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ゼクス・五 右腕からの助言

 こんばんは、安芸です。

 これにて第一章終幕。次話、第二章開始です。
 引き続きお付き合いいただければうれしいです。
 よろしくお願いいたします。
 
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      ゼクス・五


「だから数日は近寄るなと言ったろう」

 ダンがあきれ果てた顔でゼクスを詰った。
 急ぎの執務がひと段落し、午後、書類仕事をやっつけながら喋る。

「一週間は経った」

 ゼクスの反論をダンは手厳しく一蹴した。

「だからなんだ。よりいっそう関係を悪化させてりゃ世話ないぜ。ただでさえ前途多難な相手だぞ、慎重にいけよ。それで? 正妃の件はきちんと伝えたんだろうな。反応は? なんと言っていた?」
「なにも言われなかった」

 それだけではない。
 とても衝撃的な顔をされた。あれはどう見ても好意的とは思えない暗い表情だった。
 ダンは険しい眼つきで机上に手をついてゼクスの方に身を乗り出した。

「昨日の夕食は? なにか気の利いた会話ができたか?」
「いや」
「他には? おまえのことはなにも言わなかったのか」

 ゼクスは書類を捲る手を止め、うつむいた。

「……嫌いって言われた」

 ダンは「まいった」と呻いて顔を手で覆い、天井を仰いだ。

「これ以上嫌われてどうする気だ!」

 もっともだ。
 だがゼクスは打ちのめされなかった。エミオンに嫌われているのはとうにわかっていることだ。昨夜は少し凹んだが、考えてみれば、いまさら一度や二度、「嫌い」と言われたからどうだというのだ。ゼクスの気持ちは動かないのだからめげずに耐えればすむことだ。
 やけくそな心地で居直り、ゼクスはむすっと告げた。

「だが、これからずっと一緒に食事を取る約束をした」
「ほー」
「本当だ」

 ダンははじめて微笑し、頷いた。

「おまえにしてはよくやった」

 ゼクスは肩を竦めた。

「エミオン姫自身が望んだことだ。彼女の侍女の――チャチャが申すには、寂しいから食事をひとりでとりたくないそうだ。私がいることで少しでも気がまぎれるならば……いてさしあげたい」
「いいだろう。ただし、手ぶらで行くなよ」
「どうして」
「本当に気の利かない奴だな。せっかく会う口実があるのだから花でも菓子でも持って行くものだ。仮にも夫だろうが。妻に対する気遣いをそういうときに見せないでいつ見せるつもりだ」

 なるほど。
 ゼクスは感心し、ダンの助言に感謝した。そう告げると、よせという具合に手を振られた。

「礼などいい。会う機会が増えるのは結構なことだが、失言には注意しろよ。如何せん、おまえは前科が多々ありすぎるからな。思ってもみないことを口にするのはやめろ。本当に、心から思うことだけを言葉にしろ。そうすれば、エミオン姫だっておまえを毛嫌いしなくなる。いいか、憶えておけ。優しくされて嫌がる人間はいない。わかったな」
「わかった」
「……逆を言えば、自分に冷たくあたる人間を好きになる奴はいないってことだぞ。まあ、おかしな性癖がある奴を除けばの話だが……ともかく、俺の言ったように実行してみろ」
「ああ」
「よーし。じゃ、停まっているその手を動かせ。次、見積書だ」

 それから夕食の時間までゼクスはせっせと頑張った。
 集中できたので思った以上に仕事がはかどり、やや遅れを取り戻すことができた。

「時間だ。もう行け。最初から遅刻してはさまにもならん。そうだ、庭の件はどうした。おまえが作ったブランコは姫君に喜んでもらえたのか」
「……たぶん」
「煮え切らない返事だな。その様子からすると、どうせ肝心なことは言ってないんだろう」

 ゼクスは返事をせず、片づけにかかった。ダンは整理整頓にうるさい男だ。筆記用具は常に定位置に戻さなければいけないし、書類をぞんざいに扱おうものならば鉄槌が下る。

「もし姫君が本を読まれるなら、流行りの小説や詩集なども取り寄せておく。機会があれば訊いてみろ。いいな」

 ゼクスは頷いた。ダンは色々と口うるさいが、ゼクスのために細心の気配りを欠かさない男だ。

「助言、しかと聞いておく。ありがとう。いつもすまない」

 ダンは扉に寄りかかり、ゼクスを見送りつつ、さっさと行けという所作をしてみせた。

「……おまえがいつもそういうふうに素直で正直な男だったらエミオン姫だってそう辛くはあたらないだろうに。もどかしいことだ」

 ダンの呟きは、気が急くあまりすごい勢いでエミオンのもとに走って向かったゼクスの耳にはあいにくと届かなかった。

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では、物語が少しでも皆様の心に届きますように……。

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