オリジナル小説サイトです。新刊書籍 王宮書庫のご意見番 恋するきっかけは秘密の王子様 発売中  異世界の本屋さんへようこそ! 全3巻 & 既刊 愛してると言いなさい全4巻 アルファポリス様より発売中です。よろしくお願いいたします
 おはようございます、安芸です。
 小さい頃、男の子は好きな女の子を苛めるものだ、と聞いてドキドキしたものです。
 しかし。
 大きくなってもまだ苛められていたら、それはもう単なる嫌がらせ、イジワル以外のなにものでもない――と判断されても仕方のないわけで。
 そんなイジワルに遭う姫君の話です。
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「ドブス!」

 どんな女の子も平等に傷つけることができる言葉といえば、この一言に尽きると思う。
 エミオンは齢三歳にしてその威力を、身をもって知った。
 あれから十二年が経つが、あのときの心の傷はいまだ癒されていない。

 それというのも、エミオンの幼心を抉ったゼクス王子がことあるごとに屋敷を訪ねて来ては、「ブス」と罵り、イジワルをするのだ。
 クアン兄さまと友達だと言ってしょっちゅう顔を見せるゼクス王子を、エミオンははっきりと嫌っていた。
 どこの誰が「ブス」と言われて近づけるわけがない。
 それなのにゼクス王子はいつも必ず隠れているエミオンを探しあてる。
 そのたびに、嫌味や皮肉を言って、エミオンをいじめるのだ。

 今日だって、妹のルネと二人でクッキーを作っているところに現れて、ルネには愛想よく「とてもお上手だ」とほめて味見までしたのに、エミオンに対してはそっけなく、「クッキーか……」と言ったきり黙ってしまった。

 クッキーでしょう! どう見ても!
 それともなに? ルネのはクッキーに見えて、私のはクッキーに見えないとでも!?

 内心怒り狂ったものの、エミオンは自分を抑えた。ここで感情的になってはゼクス王子の思うつぼだ。相手にしてはいけない。
 エミオンはゼクス王子を無視することにした。
 焼き上がったばかりのクッキーを、形崩れしないようひとつずつ皿に移していく。

「……」

 嫌なことに、視線を感じる。
 渋々背後を確認すると、案の定、ゼクス王子はすぐ傍にいて、エミオンの手つきをじっと見つめている。

「……召し上がりたいのですか」
「そうではない」

 だったら見なければいいのに。
 文句を言いたい衝動を、なんとか鎮める。

「そうですか」
「だが、あなたがどうしてもと言うのであれば、ひとつ試してみてもかまわない」
 
 むかっとした。
 なぜそんなことを言われてまで、せっかく焼いたクッキーをあげなければいけないのか。

「無理に召し上がらずとも結構で――」

 エミオンは訊ねなければよかった、と後悔しながらゼクス王子に背を向けた。
 早く帰ってくれればいいのに、と憤るエミオンの肘を、ゼクス王子が掴んだ。そのままエミオンの指に摘まれていたクッキーを口元へ運び、パクリと食べる。
 エミオンはびっくりするのと、身構えるのを同時にした。
 これまでの経験上、このようなことのあとで嬉しい展開になったことはないのだ。
 案の定、ゼクス王子は顰め面をして言った。

「……甘い」
「クッキーですから!」

 材料はルネと同じものを使っているのだ。エミオンのクッキーだけが甘いわけではない。
 ゼクス王子はとにかく私をけなさないと気がすまないらしい。

「私は甘いものはあまり口にしないのだが――」
「では今度、塩入クッキーを作って差し上げます」

 エミオンはゼクス王子を睨み、皮肉のこもった声でそう言うと、なぜかゼクス王子は唇の片方の端を吊り上げた。

「悪くない。それならば、まずくても食してやる」
 
 食べる前から「まずい」とは失礼すぎる。
 堪忍袋の緒が切れたエミオンはゼクス王子を厨房から叩き出した。

 こんなことが十二年も続けば十分だ。
 早いところ、どこかに嫁いでしまいたい、とこの頃はよくそう思うようになった。
 さいわい、社交界デビューもすませたので縁談相手にはこと欠かない。
 拝命十三貴族の爵位はダテではない。
 後ろ盾を得たい下位の貴族から政治の場で発言力を強化したい上位の貴族まで、縁故関係を結びたい者が、引く手あまただ。
 
 私を好きだと言ってくれる男性がいれば、それが一番いいのだけれど。
 それがかなわない以上、ゼクス王子以外なら誰だっていい。

 たとえ旦那様となるひとがどんな嗜好の持ち主でも、多少のよくないところには眼をつむろう。自分だって、完璧にすてきな女性とはまだまだ言えないのだから。
 エミオンはゼクス王子を思い浮かべた。
 エミオンと一歳しか違わないのに、もう頭ひとつ分背が高い。特別に顔がいいというわけではないけれど、少し陰のある鋭い黒の瞳が年不相応におとなびていた。サラサラした短い黒髪、骨ばった身体つき、長い手足と意外に指がきれいだ。そしていつもたいてい黒い服を着ている。
 他のひとには愛想よく物腰もやわらかい、ただエミオンにだけ冷たいゼクス王子を、誰もがうらやむほど幸せになって見返してやるのだ。



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「ドブス!」

 どんな女の子も平等に傷つけることができる言葉といえば、この一言に尽きると思う。
 エミオンは齢三歳にしてその威力を、身をもって知った。
 あれから十二年が経つが、あのときの心の傷はいまだ癒されていない。

 それというのも、エミオンの幼心を抉ったゼクス王子がことあるごとに屋敷を訪ねて来ては、「ブス」と罵り、イジワルをするのだ。
 クアン兄さまと友達だと言ってしょっちゅう顔を見せるゼクス王子を、エミオンははっきりと嫌っていた。
 どこの誰が「ブス」と言われて近づけるわけがない。
 それなのにゼクス王子はいつも必ず隠れているエミオンを探しあてる。
 そのたびに、嫌味や皮肉を言って、エミオンをいじめるのだ。

 今日だって、妹のルネと二人でクッキーを作っているところに現れて、ルネには愛想よく「とてもお上手だ」とほめて味見までしたのに、エミオンに対してはそっけなく、「クッキーか……」と言ったきり黙ってしまった。

 クッキーでしょう! どう見ても!
 それともなに? ルネのはクッキーに見えて、私のはクッキーに見えないとでも!?

 内心怒り狂ったものの、エミオンは自分を抑えた。ここで感情的になってはゼクス王子の思うつぼだ。相手にしてはいけない。
 エミオンはゼクス王子を無視することにした。
 焼き上がったばかりのクッキーを、形崩れしないようひとつずつ皿に移していく。

「……」

 嫌なことに、視線を感じる。
 渋々背後を確認すると、案の定、ゼクス王子はすぐ傍にいて、エミオンの手つきをじっと見つめている。

「……召し上がりたいのですか」
「そうではない」

 だったら見なければいいのに。
 文句を言いたい衝動を、なんとか鎮める。

「そうですか」
「だが、あなたがどうしてもと言うのであれば、ひとつ試してみてもかまわない」
 
 むかっとした。
 なぜそんなことを言われてまで、せっかく焼いたクッキーをあげなければいけないのか。

「無理に召し上がらずとも結構で――」

 エミオンは訊ねなければよかった、と後悔しながらゼクス王子に背を向けた。
 早く帰ってくれればいいのに、と憤るエミオンの肘を、ゼクス王子が掴んだ。そのままエミオンの指に摘まれていたクッキーを口元へ運び、パクリと食べる。
 エミオンはびっくりするのと、身構えるのを同時にした。
 これまでの経験上、このようなことのあとで嬉しい展開になったことはないのだ。
 案の定、ゼクス王子は顰め面をして言った。

「……甘い」
「クッキーですから!」

 材料はルネと同じものを使っているのだ。エミオンのクッキーだけが甘いわけではない。
 ゼクス王子はとにかく私をけなさないと気がすまないらしい。

「私は甘いものはあまり口にしないのだが――」
「では今度、塩入クッキーを作って差し上げます」

 エミオンはゼクス王子を睨み、皮肉のこもった声でそう言うと、なぜかゼクス王子は唇の片方の端を吊り上げた。

「悪くない。それならば、まずくても食してやる」
 
 食べる前から「まずい」とは失礼すぎる。
 堪忍袋の緒が切れたエミオンはゼクス王子を厨房から叩き出した。

 こんなことが十二年も続けば十分だ。
 早いところ、どこかに嫁いでしまいたい、とこの頃はよくそう思うようになった。
 さいわい、社交界デビューもすませたので縁談相手にはこと欠かない。
 拝命十三貴族の爵位はダテではない。
 後ろ盾を得たい下位の貴族から政治の場で発言力を強化したい上位の貴族まで、縁故関係を結びたい者が、引く手あまただ。
 
 私を好きだと言ってくれる男性がいれば、それが一番いいのだけれど。
 それがかなわない以上、ゼクス王子以外なら誰だっていい。

 たとえ旦那様となるひとがどんな嗜好の持ち主でも、多少のよくないところには眼をつむろう。自分だって、完璧にすてきな女性とはまだまだ言えないのだから。
 エミオンはゼクス王子を思い浮かべた。
 エミオンと一歳しか違わないのに、もう頭ひとつ分背が高い。特別に顔がいいというわけではないけれど、少し陰のある鋭い黒の瞳が年不相応におとなびていた。サラサラした短い黒髪、骨ばった身体つき、長い手足と意外に指がきれいだ。そしていつもたいてい黒い服を着ている。
 他のひとには愛想よく物腰もやわらかい、ただエミオンにだけ冷たいゼクス王子を、誰もがうらやむほど幸せになって見返してやるのだ。



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【2012/06/25 06:57】 | 受難の恋
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