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 こんばんは、安芸です。
 変な時間にUP。連続投稿ならず……。
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「エミオン姫に縁談?」

 ゼクスは独自に内密調査させていた周辺国の輸出入の報告書をめくっていた手を止めて、顔を上げた。

「そう。どうする?」

 正面に立ち、机上に手をついて身を乗り出し、頷いたのはエミオンの兄クアンだ。
 やわらかい色の金髪をやや長めに伸ばし、緑色の瞳を愉快そうに細めている。兄妹だけあって顔立ちはよく似ていた

「父は『結婚はまだ早い』と一蹴しているが、母は乗り気でね。『見るだけでも』と連日届く見合い写真をエミオンと二人で見比べて、ああだこうだと言ってるよ。あの調子では、『会うだけでも』と父が説得されるのも時間の問題だね」
「そうか、わかった。知らせてくれてありがとう。礼を言う」
「最有力候補はエパル家の長男。次にカムソン家の長男。次の次がヴェートマス家の長男」
「どこの誰が相手でも関係ない」

 ゼクスは気のない声で答えて報告書に眼を戻した。
 クアンはさも拍子抜けした、というように長く息を吐く。

「やけに落ち着いているじゃないか。なにか見合いを阻止する秘策でもあるのかい?」
「そんなものはない」
「……まさか、ただ指をくわえて見ているなんて言わないだろうね?」
「そこまでまぬけじゃない」
「だったらどうすると?」
「もらいにいく」
「なんだって?」
「エミオン姫をもらいにいく」
 
 クアンが帰り、そのあとも深夜まで黙々とゼクスは政務をこなした。
 一昨年、十四の誕生日に成人の儀を迎えてから少しずつ国政にたずさわるようになっていた。特に去年、次兄のジョカが突然行方をくらましてからというもの、長兄アギルの補佐を務めるようになって、仕事は倍増した。
 大変なことは間違いないが、ゼクスは仕事が好きだった。
 少なくとも仕事中は、エミオンのことを考えずにいられるからだ。
 あとは寝ても覚めてもエミオンのことに悩まされ、気の休まるときがない。
 
 はじめて出会ったときから十二年――
 
 気持ちは募るばかりだ。
 ゼクスは部屋の明かりを消し、窓辺に立った。カーテンを開けると、月光が射した。エミオンの髪の色のような金色の月が夜空にこうこうと輝いている。
 ゼクスは身の焼けるような想いにとらわれて深く吐息した。

 どうしてこんなに好きなのだろう……。
 なぜこれほど心奪われてしまうのか……。

 幼すぎて、はじめのうちは自分の心のモヤモヤがなんなのか、わからなかった。
 わからないまま、エミオンに会いに通い続けた。
 最初の印象が悪すぎたのか、エミオンには避けられた。ゼクスが追いかけるほどエミオンには逃げられた。次第にゼクスはエミオンの気を惹きたい一心で小さなイジワルを繰り返すようになり、泣かせたり、困らせたりした。そのことで自分も少なからず傷ついていった。
 幼い心はまだその感情の名を知らず、理解したときにはすっかり嫌われていた。

 優しくしたいのに、優しくできない。

 自分で招いた結果とはいえ、事態は深刻で改善には困難を極めた。
 激しい恋情に苦しめられる日々のはじまりだった。

 ゼクスが近くに行くとエミオンはサッと逃げるか、隠れるか、威嚇するか、どれかなので、滅多に笑った顔は見られなかったけれど、ごくまれに眼にする彼女の笑顔は本当にきれいで。いつまでもいつまでも、見ていたくて……。
 楽しそうにしているエミオンの邪魔をしたくないのに、傍に行きたいと思う。
 だけど近づくと危険を察知した小動物のような素早い反応で、エミオンは姿を消す。
 それをゼクスが追いかけるものだから余計に嫌がられるのだが、それでも自分をその緑の眼に映してほしい気持ちが上回る。

 少しでも、近くに。
 少しでも、一緒に。

 ゼクスは窓に寄りかかりながら、いつしか月の表面にエミオンの笑顔を想い浮かべていた。

 一度でいいから、自分に笑いかけて欲しい。

 ずっとそう願って通い続けているのに、いまだにかなわない。
 原因はゼクスにある。
 
 エミオンにだけ冷たくあたってしまうのは、なぜなのか。
 いつもいつも怒らせてしまうのは、どうしてなのだろう。
 心にもない言葉をぶつけたり、苛めてしまう自分がわからない。

「……子供か、私は……」

 先だってのクッキーの件だってそうだ。
 とてもおいしかったのにおいしいと言えず、余計なことを言って怒らせてしまった。
 どうして素直にほめられない。妹姫にはたやすくできることが、なぜエミオンに限ってできないのか。己のばかさ加減に呆れてしまう。
 ぼんやりと厨房のエミオンを思い起こす。
 不機嫌そうな一瞥を向けられたあのとき、エミオンの立ち姿に見とれていたと気づかれたのだろうか?

「……細い腕だったな」

 掴んだ肘は華奢で指は白く、間近で見た少し驚いた表情がかわいくて……別に乱暴をはたらくつもりはないのに身構えられてしまう自分がどうにも切なかった。

「くそっ……」

 頭を抱えて唸り、ゼクスは乱暴にカーテンを閉めた。
 胸を焦がす熱は冷めず、今夜もまた眠れないに違いない。

 明日、朝一番でエミオンの屋敷を訪ねよう。
 多少の無茶を通してでも、いや、是が非にでもエミオンを妻にもらい受けるのだ。

「また、嫌われるな……」

 ゼクスはポツリとこぼした。





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2012.06.27 / Top↑
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