オリジナル小説サイトです。新刊書籍 王宮書庫のご意見番 恋するきっかけは秘密の王子様 発売中  異世界の本屋さんへようこそ! 全3巻 & 既刊 愛してると言いなさい全4巻 アルファポリス様より発売中です。よろしくお願いいたします
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 こんばんは、安芸です。
 
 愛してる~の次話がまだUPできないので、先にできあがっているこちらを更新。
 お時間のある方、おつきあいください。
<< 前の話


 いったいどうしてこんなことになったのだろう……?

 もう涙も枯れ果てた。
 エミオンは、ぐったりと疲れきっていたがノロノロとベッドから起きた。
 思いっきり泣きわめいたせいで、頭が痛い。こめかみのあたりが、ズキンズキンする。
 小卓におかれていた水差しからグラスに水を注ぎ、一気に飲み干す。
 喉の渇きはいやされたが、胸の痛苦はいやされない。

 ことの起こりは、六日前。

「縁談が決まった」

 と父に告げられたときは驚いた。
 反対していたはずなのに、急にどうしたのだろう?
 おかしな点はそれだけではない。肝心の縁談相手もおしえてくれなかった。ただ「決して失礼のないように」と念を押されたので、格上の家柄なのだと思った。
 同じ拝命十三貴族でも、上位三家はやはり別格だ。特に次の当主の第一夫人ともなれば、相当高いスキルが要求される。
 本当に三家のどれかだったら引きはすごいが、あまり嬉しくない。

「……そんなに立派な家でなくてもいいのに」

 エミオンは正直「気詰まりしそうでいやだなあ」と思ったが、縁談を望んだのはほかでもない自分だ。いまさら、いやもなにもないだろう。

 覚悟を決めよう。

 貴族の『縁談』は、選択権は男性側にある。条件に折り合いがついた段階で見合いの場がもうけられ、男性が女性を気に入れば婚約となる。女性に拒否権はない。
 
 そして、見合い当日。
 馬車が着いたのは王宮だった。
 不審に眉をひそめるエミオンが案内された応接間に待っていたのは、ゼクス王子だ。
 茫然とするエミオンの耳に、ゼクス王子が冷たい声で囁いた。

「あなたは私の妻になるのだ」と。

 家には帰してもらえなかった。
 そのまま南の棟――王子の住居棟――の一室に押し込められた。泣けど叫べど、誰も来ない。一昼夜が経過した。食事と水を運ぶ侍女のほか、ゼクス王子も姿を見せない。

「どうして……」

 もう何百回も同じ問いを繰り返している。
 あれほどゼクス王子以外なら誰でもいいと言っておいたのに――よりによって、なぜゼクス王子の妻にならなければいけないのか。
 父さまも母さまもどうかしているとしか思えない。
 いや、一番どうかしているのはゼクス王子だ。
 なぜひどく嫌っている相手を妻に選ぶなど、ばかげた真似をするのだろう?
 それともまさか、形ばかりの妻にしておいて、愛人を囲って侮辱するつもりだろうか?
 あるいは、もっと陰険な方法でいためつけられるかも……。
 エミオンはしゃくり上げた。あれほど泣いて、もういいかげん涙も尽きたと思ったのに、まだ無尽蔵にわいてくる。
 ゼクス王子の凛とした背を思い出す。
 エミオンを妻にすると宣言した直後、「仕事がある」と言って立ち去った。振り返ることもしなかった。

「……これもあたらしい苛めなの?」
 
 ぞっとした。
 一生、ここでなぶりものにされるくらいなら、死んだ方がましだ。

 ――死。

 不意に芽生えた暗い誘惑に、エミオンの心臓はたかぶった。
 究極の現実逃避だ。なんて甘くひびくのか。
 死んでしまえば、もうゼクス王子にいびられずにすむ。心ない言葉に傷つくこともなく、嘲笑や罵詈雑言を浴びることもない。冷たく見つめられたり、手を振り払われたり、迷惑そうに拒否されたり、自分がとるにたらない存在だと――思い知らされずにすむのだ。

 ――いや。
 ――もうこれ以上、ゼクス王子に傷つけられるのはごめんだ。
 ――まして、心も身体もすべてを委ねなければいけないなんて拷問にひとしい。

 エミオンは手の甲で眼元を拭った。
 心が決まった。
 短剣がほしい。
 貴族の女の自決は短剣で喉を突くと相場が決まっている。
 エミオンはやっきになって部屋中を探した。だが短剣はみあたらない。それどころか代用できそうなものがなにひとつない。筆記用具すらおいてないなんて、どういうことだ。
 しだいに、動悸が速くなってくる。
 思い詰めるあまり、気が変になりそうになったエミオンの耳に控えめなノックが届いた。


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【2012/06/30 02:21】 | 受難の恋
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 こんばんは、安芸とわこです。

 愛してると言いなさい・3 がアルファポリス様より7月下旬刊行として予定にUPされましたので、お知らせいたします。
 正直、まだ頑張っている途中なので、応援いただけるとうれしいです。
 本編完結巻となる第3巻。
 どうかひとりでも多くの方に見ていただければな、と思います。

 以下、他愛のないおしゃべり。
 お時間のある方のみごらんください。
 …………なんだろう? ここのところ、いやにお客様の数が増えている気がする??
 愛してる~の書籍刊行効果かなあ。
 受難~は認知度低いからそんなに多くの方の眼にふれているはずもないし……不思議です。
 
 そしてまさかのレジーナブックスシリーズ4冊一挙刊行!
 わー、すごーい。書泉様のフェアが入るからかなぁ……?
 先日愛してる~の読み切りSSがありますとお知らせした、アルファポリス様フェアです。
 安芸は残念ながら足を運べません……だって遠いんだものー!
 他の皆様のSSもぜひ拝見したかったのに、できない……ショック。
 そして既刊本を購入していらっしゃる方々にとっては「えーっ」ですよね……そのぶん、彼方~でラブコメしますので、お許しいただければと思います。

 ではまた。
 いつもおつきあいくださる皆様に感謝の気持ちをこめて。
 引き続きよろしくお願いいたします。
 安芸とわこでした。


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【2012/06/27 22:18】 | 日々あれこれ
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 こんばんは、安芸です。
 変な時間にUP。連続投稿ならず……。
<< 前の話

 
「エミオン姫に縁談?」

 ゼクスは独自に内密調査させていた周辺国の輸出入の報告書をめくっていた手を止めて、顔を上げた。

「そう。どうする?」

 正面に立ち、机上に手をついて身を乗り出し、頷いたのはエミオンの兄クアンだ。
 やわらかい色の金髪をやや長めに伸ばし、緑色の瞳を愉快そうに細めている。兄妹だけあって顔立ちはよく似ていた

「父は『結婚はまだ早い』と一蹴しているが、母は乗り気でね。『見るだけでも』と連日届く見合い写真をエミオンと二人で見比べて、ああだこうだと言ってるよ。あの調子では、『会うだけでも』と父が説得されるのも時間の問題だね」
「そうか、わかった。知らせてくれてありがとう。礼を言う」
「最有力候補はエパル家の長男。次にカムソン家の長男。次の次がヴェートマス家の長男」
「どこの誰が相手でも関係ない」

 ゼクスは気のない声で答えて報告書に眼を戻した。
 クアンはさも拍子抜けした、というように長く息を吐く。

「やけに落ち着いているじゃないか。なにか見合いを阻止する秘策でもあるのかい?」
「そんなものはない」
「……まさか、ただ指をくわえて見ているなんて言わないだろうね?」
「そこまでまぬけじゃない」
「だったらどうすると?」
「もらいにいく」
「なんだって?」
「エミオン姫をもらいにいく」
 
 クアンが帰り、そのあとも深夜まで黙々とゼクスは政務をこなした。
 一昨年、十四の誕生日に成人の儀を迎えてから少しずつ国政にたずさわるようになっていた。特に去年、次兄のジョカが突然行方をくらましてからというもの、長兄アギルの補佐を務めるようになって、仕事は倍増した。
 大変なことは間違いないが、ゼクスは仕事が好きだった。
 少なくとも仕事中は、エミオンのことを考えずにいられるからだ。
 あとは寝ても覚めてもエミオンのことに悩まされ、気の休まるときがない。
 
 はじめて出会ったときから十二年――
 
 気持ちは募るばかりだ。
 ゼクスは部屋の明かりを消し、窓辺に立った。カーテンを開けると、月光が射した。エミオンの髪の色のような金色の月が夜空にこうこうと輝いている。
 ゼクスは身の焼けるような想いにとらわれて深く吐息した。

 どうしてこんなに好きなのだろう……。
 なぜこれほど心奪われてしまうのか……。

 幼すぎて、はじめのうちは自分の心のモヤモヤがなんなのか、わからなかった。
 わからないまま、エミオンに会いに通い続けた。
 最初の印象が悪すぎたのか、エミオンには避けられた。ゼクスが追いかけるほどエミオンには逃げられた。次第にゼクスはエミオンの気を惹きたい一心で小さなイジワルを繰り返すようになり、泣かせたり、困らせたりした。そのことで自分も少なからず傷ついていった。
 幼い心はまだその感情の名を知らず、理解したときにはすっかり嫌われていた。

 優しくしたいのに、優しくできない。

 自分で招いた結果とはいえ、事態は深刻で改善には困難を極めた。
 激しい恋情に苦しめられる日々のはじまりだった。

 ゼクスが近くに行くとエミオンはサッと逃げるか、隠れるか、威嚇するか、どれかなので、滅多に笑った顔は見られなかったけれど、ごくまれに眼にする彼女の笑顔は本当にきれいで。いつまでもいつまでも、見ていたくて……。
 楽しそうにしているエミオンの邪魔をしたくないのに、傍に行きたいと思う。
 だけど近づくと危険を察知した小動物のような素早い反応で、エミオンは姿を消す。
 それをゼクスが追いかけるものだから余計に嫌がられるのだが、それでも自分をその緑の眼に映してほしい気持ちが上回る。

 少しでも、近くに。
 少しでも、一緒に。

 ゼクスは窓に寄りかかりながら、いつしか月の表面にエミオンの笑顔を想い浮かべていた。

 一度でいいから、自分に笑いかけて欲しい。

 ずっとそう願って通い続けているのに、いまだにかなわない。
 原因はゼクスにある。
 
 エミオンにだけ冷たくあたってしまうのは、なぜなのか。
 いつもいつも怒らせてしまうのは、どうしてなのだろう。
 心にもない言葉をぶつけたり、苛めてしまう自分がわからない。

「……子供か、私は……」

 先だってのクッキーの件だってそうだ。
 とてもおいしかったのにおいしいと言えず、余計なことを言って怒らせてしまった。
 どうして素直にほめられない。妹姫にはたやすくできることが、なぜエミオンに限ってできないのか。己のばかさ加減に呆れてしまう。
 ぼんやりと厨房のエミオンを思い起こす。
 不機嫌そうな一瞥を向けられたあのとき、エミオンの立ち姿に見とれていたと気づかれたのだろうか?

「……細い腕だったな」

 掴んだ肘は華奢で指は白く、間近で見た少し驚いた表情がかわいくて……別に乱暴をはたらくつもりはないのに身構えられてしまう自分がどうにも切なかった。

「くそっ……」

 頭を抱えて唸り、ゼクスは乱暴にカーテンを閉めた。
 胸を焦がす熱は冷めず、今夜もまた眠れないに違いない。

 明日、朝一番でエミオンの屋敷を訪ねよう。
 多少の無茶を通してでも、いや、是が非にでもエミオンを妻にもらい受けるのだ。

「また、嫌われるな……」

 ゼクスはポツリとこぼした。





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【2012/06/27 02:53】 | 受難の恋
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 おはようございます、安芸です。
 小さい頃、男の子は好きな女の子を苛めるものだ、と聞いてドキドキしたものです。
 しかし。
 大きくなってもまだ苛められていたら、それはもう単なる嫌がらせ、イジワル以外のなにものでもない――と判断されても仕方のないわけで。
 そんなイジワルに遭う姫君の話です。
<< 前の話

「ドブス!」

 どんな女の子も平等に傷つけることができる言葉といえば、この一言に尽きると思う。
 エミオンは齢三歳にしてその威力を、身をもって知った。
 あれから十二年が経つが、あのときの心の傷はいまだ癒されていない。

 それというのも、エミオンの幼心を抉ったゼクス王子がことあるごとに屋敷を訪ねて来ては、「ブス」と罵り、イジワルをするのだ。
 クアン兄さまと友達だと言ってしょっちゅう顔を見せるゼクス王子を、エミオンははっきりと嫌っていた。
 どこの誰が「ブス」と言われて近づけるわけがない。
 それなのにゼクス王子はいつも必ず隠れているエミオンを探しあてる。
 そのたびに、嫌味や皮肉を言って、エミオンをいじめるのだ。

 今日だって、妹のルネと二人でクッキーを作っているところに現れて、ルネには愛想よく「とてもお上手だ」とほめて味見までしたのに、エミオンに対してはそっけなく、「クッキーか……」と言ったきり黙ってしまった。

 クッキーでしょう! どう見ても!
 それともなに? ルネのはクッキーに見えて、私のはクッキーに見えないとでも!?

 内心怒り狂ったものの、エミオンは自分を抑えた。ここで感情的になってはゼクス王子の思うつぼだ。相手にしてはいけない。
 エミオンはゼクス王子を無視することにした。
 焼き上がったばかりのクッキーを、形崩れしないようひとつずつ皿に移していく。

「……」

 嫌なことに、視線を感じる。
 渋々背後を確認すると、案の定、ゼクス王子はすぐ傍にいて、エミオンの手つきをじっと見つめている。

「……召し上がりたいのですか」
「そうではない」

 だったら見なければいいのに。
 文句を言いたい衝動を、なんとか鎮める。

「そうですか」
「だが、あなたがどうしてもと言うのであれば、ひとつ試してみてもかまわない」
 
 むかっとした。
 なぜそんなことを言われてまで、せっかく焼いたクッキーをあげなければいけないのか。

「無理に召し上がらずとも結構で――」

 エミオンは訊ねなければよかった、と後悔しながらゼクス王子に背を向けた。
 早く帰ってくれればいいのに、と憤るエミオンの肘を、ゼクス王子が掴んだ。そのままエミオンの指に摘まれていたクッキーを口元へ運び、パクリと食べる。
 エミオンはびっくりするのと、身構えるのを同時にした。
 これまでの経験上、このようなことのあとで嬉しい展開になったことはないのだ。
 案の定、ゼクス王子は顰め面をして言った。

「……甘い」
「クッキーですから!」

 材料はルネと同じものを使っているのだ。エミオンのクッキーだけが甘いわけではない。
 ゼクス王子はとにかく私をけなさないと気がすまないらしい。

「私は甘いものはあまり口にしないのだが――」
「では今度、塩入クッキーを作って差し上げます」

 エミオンはゼクス王子を睨み、皮肉のこもった声でそう言うと、なぜかゼクス王子は唇の片方の端を吊り上げた。

「悪くない。それならば、まずくても食してやる」
 
 食べる前から「まずい」とは失礼すぎる。
 堪忍袋の緒が切れたエミオンはゼクス王子を厨房から叩き出した。

 こんなことが十二年も続けば十分だ。
 早いところ、どこかに嫁いでしまいたい、とこの頃はよくそう思うようになった。
 さいわい、社交界デビューもすませたので縁談相手にはこと欠かない。
 拝命十三貴族の爵位はダテではない。
 後ろ盾を得たい下位の貴族から政治の場で発言力を強化したい上位の貴族まで、縁故関係を結びたい者が、引く手あまただ。
 
 私を好きだと言ってくれる男性がいれば、それが一番いいのだけれど。
 それがかなわない以上、ゼクス王子以外なら誰だっていい。

 たとえ旦那様となるひとがどんな嗜好の持ち主でも、多少のよくないところには眼をつむろう。自分だって、完璧にすてきな女性とはまだまだ言えないのだから。
 エミオンはゼクス王子を思い浮かべた。
 エミオンと一歳しか違わないのに、もう頭ひとつ分背が高い。特別に顔がいいというわけではないけれど、少し陰のある鋭い黒の瞳が年不相応におとなびていた。サラサラした短い黒髪、骨ばった身体つき、長い手足と意外に指がきれいだ。そしていつもたいてい黒い服を着ている。
 他のひとには愛想よく物腰もやわらかい、ただエミオンにだけ冷たいゼクス王子を、誰もがうらやむほど幸せになって見返してやるのだ。



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【2012/06/25 06:57】 | 受難の恋
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 おはようございます、安芸です。

 告知しておりました通り、第8章からエピローグ&おまけまで、削除いたしました。
 これまでお付き合いいただきましたたくさんの皆様、心よりお礼申し上げます。
 ありがとうございました!

 尚、エピソード集、愛してると言いなさい~彼方へ~が連載開始しております。
 本編より直結しておりますので、お時間の許す限り、お付き合いいただければさいわいです。

 以下、泣きごと。
 鬱陶しい! ので、嫌な方は回れ右にてお願いいたします。
 書籍化になるのはもちろん嬉しい! のですが、いままでの連載部分が全消去というのは、ものすごく哀しいです。うわーん。
 何度やっても慣れません、この作業。
 ああ、こんなこと思いながら書いたなー、とか、こんなことあったなー、とか、色々詰まっているので。
 とはいえ、やむなし、やむなし。
 この痛苦をよりよい形で皆様のお手元にお届けできれば、と思います。
 ではまた。
 引き続きよろしくお願いいたします。
 安芸とわこでした。


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【2012/06/25 05:01】 | 日々あれこれ
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 安芸です。

 受難の恋(じゅなんのこい)開始しました。
 好きな相手に素直になれず嫌われている三番目の王子と、
 嫌いな相手からどうしても逃げられない貴族の姫君の物語。
 どうぞよろしくおつきあいください。

*改訂版を小説家になろう様に重複投稿しています。
目次>>






 出会いは、ゼクスが四歳、エミオンが三歳のときだった。

 大広間で開かれた盛大なパーティ会場で、その小さな女の子を見た瞬間から、ゼクスはまったく動けなくなってしまった。
 あんまり長い間ポケッと口をあけて女の子を見ていたので、そんなゼクスに気づいた次兄のジョカに話しかけられても、すぐに返事ができなかった。

「誰のことを見ているんだ?」
「あの子」
「エミオン姫じゃないか。……話したいのか?」

 ゼクスはコクッと頷いた。
 次兄ジョカが「エミオン姫」と呼んだその子は、大勢の大人に囲まれて、つまらなそうにしている。

「……どうしたら笑ってくれるかなぁ」

 あの子の笑った顔が見たい、とゼクスは思った。きっととてもかわいいだろう。
 次兄ジョカがニヤリとしてゼクスの額をつついた。

「笑ってくれるかどうかはわからねぇけど……気を惹くことはできるぜ。耳を貸せよ。傍まで行って、こう言ってみろ……」

 ボソボソと、耳元で囁かれる。
 次兄のジョカはゼクスより六つも年上で、なんでもよく知っていた。聡明な長兄に比べてやんちゃが過ぎると世間一般の評価はしかし、ゼクスの知るところではない。
 ゼクスはジョカにそそのかされたとおり、エミオンのもとへトコトコ歩いていった。

「……」

 ゼクスを見て小首を傾げるエミオンの前に立ち、ゼクスは大きな声で叫んだ。

「ドブス!」
 
 まわりがザワッとした。
 エミオンはキョトンとしてゼクスを見ていた。
 ゼクスはエミオンのきれいな緑色の眼に自分が映っていることが嬉しくなって、つい何度も同じ言葉を繰り返した。

「ドブス! ドブス! ドーブスッ」

 はじめびっくりしていたエミオンも、傍にいてオロオロする初老の老婆の袖を引っ張り、言葉の意味をたどたどしく訊ねている。
 ここに至って、ゼクスも、「そういえばどういう意味なんだろう」と疑念を抱いた。
 エミオンに催促されて、老婆は困ったようにしわくちゃの顔をゆがめて、こっそりとエミオンに耳打ちした。
 ややあって、みるみると、エミオンの眼に涙がたまったのでゼクスはびっくりした。
 エミオンが声を上げて大粒の涙を流し、泣きじゃくりはじめる。
 ゼクスはわけがわからず、眼をしばたたかせた。
 笑ってほしかったのに。
 ただ、笑ってほしかっただけなのに。
 どうして泣いているんだろう……?
 そこへ次兄のジョカが飛んで来て、ゼクスの腕を掴んだ。

「ばーっか。本当に言う奴がいるかよ。逃げるぞっ」
 
 なぜ逃げなければいけないのかもわからず、ゼクスはひどく混乱した。
 ただひとつわかったことは、どうやら自分はなにかとてもひどいことを言ったらしい、ということだ。
 そしてすぐに、報いを受けた。
 エミオンがヒックヒックと泣きながら、手で眼元を擦り、ゼクスを指差してこう言った。

「あの子、嫌い」











 ――そして受難の恋がはじまる。


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【2012/06/24 20:01】 | 受難の恋
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 こんばんは、安芸です。

 このたび書泉様にてアルファポリス様のフェアを開催いただけることになりました。
 愛してる~もSS読み切り(特別小冊子)として書かせていただきました。
 第一巻 舞踏会の裏模様? です。紅緒&リゼでお送りします。ひとりでも多くの方に楽しんでいただければ嬉しいです。

 そして、緊急? お知らせです。

 愛してる~のエピローグ後のおまけも削除対象となりました。
 24日23時をもちまして、本編同様、削除となります。未読の方はお急ぎください。

 以下、他愛のない、ひとりごと。
 お時間のある方のみ、おつきあいください。
 愛してる~のカバージャケット、できました。
 今回も素晴らしい出来栄えです。
 個人的には、一番好きかも。愛してる~のあるワンシーンを凝縮したみたい。絵師様、すごいなあ。愛を感じます。笑。まさしく、渾身の一枚! かなりすてき。声を大にしてお礼申し上げます。

 愛してる~本編引き下げと同時に、当サイトの救済作をUPしたいな、と目論んでおります。
 あんまり色々手を広げるのも、どうかと思うのですが……だって、愛してる~を読んでいない方は、彼方へ は楽しめないと思うんですよねー……せっかくここまで足を運んでいただくのだから、手ぶらでお帰りいただきたくない。というわけで、救済策、ちがった、救済作!

 予告 ← というほどのものでもないですが。

 嫌いからはじまる恋。
 すれ違い愛 をテーマに、二人視点でお送りします。
 お時間のある方は、こちらもおつきあいいただければ嬉しいです。

 タイトルは 受難の恋 です。

 ではまた。
 安芸でした。
 
 


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【2012/06/23 00:20】 | 日々あれこれ
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 こんばんは、安芸です。

 このたびアルファポリス様より 拙宅ブログにて本編完結済みの

 愛してると言いなさい・3 刊行が予定されましたのでお知らせいたします。
 
 発売日につきましては確定しましたらまたお知らせいたします。
 
 つきましては、拙宅ブログにて掲載しております、第八章からエピローグまでが書籍化のため引き下げとなります。
 (おまけ は、ちょっと考慮中です)。

 期間は6月24日 午後11時とさせていただきます。

 どうかよろしくお願いいたします。

 前回引き下げの時、御存じない方も多々いらっしゃって、ご迷惑をおかけいたしましたので、期間内に何度かお知らせしようかな、と思っております。まだ未読の方がいらっしゃいましたら、恐れ入りますが、期間内に読了のほど、よろしくお願い申し上げます。

 書籍化につきましても、第3巻の刊行につきましても、皆様の応援あっての愛してる~です。心より、心より、心より、深くお礼申し上げます!

 ありがとうございました!

 予定より、連載開始が遅れております、エピソード編  愛してると言いなさい 彼方へ はもう間もなく、本当に、間もなく! この土日の嵐が過ぎたら、開始させていただきます。

 一ヶ月以上も更新がなくてすみません。

 引き続きよろしくお願いいたします。
 安芸とわこでした。

 以下、本日のできごと。
 お暇な方のみおつきあいください。
 踊りの大会、始まりました。
 安芸は裏方部隊出動! 踊るより大変! ひーっ。スタンバイから緊張して、失敗したら、目も当てられない。
 そしてさすが本番、想定外のハプニング続出。詳しくは、日曜日が終わったらご報告申し上げたいと思います。
 全身筋肉痛だよ、あいたたたたた……。
 でも明日も、いや、もう今日か。今日も明日も頑張るよ、チームのために。
 そして愛してる~に戻ります。
 引き続きよろしくお願いいたします。
 安芸でした。


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【2012/06/09 01:21】 | 日々あれこれ
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 こんばんは、安芸です。

 愛してる~完結から一ヶ月以上経ち……予定では6月よりエピソード編 彼方へ を連載開始するはずだったのに、遅れておりまして、申し訳ありません。

 愛してる~の改稿と彼方へのプロット、迷惑~の執筆は苦ではないのでまあいいですが、一本、長編のプロットを立てていて、こんなです。

 そして、以下、近況報告。お暇な方以外は回れ右にてお願いいたします。
 まもなく、安芸の趣味で踊っているチームが参加する大きな大会があります。
 今回は原稿が間に合わず、踊り手としての参加は見送った安芸ですが、裏方スタッフとして参加させていただきました。
 思ったこと。
 頭ではわかっていて、感謝もしていたことですが、華やかな表舞台とは別に、ステージを支える縁の下の力持ちの方々の、なんて多いことか……! 総勢、50名以上! 踊り手の二分の一以上が、休日を投げうち、練習参加しているのです。かくいう、このたびは安芸もその一人です。
 そして、全員でひとつのステージを創り上げる。
 今回は、衣装、音楽、小道具、大道具、振付、歌、すべてが素晴らしい! 過去に例をみないほど!
 こんなときに踊れないのは大変悔しいのですが、チームの皆を誇りに思う気持ちもあり、去年までの私たちはこんなにもたくさんのひとに支えられていたのだと、身にしみてわかりました。
 なんて、ありがたいことなのだろう。

 物語も同じです。
 プロットを作るのも、文章を綴るのも、書き手ですが、個人の力の他に、読者の皆様というかけがえなき力、与えられる熱により、支えられています。
 日常から得る感動、会話、経験、そんなものを物語に生かすことができるよう、日々言葉に耳を傾ける私ですが、目に見えないものにもっと注意を払うべきかもしれないとより深く感じた一日でした。

 これから一週間は怒涛の日々、そのあとは更なる怒涛を覚悟して、今日はこれから 彼方へ を書こうと思います。ご無沙汰しております皆様方に、近々、お目にかかれますように。

 引き続きよろしくお願いいたします。
 安芸でした。


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【2012/06/03 21:45】 | 日々あれこれ
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 こんばんは、いざ~様! コメントありがとうございます。

 半端な名指しで申し訳ありません。読み方はあっているだろうな、と思いつつ、きちんと読みあげてはご迷惑かと、こんな形となりました。

 改めて、拍手コメントありがとうございます!
 大変嬉しかったです~。
 なにぶん、一ヶ月も放置していまして、皆様に匙を投げられているだろうと戦々恐々としております。
 そこへ紅緒とリゼへのエールをいただき、やる気になりました。
 近日中に、愛してる~のエピソード編 彼方へ を連載開始します。
 おそらく不定期更新になるかと思いますが、お付き合いいただければさいわいです。

 花束もありがとうございました!
 ではまた、お気が向きましたらいらしてください。お待ちしております。
 引き続きよろしくお願いいたします。
 安芸でした。


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【2012/06/03 21:27】 | 日々あれこれ
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