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 ちょっと息抜き。

 本編より、番外編小話より、短く軽め。
 紅緒とリゼの四年間の日常のほんのひとコマ。
 リゼ視点です。

 愛してると言いなさい 

 

 

 リゼがそこに居合わせたのはたまたまだった。
 留守を預かっているはずの紅緒が家にいない。

 ――庭か?
 
 裏に回ってみる。
 最近、紅緒は野菜畑作りに精を出している。土を耕し、肥料だの、種だの、苗だのと忙しそうにしていた。魔法での助力は禁止をくらったため、いまのところリゼは手出ししていない。
 案の定、紅緒は裏にいた。だがひとりではない。眼元の涼しい、長身でがっしりした体格の青年が一緒だ。膝を折り、顔を寄せあい、手に土をすくって、真面目ながらも楽しそうに言葉を交わしている。青年の紅緒を見つめる眼には明らかに好意がこもっていて、リゼは瞬時に嫉妬に駆られた。

「この根野菜を育てるなら、もっと水は少なくていい。少し土が乾くくらいでちょうどいいんだ」
「そうなの?」
「肥料も――」

 リゼは「ベニオ!」と呼んだ。
 紅緒がリゼに気づき、ぱっと笑い、立ち上がる。青年がいかにも残念そうに講釈を中断し、曲げていた膝を伸ばす。むっつりとリゼを一瞥する眼にはひそかな敵対心がちらついている。リゼが魔法使いであることを知っていながらも、怯む気配はない。だが、面と向かって挑むには時期尚早と本人も自覚があるようで、会釈をするぐらいには礼儀正しさを欠いてはいない。

「こんにちは。お邪魔しています」

 リゼはにべもなく言った。

「そうですね。邪魔です。とっとと帰ってください」

 すると紅緒にきつく睨まれた。

「こら、失礼なこと言わないの」
「いいんだ。今日はもう帰るよ」
「またわからないことがあったら訊いてもいいですか?」
「もちろん。今度来るときは肥料の見本といい園芸書を持ってくる。俺、君の役に立てれば嬉しいんだ。ほら――君には結構、差し入れとか、もらってるしさ。他にも俺に出来ることがあれば、なんでも言ってくれよ」

 そう言って、爽やかにはにかんだように笑い、青年は帰っていった。
 青年を見送って、なにごともなかったように後片付けに入ろうとした紅緒の肩をリゼは掴む。

「なあに?」
 
 屈託ない顔だ。あの男の恋心などまるで気づいてもいない。
 リゼは不機嫌さを隠すことなく、苛々とごちた。

「あいつ、君に気がある」
「そんなわけないでしょ」
「そんなわけあるよっ。どーしてわからないかな!?」
「わかるわけないでしょ! ン、もう。なんでも色恋沙汰に結びつけるのやめてください。あのひとは、親切なご近所さんです」
「男がただで親切にするわけがないだろう! 下心があるに決まってる! だいたい、あいつだけじゃない。君にのぼせてぽーっとしてる奴が他にもまだいるじゃないか」
「い・ま・せ・ん」

 と、きっぱり宣言して、紅緒はリゼの主張を歯牙にもかけない。
 紅緒は手で土をぽふぽふと均(なら)し、シャベルやらバケツやらを片付けはじめた。
 リゼは紅緒にうるさくつきまとい、口を酸っぱくして言った。

「あのね、君は優しくてかわいいんだから、もっと警戒心を持ってくれないと困るんだっ。世の中の男どもは悪い狼! 不用意に近づくの禁止! 二人きりなんて言語道断! 阻止! 断固阻止!! 安全なのは僕だけですっ」
「はいはい」
「ちゃんと聞いてるのっ!?」
「聞いてます。ね、晩ごはん、なにがいい?」

 聞いてない。
 少なくとも、まともに取り合うつもりはないようだ。
 だが、罪のない無垢な瞳を向けられると、それ以上、怒る気にもなれなくて。
 いつもリゼはあっけなく白旗を掲げてしまうのだ。

「リゼ?」
「君には負ける」

 その天然鈍感なところも愛しく思うなんて、これが色ボケじゃなくてなんだというのか。
 リゼは紅緒の手から作業道具をひょいと奪った。

「僕が片づける。ベニオは先に家に入ってて」
「ありがとう」

 にこっと紅緒が笑う。
 いつまでも見ていたいような明るい笑顔。
 リゼもつられて笑う。

 なんてことのないやりとりが続く。
 それは幸福な一日。
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 愛してると言いなさい 

 

 

 リゼがそこに居合わせたのはたまたまだった。
 留守を預かっているはずの紅緒が家にいない。

 ――庭か?
 
 裏に回ってみる。
 最近、紅緒は野菜畑作りに精を出している。土を耕し、肥料だの、種だの、苗だのと忙しそうにしていた。魔法での助力は禁止をくらったため、いまのところリゼは手出ししていない。
 案の定、紅緒は裏にいた。だがひとりではない。眼元の涼しい、長身でがっしりした体格の青年が一緒だ。膝を折り、顔を寄せあい、手に土をすくって、真面目ながらも楽しそうに言葉を交わしている。青年の紅緒を見つめる眼には明らかに好意がこもっていて、リゼは瞬時に嫉妬に駆られた。

「この根野菜を育てるなら、もっと水は少なくていい。少し土が乾くくらいでちょうどいいんだ」
「そうなの?」
「肥料も――」

 リゼは「ベニオ!」と呼んだ。
 紅緒がリゼに気づき、ぱっと笑い、立ち上がる。青年がいかにも残念そうに講釈を中断し、曲げていた膝を伸ばす。むっつりとリゼを一瞥する眼にはひそかな敵対心がちらついている。リゼが魔法使いであることを知っていながらも、怯む気配はない。だが、面と向かって挑むには時期尚早と本人も自覚があるようで、会釈をするぐらいには礼儀正しさを欠いてはいない。

「こんにちは。お邪魔しています」

 リゼはにべもなく言った。

「そうですね。邪魔です。とっとと帰ってください」

 すると紅緒にきつく睨まれた。

「こら、失礼なこと言わないの」
「いいんだ。今日はもう帰るよ」
「またわからないことがあったら訊いてもいいですか?」
「もちろん。今度来るときは肥料の見本といい園芸書を持ってくる。俺、君の役に立てれば嬉しいんだ。ほら――君には結構、差し入れとか、もらってるしさ。他にも俺に出来ることがあれば、なんでも言ってくれよ」

 そう言って、爽やかにはにかんだように笑い、青年は帰っていった。
 青年を見送って、なにごともなかったように後片付けに入ろうとした紅緒の肩をリゼは掴む。

「なあに?」
 
 屈託ない顔だ。あの男の恋心などまるで気づいてもいない。
 リゼは不機嫌さを隠すことなく、苛々とごちた。

「あいつ、君に気がある」
「そんなわけないでしょ」
「そんなわけあるよっ。どーしてわからないかな!?」
「わかるわけないでしょ! ン、もう。なんでも色恋沙汰に結びつけるのやめてください。あのひとは、親切なご近所さんです」
「男がただで親切にするわけがないだろう! 下心があるに決まってる! だいたい、あいつだけじゃない。君にのぼせてぽーっとしてる奴が他にもまだいるじゃないか」
「い・ま・せ・ん」

 と、きっぱり宣言して、紅緒はリゼの主張を歯牙にもかけない。
 紅緒は手で土をぽふぽふと均(なら)し、シャベルやらバケツやらを片付けはじめた。
 リゼは紅緒にうるさくつきまとい、口を酸っぱくして言った。

「あのね、君は優しくてかわいいんだから、もっと警戒心を持ってくれないと困るんだっ。世の中の男どもは悪い狼! 不用意に近づくの禁止! 二人きりなんて言語道断! 阻止! 断固阻止!! 安全なのは僕だけですっ」
「はいはい」
「ちゃんと聞いてるのっ!?」
「聞いてます。ね、晩ごはん、なにがいい?」

 聞いてない。
 少なくとも、まともに取り合うつもりはないようだ。
 だが、罪のない無垢な瞳を向けられると、それ以上、怒る気にもなれなくて。
 いつもリゼはあっけなく白旗を掲げてしまうのだ。

「リゼ?」
「君には負ける」

 その天然鈍感なところも愛しく思うなんて、これが色ボケじゃなくてなんだというのか。
 リゼは紅緒の手から作業道具をひょいと奪った。

「僕が片づける。ベニオは先に家に入ってて」
「ありがとう」

 にこっと紅緒が笑う。
 いつまでも見ていたいような明るい笑顔。
 リゼもつられて笑う。

 なんてことのないやりとりが続く。
 それは幸福な一日。
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【2011/12/10 00:11】 | 四年間の日常
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紅梅
 紅緒ちゃんの天然小悪魔ぶりが・・・・。
 ある意味、気づかないって素晴らしい。リゼの嫉妬にも、気づいてる様子ないし。紅緒ちゃん、最強だ!!
 リゼ、苦労してたんだね。
 でもね? リゼが、一番危ないんじゃないかな!? 
 と思うのは、私だけでしょうか!?笑
 そんな、リゼも素敵ですけどね~

Re: 紅梅様へ
安芸とわこ
 こんばんは、紅梅様! コメントありがとうございます!

 わーい、いらっしゃいませ~。
 シリアス本編にお疲れの皆さまへ(それはおまえだろうというツッコミはなしの方向で)いつものゆるい二人をお届けします。

 ええ、紅緒、相変わらずニブイです。ほとんど犯罪なんじゃないかな。でもまあ、世の中には気づかない方が平和なことはいくらだってありますしねー!
 リゼも放置プレイされていてもまだ余裕あるし。もうしばらく苦労してもらおうかな。←悪。
 安芸が本編に疲れたらUPするかもしれないという、不定期更新まっしぐらの四年間の日常ですが、今後ともおつきあいいただければさいわいです。
 が。
 ご自身もお忙しいことでしょう!! 更新も忘れずにねっ。
 ではまた。
 引き続きよろしくお願いいたします。
 安芸とわこでした。
 

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この記事へのコメント
 紅緒ちゃんの天然小悪魔ぶりが・・・・。
 ある意味、気づかないって素晴らしい。リゼの嫉妬にも、気づいてる様子ないし。紅緒ちゃん、最強だ!!
 リゼ、苦労してたんだね。
 でもね? リゼが、一番危ないんじゃないかな!? 
 と思うのは、私だけでしょうか!?笑
 そんな、リゼも素敵ですけどね~
2011/12/10(Sat) 22:38 | URL  | 紅梅 #-[ 編集]
Re: 紅梅様へ
 こんばんは、紅梅様! コメントありがとうございます!

 わーい、いらっしゃいませ~。
 シリアス本編にお疲れの皆さまへ(それはおまえだろうというツッコミはなしの方向で)いつものゆるい二人をお届けします。

 ええ、紅緒、相変わらずニブイです。ほとんど犯罪なんじゃないかな。でもまあ、世の中には気づかない方が平和なことはいくらだってありますしねー!
 リゼも放置プレイされていてもまだ余裕あるし。もうしばらく苦労してもらおうかな。←悪。
 安芸が本編に疲れたらUPするかもしれないという、不定期更新まっしぐらの四年間の日常ですが、今後ともおつきあいいただければさいわいです。
 が。
 ご自身もお忙しいことでしょう!! 更新も忘れずにねっ。
 ではまた。
 引き続きよろしくお願いいたします。
 安芸とわこでした。
 
2011/12/12(Mon) 01:10 | URL  | 安芸とわこ #-[ 編集]
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