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とある伯爵令嬢の回想 ――もにょん様より頂きました――

もにょん 様より頂戴いたしました!

出版お祝い短編『とある伯爵令嬢の回想』

日付 2011年 05月 10日 (Tue) 18時 05分 08秒



 ジークウィーン殿下がご執心と噂の女性を見た時の私の感想といえば、なるほどというものだった。
 そして改めて思ったものだった。
 このマザコンめ、と。

 私はジークウィーン殿下が生まれた翌年、そこそこの財力と権力を持つ伯爵家の次女として生まれた。
 条件的にジークウィーン殿下の結婚相手としてそこそこ整った条件を持ち、さらにそこそこの出世欲はある父の意向もあって、私は生まれたそのときから殿下の許婚候補の末席に数えられるようになっていた。

「お前は殿下と結婚するんだよ」

 私だって乙女の端くれ、そう言う父の言葉にいつか王子様が自分を迎えに来てくれるのだと、胸ときめかさなかったわけではない。
 6歳になるまで私はそのことに疑問を持ったことはなかったし、夢見るお姫様になるための努力も、幼子ながらそれなりにがんばっていたと思う。
 けれどそんな可愛らしい純情な少女は6歳になりしばらく過ぎた春の日、初めて殿下と顔を合わせた時に粉々に砕け散ってしまった。
 忘れもしないうららかな日差しの午後、殿下も参加するためこどももぜひ、と言われて王妃様が主催したお茶会へと母に連れられて初めて王城へ登城した。
 王城は立派で間近に見る王妃様はとても美しく、色とりどりのお菓子は可愛くて美味しそうで、この日のために新調してもらえたドレスに身を包んでいることもあり、幼い私はこれ以上ないくらい浮かれていた。
 その上、一生懸命練習した挨拶を王妃様に失敗せず披露でき、さらに可愛い淑女(レディ)ね、と褒め言葉をもらえたのだから、エンジンはフル回転で空でも飛べそうにご機嫌だった……殿下に会うまでは。
仲良くしてね、と王妃様から紹介された殿下はそれは綺麗で愛らしい容姿で、可愛くいじましくも私はこの人が私の王子様なのだと胸ときめかせて緊張しながら自己紹介をしたのだった。
 けれど殿下は私の自己紹介など知らないとばかりにそっぽを向いて、ひどく退屈そうに苛立ってさえいる様子で、王妃様にここから離れて遊んできてもいいかと尋ねた。
 まぁ、大きくなった今なら、7歳の小さなこどもが社交の場に連れ出されてわけも分からない人たちからの挨拶を受けて回らなければならないとなると、相当に苦痛だったのだろうと理解を示すことも出来る。
 だがその時の私は何か失敗してしまったのかという焦りと、憧れていた王子様に無視をされるという悲しみから泣きそうになっていた。
 だから殿下が王妃様の許可を得て離れようとした時に、自分も一緒に行きたいと咄嗟に申し出ていた。
 殿下はちょっと嫌そうではあったけれど了承してくれて、私に背を見せながら来いと命令した。
 その後は私を振り返ることもなくずんずんと早足でお茶会会場の庭園から離れていく。
 私はドレスに合わせた華奢な靴と長いドレスの裾のせいでうまく付いていけなくて、半泣きになりながら何度も殿下に待ってとお願いした。
 そうして私のもたつきぶりに気付いた殿下が煩わしそうに私の手を取ってグイと引っ張ったのだ。
 たぶん引いてやろうと思ってしたことだったのだろうけれど、ただでさえバランスを崩しかけていた私は、その気遣いの欠片もない引き方にとうとう足をもつれさせて思い切り転んでしまった。
 下は土の地面で、もちろん精一杯着飾ったドレスはぐちゃぐちゃに泥に汚れてしまうし、軽く捻ってしまったのか足も痛い。
 私は少し呆然と泥だらけになった自分の姿を見下ろしてから、悲しくて痛くてとうとうこらえきれずに泣き出した。
 そんな私に向かって殿下が放ったのは気遣いの言葉などではなく、これだから女は嫌なんだという冷たい声。
 この瞬間に私の中で王子様の美しい夢は、ぞっとする悪夢へと成り果てた。

 それ以来、父のお小言を無視して時に無難にすり抜け何とか殿下に接触しないように、接触しても最低限で済ませるように努力に努力を重ねて私は16歳になった。
 この頃にはジークウィーン殿下の傍若無人ぶりは社交界に広まっていて、特に女性蔑視の傾向の激しさはものすごいといわれるようになっていた。
 そんな中、私もとうとう正式に社交界にデビューすることが決まり、その挨拶のために再び王城を訪れた。
 結論を言えば謁見自体はとてもスムーズに問題なく済んだ。問題はその後だ。
 私は陛下と王妃様から直々に、ジークウィーン殿下とお話をしてみてくれないか、と頼まれた。
 どうやら殿下の態度について、そろそろ改善を試みなければならないと思っているようで、とりあえず女性とのおしゃべりというところから入らせてみようと考えたらしい。
 本音を言うのなら死んでもお断りいたします、と言いたかった。
 しかし私も貴族の端くれ、主君たる方々から直に頼まれて嫌だとは言えない。
 どうにか譲歩案として1時間だけという条件を引き出し、多少引きつったかもしれないけれど、何とか笑顔を浮かべて引き受けた。
 そうして王城にいくつもある応接室の1つに通され、待たされること30分。
 いきなり乱暴に扉が開いて驚く私の前に、大変不機嫌そうな殿下が現れた。
 呆気にとられた私をじろりと睨んで、そのままツカツカと早足で私が腰掛けていたソファの向かいまで歩いてくる。
 はっと気付いて私が立ち上がるのと逆に、どすんと乱暴に殿下がソファに腰を下ろした。
 挨拶を述べる私の声を遮って、殿下は自分は嫌々しょうがなく来たのだと、だから勘違いをするなと言い放った。
 私はあら奇遇ですね私もですよ、と言い掛けてさすがに止めて、しおらしくお礼を言ってみた。
 ビクビクとした侍女にお茶を入れてもらうと、それ以上は役に立たないと思い侍女を下がらせる。
 殿下と2人きりなどできれば避けたいところだけれど、何も咎のない侍女に被害が及ぶのは可哀想だ。
 そうして私は1つ、気になっていたことを殿下に聞いてみることにした。

「おひとつだけ、訊いてもよろしいでしょうか」
「……なんだ?」
「どうして殿下は女性がお嫌いなんですか?」

 まさか男しょ…げふんげふん。
 それはそれで、ある意味とても夢見れる事なのだけれど。
 殿下は心底嫌そうに、さらに馬鹿にしきった様子で鼻を鳴らして侮蔑の眼差しで私を見た。

「女はくだらない。暇さえあれば宝石にドレス、お菓子の話ばかりして、男に擦り寄ってたぶらかそうとする。なよなよと男に寄生して自分では何も出来ず、その癖にプライドだけは高い」

 お前もそうだろう、と決めてかかる視線に困ったように弱々しく微笑んで見せながら、内心では逆に鼻で笑ってやった。
 要するに殿下が認められるような女性というのは、毅然として自分の意見をはっきり言える自立した強い女性、ということだろう。
 頭の中でぐるりとそういう人物を検索してみて、思い当たったのは王太后陛下と王妃様の2人。
 思わず生ぬるい笑みを浮かべたくなるのを必死で堪えた。
 ああ、この殿下はマザコンなのか、と。

「お答えいただきありがとうございます。では気に食わないでしょうけれど、もう少しだけ、お約束の時間だけ私にお付き合い下さい。ですが、私と話をしようとしなくても構いません。何でしたら、別の用事をされても大丈夫です。それで私は両陛下に、殿下は私の父に顔が立ちますでしょう?」

 出来うる限り穏やかな微笑をにっこりと浮かべ、殿下が来るまで味わっていた紅茶のカップに侍女が用意して言ったティーポットから新しいお茶を注ぐ。
 これで殿下が出て行くなら非は殿下にあるのだから、私の知るところではない。
 飄々とお茶を楽しみ始めた私に戸惑った視線を向けた殿下だったが、苦虫を噛み潰したようにソファに座りなおした。
 そうして同じ部屋、対面にいながらそれ以降一言も喋ることなく予定の時間を無事に消化し、私と殿下は別れた。
 そうして私は改めて、あんな不躾で思いやりもないマザコン殿下に嫁ぐものかと心に誓ったのだった。

 それからまたしばらくの時間が過ぎ、父のごり押しと、その他諸々の事情から出席した園遊会で、私は遠めに殿下の姿を驚きの眼差しで見ていた。
 まぁよくもあの無礼者がここまで改心できたものだと。
 そうして必死に意中の女性に自分をアピールしようとしている姿に、爆笑してしまいそうになるのを堪えるのにひどく苦労した。
 あの殿下を可愛いと思う日がくるなんて!
 ―― 見事に空回りしている姿に扇を持った手が笑いを堪えてぷるぷると震え、翌日に腹筋が痛くなってしまったのはここだけの話だ。




                                      ありがとうございました!

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