは!
 なにか運命を感じる。だって、ついさきほどオープンしたばかりなのに。笑。
 
 これでようやく、愛してる~も、書けますし、心おきなく、他にも取り組めます。
 そしてあなた様のもとへも伺える!! 
 羽!
 見ましたよっ。もちろん、すぐに! 喋りたいので、のちほど、またそちらで。
 このたびはありがとうございました。
 引き続きよろしくお願いいたします。
 安芸とわこでした。

お喜び申し上げます(^0^)
紅梅
開設お疲れ様です。
さっそく、現れた紅梅ですww

例え第6章からでも読めるなんて・・・・。
嬉しすぎですよ!!
こ、興奮のしすぎで血圧が・・ww

これから、たびたび訪れますので(^-^)/

お花のお届けです。
ワイニスト
安芸さん。(さんざ、先生はダメと言われましたから、もうしません・・・笑。)

おめでとうございます&お疲れ様です。

お祝いのお花をお届けにあがりました。

花花花花花花花花花花花。

これからも無理せず、ほどほどにがんばって下さい。

書籍も楽しみにしております。

ではまたー。

Re: お喜び申し上げます(^0^)
安芸とわこ
 さっそくのお越しをありがとうございます、紅梅様!

 うわー! 本当にすぐいらしていただけたんですね。
 安芸感激。ありがとうございます~。
 
 とりあえず、第六章更新分まで全部上げました。
 喜んでいただけてよかったです。

 安芸も、意外に新しい形での愛してる~は結構いいのではないかと。
 白くてきれい。ちょっぴり色つきでかわいいかんじ。新鮮です。

 あとは更新ですね。頑張ります。
 引き続きよろしくお願いいたします。
 安芸でした。
 

Re: お花のお届けです。
安芸とわこ
 こんばんは、ワイニスト様!

 うわあー! 花束ですねっ!? 頂戴します! 安芸は白薔薇が好きー! 薔薇だということにしよう。
 いや、今の時期だと芍薬と牡丹も捨てがたい……!

 いずれにしても、ありがとうございます。
 ようやく、『先生』がとれて安堵しました。さんづけで十分です、はい。
 書籍化、喜んでいただけて安芸もうれしいです。なにせとびきりのカバージャケットですからね!
 
 お言葉に甘えてほどほどに頑張ります。
 では、また。
 引き続きよろしくお願いいたします。
 安芸とわこでした。
 

まずブックマークを……と♪
くろアイルー
おはようございます♪

(。・д・)ノ★⌒☆【祝♡ブログ開設】☆⌒★ヾ(・д・。)
こ、これで続きを尾行することが出来るのですねっ!
とっても嬉しいです~。(´▽Å)←怪しすぎ……
連休中の安芸さん、すごく奮闘されていたんでしょうね。
ほんとにお疲れ様でした♪

立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は薔薇の花な安芸さんを思い浮かべつつ
どうぞ、改めてよろしくお願いします♪

管理人のみ閲覧できます
-


おめでとうございます!
高町 楠葉
安芸様お疲れ様です、楠葉でございます~。

他の皆様と比べて自分というキャラがどことなく存在感が薄い気がして忘れられちゃいないかと時々不安になります……(いや、安芸様に限ってそれはないと信じていますが!)

では、私も早いところ更新できるよう奮闘させて頂きます!

では、楠葉でした。

おめでとうございます^^
沢上澪羽
ブログ開設、おめでとうございます!!
わあ、これでこれからも『愛してる~』を心行くまで楽しめますね♪
これからは日参させていただきます。
あ、でもお忙しいでしょうから、ゆっくりでもいいのでまた更新、よろしくお願いしますね(*^_^*)
とにもかくにも、お疲れまさでした☆.。.:*(嬉´Д`嬉).。.:*☆

……個人的に、私もFC2でブログ開設しているので、何だか嬉しいです。
では、またお邪魔いたします!!

コメントを閉じる▲