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 こんにちは、安芸です。

 ゆっくりと再開。
 珍しく、次話に続いています。
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ゼクス・六



 やはり兄上のことを好きになったのだろうか……。

 ゼクスは物陰からじっとエミオンを見つめながら考えた。
 エミオンは侍女のチャチャを供に庭を散策している。白い花で埋め尽くされた花壇やガーデンテラスでのお茶を気にいっているらしい。

 明るい笑い声がかすかに聞こえる。エミオンはゼクスの前以外ではよく笑う。貴族の姫君らしくなく、大口をあけて屈託なく、それは楽しそうに。
 そんな顔も好きなのだが、ゼクスが近くに寄ると不意に警戒し身構えてしまうので滅多に近くでは見られない。
 こうして遠巻きに眺めるのがせいぜいだ。

「また自分の妻を盗み見しているのか」

 ギクリとして振り返ると、ダンが呆れた様子で立っていた。

「どうしてここに」
「謁見時間になってもおまえが現れないから迎えに来たんだろうが」
「もうそんな時間か」

 ゼクスは名残惜しげにもう一度だけエミオンの横顔に視線を向けてから踵を返した。

「すまない、行こう」

 謁見の間に向かいながらダンが面会相手の家柄や訪問の用向きをつらつらと読み上げる。ゼクスはその情報を頼りに会話し、必要な案件とそうでないものに選り分け、報告書をまとめる。これはほぼ毎日の仕事だ。
 いきなり肩を掴まれた。ダンが心配そうにゼクスの顔を覗き込む。

「なんだ?」
「顔色が悪い」
「いつものことだろう」
「いつもより悪い。食事はとったのか? 体調は?」

 ゼクスはダンの手を払った。「なんでもない」とそう言いかけたとき、強い眩暈に襲われた。よろめく。膝に力が入らない。急速に意識が遠退きはじめる。

「ゼクス!」

 ダンの叫び声を聞きながらゼクスは気を失った。


 眼を醒ましたとき、見慣れたベッドの天蓋が見えた。
 額がひんやりと冷たくて気持ちがいい。手をやると、冷水に浸して絞った布がのせられていた。

「気がついたか」
 
 横を見ると椅子に浅く腰かけたダンが不機嫌そうにこちらを見ている。

「あれから何時間経った」
「五時間」
「仕事する」

 ゼクスが起き上がろうとすると、ダンにむりやり止められた。

「バカ。今日はおとなしく寝ていろ」

 身体がだるい。頭も重い。眩暈もまだとれていない。ぐるぐると、世界がまわっている。
 ダンはゼクスを再び寝かしつけた。

「……医者は疲労と寝不足だと言っていた」
「……」

 否定できない。
 ゼクスは眼の上に腕を置いた。

「もしかしたら……エミオン姫は兄上を好きになったかもしれない」
「は?」
「兄上のためにせっせと差し入れを用意していた。そもそも最初に会ったときから打ち解けて見えたし、もしかしたら私が知らないところで会ったり、懇意にしていたのかもしれない」
「おいおい」
「兄上は仕事しか能のない私と違って素晴らしい御方だ。厳しいところもおありだが、常に冷静沈着、明晰で、優しくて、よい方だ。私ではなにひとつ兄上にはかなわない……エミオン姫だってこんな愚図で陰気で取り柄のない私より兄上の方がよいに決まっている……」

 ここ数日は悪夢の連続だった。
 エミオン姫が兄アギルの妻となり、ゼクスは捨てられるのだ。
 おかげで一睡も出来ず疲労は蓄積される一方で、いよいよ睡眠薬でも処方してもらおうかと思っていた矢先に倒れてしまった。
 そう話すと、黙って話を聞いていたダンは開口一番こう呟いた。

「……おまえ、バカだろう」
「バカだとも」

 なんとでも言ってくれ。
 妻に見向きもされない夫なんてみじめすぎる。

 拗ねていじけるゼクスにダンはずけずけと言った。

「おまえが愚図で陰気で仕事バカで不器用なことはいまにはじまったことじゃないだろう。いいか、アギル殿下は確かに理想的な次期王位継承者であらせられるが、それでもあの方の臣下になれと言われたら俺は断わるね」
「どうして」
「腹の底がまるで読めない奴の世話なんてごめんだ。俺はおまえぐらいわかりやすい奴がいい。根暗で口下手でお人好しで極度の勘違い野郎でも、裏表のある奴よりよほどましだ」

 ゼクスは腕を退け、横を向いてダンを睨んだ。

「兄上を侮辱するつもりか」
「違う。気質の好みの問題だと言っているだけだ。俺はおまえのアホくさいまでの誠実さを買っている。エミオン姫の男の好みがどうだか知らんが、おまえを振ってアギル殿下に走るほど惚れているようには見えんがね」
「なぜそんなことがわかるんだ」
「わかるさ。そこで五時間も泣きながらおまえにつきっきりで看病している姿を見ればな」

 ダンがベッドの反対側へ顎をしゃくる。
 ゼクスは訝しんだ。

 ――泣きながら看病?
 ――いったい誰が?

 そして首を逆に向けて、そこに泣き腫らした顔のエミオンを見つけて息が止まった。


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2013.04.07 / Top↑
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