オリジナル小説サイトです。新刊書籍 王宮書庫のご意見番 恋するきっかけは秘密の王子様 発売中  異世界の本屋さんへようこそ! 全3巻 & 既刊 愛してると言いなさい全4巻 アルファポリス様より発売中です。よろしくお願いいたします
 おはようございます、安芸です。

 ただいま連続更新中。
 ようやく一歩を踏み出せそうな二人です。
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      エミオン・七



 ゼクスが驚いたように眼を見開いてこちらを見ている。
 途端に恥ずかしくなった。
 エミオンは顔を掌で覆い隠しながら後ろを向いた。五時間泣きっぱなしだったので、涙と鼻水でぐしゃぐしゃなのだ。こんなひどい顔、とてもではないがゼクスに見せられない。

「どうして……」

 ゼクスの呆気にとられた呟きが聞こえて、エミオンはカチンときた。

「妻が夫の心配をしてはいけないのですか」

 名ばかりの妻ではあるが。

 ……本当に名ばかりの妻で、奥さんらしいことはなにひとつしていないという事実がエミオンを情けなく後ろめたくさせる。
 なにせ、ゼクスの寝室に入ったのもこれが初めてだ。
 それどころか、部屋の場所さえ教えられていなかった。
 結婚して二年も経つというのにさすがにこれはどうなのだろう。世間一般の常識に照らしあわせてみても、こんな夫婦関係はまずありえないのではないか。
 初夜はおろか、キスすらしていない。
 手を繋いだり、デートしたり、そういう甘い時間も皆無だ。

 思い返せばこの二年、いったいなにをしていたのだろう?

 エミオンはあらためて振り返り、蒼褪める思いだった。
 記憶にあるのは、ひたすらケンカ。それもエミオンが一方的に怒り、ゼクスが謝り、仲直りをしたりしなかったり、だいたいがうやむやのうちに流される。

 子供だ。
 子供のやりとりだ。こんなの夫婦じゃない。
 夫でも妻でもない――!

 少なくとも、エミオンが想い描いていたような理想の夫婦像からはかけ離れている。
 だめだ、このままではいけない。
 やり直さなきゃ。でもどこから? どうやって?
 エミオンが半ばパニック状態になっているところへ、ゼクスの声がかかる。

「……あなたが、心配? 私、を……?」

 いかにも不思議そうに問われるなど心外だ。
 エミオンはキッとゼクスを横目で睨んだ。

「心配ぐらいするでしょう! いきなり原因不明で倒れたなんて聞いたら」
「そうそう。知らせをやったらものすごい勢いで駆け込んできましたよね。俺の方が驚きましたよ」

 ゼクスの腹心、ダンがニヤニヤしながら口を挟む。

「……泣きながら看病って」

 エミオンは頬に血が昇るのがわかった。恥ずかしい。認めるのは癪だが、自分でも驚くくらいうろたえて涙がボロボロこぼれるのを止められなかったのだ。

「……いいでしょう、別に。看病くらい。私はこれでもあなたの、つ、妻ですもの。それとも、私がお傍についていては迷惑でしたか」
「いや」

 珍しく即答され、そのまっすぐな瞳にエミオンは怯んだ。
 普段はどことなく陰のあるゼクスの眼が喜色を浮かべて細められる。

「あなたが傍にいてくれて、私は嬉しい」
「そ、そうですか」
「うん」
「『うん』って……」

 絶句する。
 こんなに素直なゼクスはいままで見たことがない。

 俄かに体温が急上昇する。エミオンは照れるあまりカアッと赤くなり、いてもたってもいられなくなって席を立った。

「も、もう少しお休みになってください!」

 エミオンがゼクスの肩まで隠れるように掛けものを引っ張ると、手を掴まれた。
 ドキッとしてゼクスを見る。

「……眠るまで傍にいてくれるか?」

 エミオンが頷くとゼクスは微笑み、さっそくうとうとし、間もなく寝息を立てはじめた。
 気がつけばダンの姿はない。いつのまにか退出していたらしい。

 振りほどこうと思えばそうできるのだが、エミオンはゼクスに握られている手をそのままにしていた。
 仕事に従事する男の手だ。思ったよりずっと大きくて、頼もしい。

「……」

 飽かずにゼクスの整った顔を見つめる。
 いつもどこかもの寂しそうで、苦しそうで、それでいて怒ったようで、口を開けば偏屈のかたまりで、ケンカ相手にしかならないと思っていたのに――。

 まさかアギル殿下に嫉妬していたとは……。

 クスッと、笑いが込み上げる。
 誤解もいいところだ。どうりでアギル殿下と話すたびに傍から離れず、恐ろしく不機嫌だったはずだ。
 差し入れの件もきちんと説明しよう。あれはゼクスのために考えたレシピで、アギル殿下へはお裾分けにすぎないのだと。

 エミオンは胸がスッと楽になったと感じていた。
 ゼクスに対し、言葉が足らなかったのかもしれない。もっとよくお互いを知れば、このぎこちない関係も少しは改善されるだろうか?

「……眼が覚めたら」

 話をしよう。

 二年分のわだかまりをすべて払拭するくらい。
 いや二年なんて言わず、この十四年の間に積み重ねてきた思いをぶつけるのだ。

 エミオンはゼクスの手の温かさに心地よく浸りながら、いつしか自分も夢の世界に入っていった。


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      エミオン・七



 ゼクスが驚いたように眼を見開いてこちらを見ている。
 途端に恥ずかしくなった。
 エミオンは顔を掌で覆い隠しながら後ろを向いた。五時間泣きっぱなしだったので、涙と鼻水でぐしゃぐしゃなのだ。こんなひどい顔、とてもではないがゼクスに見せられない。

「どうして……」

 ゼクスの呆気にとられた呟きが聞こえて、エミオンはカチンときた。

「妻が夫の心配をしてはいけないのですか」

 名ばかりの妻ではあるが。

 ……本当に名ばかりの妻で、奥さんらしいことはなにひとつしていないという事実がエミオンを情けなく後ろめたくさせる。
 なにせ、ゼクスの寝室に入ったのもこれが初めてだ。
 それどころか、部屋の場所さえ教えられていなかった。
 結婚して二年も経つというのにさすがにこれはどうなのだろう。世間一般の常識に照らしあわせてみても、こんな夫婦関係はまずありえないのではないか。
 初夜はおろか、キスすらしていない。
 手を繋いだり、デートしたり、そういう甘い時間も皆無だ。

 思い返せばこの二年、いったいなにをしていたのだろう?

 エミオンはあらためて振り返り、蒼褪める思いだった。
 記憶にあるのは、ひたすらケンカ。それもエミオンが一方的に怒り、ゼクスが謝り、仲直りをしたりしなかったり、だいたいがうやむやのうちに流される。

 子供だ。
 子供のやりとりだ。こんなの夫婦じゃない。
 夫でも妻でもない――!

 少なくとも、エミオンが想い描いていたような理想の夫婦像からはかけ離れている。
 だめだ、このままではいけない。
 やり直さなきゃ。でもどこから? どうやって?
 エミオンが半ばパニック状態になっているところへ、ゼクスの声がかかる。

「……あなたが、心配? 私、を……?」

 いかにも不思議そうに問われるなど心外だ。
 エミオンはキッとゼクスを横目で睨んだ。

「心配ぐらいするでしょう! いきなり原因不明で倒れたなんて聞いたら」
「そうそう。知らせをやったらものすごい勢いで駆け込んできましたよね。俺の方が驚きましたよ」

 ゼクスの腹心、ダンがニヤニヤしながら口を挟む。

「……泣きながら看病って」

 エミオンは頬に血が昇るのがわかった。恥ずかしい。認めるのは癪だが、自分でも驚くくらいうろたえて涙がボロボロこぼれるのを止められなかったのだ。

「……いいでしょう、別に。看病くらい。私はこれでもあなたの、つ、妻ですもの。それとも、私がお傍についていては迷惑でしたか」
「いや」

 珍しく即答され、そのまっすぐな瞳にエミオンは怯んだ。
 普段はどことなく陰のあるゼクスの眼が喜色を浮かべて細められる。

「あなたが傍にいてくれて、私は嬉しい」
「そ、そうですか」
「うん」
「『うん』って……」

 絶句する。
 こんなに素直なゼクスはいままで見たことがない。

 俄かに体温が急上昇する。エミオンは照れるあまりカアッと赤くなり、いてもたってもいられなくなって席を立った。

「も、もう少しお休みになってください!」

 エミオンがゼクスの肩まで隠れるように掛けものを引っ張ると、手を掴まれた。
 ドキッとしてゼクスを見る。

「……眠るまで傍にいてくれるか?」

 エミオンが頷くとゼクスは微笑み、さっそくうとうとし、間もなく寝息を立てはじめた。
 気がつけばダンの姿はない。いつのまにか退出していたらしい。

 振りほどこうと思えばそうできるのだが、エミオンはゼクスに握られている手をそのままにしていた。
 仕事に従事する男の手だ。思ったよりずっと大きくて、頼もしい。

「……」

 飽かずにゼクスの整った顔を見つめる。
 いつもどこかもの寂しそうで、苦しそうで、それでいて怒ったようで、口を開けば偏屈のかたまりで、ケンカ相手にしかならないと思っていたのに――。

 まさかアギル殿下に嫉妬していたとは……。

 クスッと、笑いが込み上げる。
 誤解もいいところだ。どうりでアギル殿下と話すたびに傍から離れず、恐ろしく不機嫌だったはずだ。
 差し入れの件もきちんと説明しよう。あれはゼクスのために考えたレシピで、アギル殿下へはお裾分けにすぎないのだと。

 エミオンは胸がスッと楽になったと感じていた。
 ゼクスに対し、言葉が足らなかったのかもしれない。もっとよくお互いを知れば、このぎこちない関係も少しは改善されるだろうか?

「……眼が覚めたら」

 話をしよう。

 二年分のわだかまりをすべて払拭するくらい。
 いや二年なんて言わず、この十四年の間に積み重ねてきた思いをぶつけるのだ。

 エミオンはゼクスの手の温かさに心地よく浸りながら、いつしか自分も夢の世界に入っていった。


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【2013/04/08 07:00】 | 受難の恋
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