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エミオン・五 絶対に違うもの

 こんばんは、安芸です。

 久しぶりの受難~です。
 地味に再開です。お付き合いくだされば嬉しいです。
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      エミオン・五


「……少し、お気の毒ですね」

 チャチャが遠ざかるゼクスの背を細眼で見送りながらそう言った。
 エミオン「いきなりなにを言い出すの」という眼でチャチャを見た。

「さしでがましいようですが、お嬢様の勘違いでございますよ。殿下はお嬢様がなにか不自由などされていないかと私にお訊ねだっただけです」
「え」

 チャチャが畏まった様子で小さく頷く。

「それから、以前私に暴言を吐いたことも頭を下げて謝ってくださいました」

 エミオンは眉をひそめ、信じ難い面持ちでかぶりを振った。

「そんな殊勝な方ではないわ」
「本当の話でございます」
「でも――だって――じゃあ、それならそうと言ってくださればいいのよ。ううん、違う。私がいきなりくってかかったからいけないのよね。どうしよう、あ、謝った方がいいかしら」

 自分で勝手に誤解したくせに、謝罪となるとなんだか気が進まない。負けたような気がする。勝ち負けの問題ではないというのに。

「ねぇチャチャ」
「はい」

 部屋に戻り、夕食までのひとときを持て余してエミオンはお菓子作りの本をめくっていた。
 チャチャはエミオンのために明日のドレスをみつくろっている。

「……どうして殿下は私を妻にしたと思う?」

 訊ねると、チャチャは緑色のドレスかクリーム色のドレスにしようか迷っていたが、エミオンが緑色をさすと丁寧に会釈してドレス掛けに吊るした。

「お嬢様のことをお好きなのではないでしょうか」
「それは絶対にないの。だから悩んでいるんじゃない」
「そうでしょうか」

 チャチャがかわいらしく小首を傾げる。エミオンが全否定したことが納得いかないようだ。
 なぜかムッとして、エミオンは主張した。

「そうよ。だって私、小さいころからブスブスって言われているのよ? 会えばイジワルばかりされるし、イヤミもたくさん。それなのにしょっちゅう顔を見せるの。もう嫌になっちゃうくらいに!」

 だんだん、腹が立ってきた。
 次に会ったら誤解したことを詫びようと思っていた気持ちがきれいに消えてなくなった。
 少しくらい自分本意でもかまうものか、とひらきなおる。
 ゼクスだってむりやりひとをさらい、こんな王宮の翼棟に押し込めて、いつのまにか結婚証書を作成したのだ。責められてしかるべきだろう。

「絶対に違うんだから」
「はあ。左様にございますか」

 気のない返事が癇に障る。

「そうよ。あのイジワル殿下が私を好きなわけがないじゃない」

 ちょっと、いや、かなりむきになってしまった。

「ではお嬢様は?」
「なによ」
「お嬢様はゼクス殿下のことをどう思っていらっしゃるのですか」
「そんなの――決まってるでしょ」

 ぷい、と横を向く。
 今日、何日かぶりに会ったゼクスを思い浮かべる。
 相変わらず顔色が悪く、憔悴していた。働き詰めなのだろう。兄クアンの話によると国政にたずさわるようになってから過労で倒れることがたびたびあるらしい。
 まだ十六だというのに、もっとずっとおとなびて見えるのは陰りを帯びた眼のせいだろう。
 黒い瞳。
 冷たくて、哀しげで……傷ついているようにも見えた。
 エミオンは部屋の隅を見るともなく見つめながら思慮をめぐらせ、自問した。
 どうして?
 私以外を選べなかったと言っていたが、その理由は?
 すまない、なんて謝るくらいならなぜこれほど強引な婚姻を結んだのだろう。
 考えに没頭していると不意に声をかけられた。

「どう決まっているのだ?」
「だから、嫌いに決まって――」

 ハッとした。
 弾かれたように振り返る。
 そこにはゼクスが立っていて、その背後では侍女たち数名が手際よく動きまわり、いつのまにか食卓の支度が整えられていた。

「聞くまでもなかったな」

 ゼクスはつまらなそうに言って、エミオンに手を伸ばした。

「食事だ。来い」
「え? えっ」

 ぐい、と手首を掴まれ、食卓の席につかされる。なぜか向かいにゼクスが座り、チャチャは無言で給仕をはじめた。

「あの……」
「今夜から食事は共にとる」

 眼を丸くする。
 ゼクスはうんともすんとも言わないエミオンをジロリと睨んできた。

「迷惑か」

 あわててかぶりを振る。

「別に、そんなことはありませんけど……」
「けど、なんだ」

 肉を切るナイフを止め、ゼクスはエミオンの言葉をじっと待つ。
 そうあらためて訊かれると、きちんとした返事を用意していない身では答えに詰まるというものだ。
 エミオンは不機嫌になりながら、ぐいと食前酒を呷った。

「食事の時間は守ってください」
「わかった」

 そして黙々と食事を済ませると、ゼクスは自分の部屋に帰って行った。
 新婚の妻をおいて、なにもせずに。

「変なひと」

 エミオンは遠ざかる黒い背を見えなくなるまで見送って、なんとなく、ほんのちょっとだけ高揚した気分で部屋に戻った。

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