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 こんばんは、安芸です。
 受難の恋 最終話です。
 あしかけほぼ二年の物語に最後までお付き合いくださいました皆々様に深く感謝申し上げます!
 願わくば、また次の物語で皆様にお目にかかれますように。
 引き続きよろしくお願いいたします。
 安芸でした。

 *余談ですが、このあと小説家になろう様への掲載も予定しております。その際は若干の加筆修正及びあとがきなど含めますので、興味のある方はどうぞ覗いてみてください。
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 午後、南の棟の中庭を三人は物陰からこっそり眺めていた。
 エミオンの兄クアン、ゼクスの側近ダン、エミオンの侍女チャチャである。
 視線の先にいるのはゼクスとエミオン、それに王犬のバリィだ。
 小さな庭園に悠然と聳えるカゼッタの大樹に吊るされたブランコにエミオンが腰かけ、ゼクスはその背後について穏やかに談笑している。全身真っ黒い毛のバリィは元気にはしゃいで、土の上を跳ねまわっていた。
 エミオンの膝の上には木の細工のバスケットがあり、エミオンは中から紙に包まれたクッキーを取り出してゼクスに差し出した。


「これは?」
「塩入りクッキーです。ずいぶん前ですけど、作って差し上げると約束していましたでしょ」
「覚えていたのか」
「いいえ、きれいさっぱり忘れていました。でも、最近になって思い出したんです」
「思い出してくれて嬉しい。さっそくいただこうか」
「どうぞ、召し上がれ」

 ゼクスは美しく焼き上がったクッキーを一枚指で口に押し込んだ。

「……まずい」
「えっ。まずい!?」
「いや、冗談だ」
「ひどい! 本気で焦ったわ!」
「すまない、あなたがあんまりじっと見るからついからかいたくなった。うまいよ。とても上手だ」
「……お世辞は結構です」
「世辞じゃない。第一、あなたが私のために作ってくれたものがまずいはずないじゃないか」

 ゼクスがニコッと笑うとエミオンは眼に見えて動揺し、カアッと赤くなりながら言った。

「……たくさん焼きましたけど、もっといります?」
「全部もらおう」


 さすがに会話までは聞き取れなかったが、見るからに仲良しバカップルの様子だ。
 クアンは呆れかえって呟いた。

「……なんだあれは。ままごとか?」

 ダンは大仰に肩をそびやかした。

「会話が成立している分だけ以前に比べれば格段にましですよ」
「あれで? 色気もなにもあったものじゃないぞ」
「色っぽい空気作りはまだ無理ですよ。それでも自分の妻を陰から盗み見するような真似はたまにしかしなくなりましたから」
「たまにしているのか?」
「ええ、たまに」

 顔を見合わせる。

「……」
「……」

 クアンとダンは同時にやるせない溜め息を吐いた。
 この場を取りなすようにチャチャが努めて明るい声を紡いだ。

「でも最近ではお嬢様と殿下もだいぶ夫婦らしくなっておいでですし、なによりお二方共、とてもお幸せそうですわ」

 陽だまりの中で笑う二人は本当に幸福そうで、互いしか見えていない熱愛ぶりだ。
 なんだか急にばかばかしくなって、クアンとダンは同時に踵を返した。

「馬に蹴られてもなんだし、お邪魔虫は消えるか」
「俺の部屋にいい酒がありますよ。ちょっと寄って行かれませんか」

 チャチャは二人に続いて立ち去ろうとしたものの、一旦足を止め、振り返った。

「――初恋も叶うことがあるのですね」

 よかったですね、お嬢様。

 背を向けたチャチャの耳に風に乗って賑やかな笑い声とバリィの吠え声が届いた。

                                                     2014・6・22 完
   
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 午後、南の棟の中庭を三人は物陰からこっそり眺めていた。
 エミオンの兄クアン、ゼクスの側近ダン、エミオンの侍女チャチャである。
 視線の先にいるのはゼクスとエミオン、それに王犬のバリィだ。
 小さな庭園に悠然と聳えるカゼッタの大樹に吊るされたブランコにエミオンが腰かけ、ゼクスはその背後について穏やかに談笑している。全身真っ黒い毛のバリィは元気にはしゃいで、土の上を跳ねまわっていた。
 エミオンの膝の上には木の細工のバスケットがあり、エミオンは中から紙に包まれたクッキーを取り出してゼクスに差し出した。


「これは?」
「塩入りクッキーです。ずいぶん前ですけど、作って差し上げると約束していましたでしょ」
「覚えていたのか」
「いいえ、きれいさっぱり忘れていました。でも、最近になって思い出したんです」
「思い出してくれて嬉しい。さっそくいただこうか」
「どうぞ、召し上がれ」

 ゼクスは美しく焼き上がったクッキーを一枚指で口に押し込んだ。

「……まずい」
「えっ。まずい!?」
「いや、冗談だ」
「ひどい! 本気で焦ったわ!」
「すまない、あなたがあんまりじっと見るからついからかいたくなった。うまいよ。とても上手だ」
「……お世辞は結構です」
「世辞じゃない。第一、あなたが私のために作ってくれたものがまずいはずないじゃないか」

 ゼクスがニコッと笑うとエミオンは眼に見えて動揺し、カアッと赤くなりながら言った。

「……たくさん焼きましたけど、もっといります?」
「全部もらおう」


 さすがに会話までは聞き取れなかったが、見るからに仲良しバカップルの様子だ。
 クアンは呆れかえって呟いた。

「……なんだあれは。ままごとか?」

 ダンは大仰に肩をそびやかした。

「会話が成立している分だけ以前に比べれば格段にましですよ」
「あれで? 色気もなにもあったものじゃないぞ」
「色っぽい空気作りはまだ無理ですよ。それでも自分の妻を陰から盗み見するような真似はたまにしかしなくなりましたから」
「たまにしているのか?」
「ええ、たまに」

 顔を見合わせる。

「……」
「……」

 クアンとダンは同時にやるせない溜め息を吐いた。
 この場を取りなすようにチャチャが努めて明るい声を紡いだ。

「でも最近ではお嬢様と殿下もだいぶ夫婦らしくなっておいでですし、なによりお二方共、とてもお幸せそうですわ」

 陽だまりの中で笑う二人は本当に幸福そうで、互いしか見えていない熱愛ぶりだ。
 なんだか急にばかばかしくなって、クアンとダンは同時に踵を返した。

「馬に蹴られてもなんだし、お邪魔虫は消えるか」
「俺の部屋にいい酒がありますよ。ちょっと寄って行かれませんか」

 チャチャは二人に続いて立ち去ろうとしたものの、一旦足を止め、振り返った。

「――初恋も叶うことがあるのですね」

 よかったですね、お嬢様。

 背を向けたチャチャの耳に風に乗って賑やかな笑い声とバリィの吠え声が届いた。

                                                     2014・6・22 完
   
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【2014/06/22 02:15】 | 受難の恋
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ブログを拝見しました
つねさん
こんにちは。
スペースお借り致します。

お友達がたくさん出来て、投稿に参加する度ごとに直筆のカード式のファンレターが3~30枚以上届く文芸サークル(投稿雑誌)をやっています。
ネットでのやりとりも楽しいですが、ぬくもりが伝わるアナログでの活動は温かい気持ちになり、楽しさや幸せをより感じられます。
イラスト・詩・漫画・小説・エッセイなどジャンルを問わず何でも掲載しています。
月刊で150ページくらい。全国に約180人の会員さんがいます。
あなたがブログで発表している作品を雑誌に掲載してみませんか?
東京都内で集会も行っています。お友達や創作仲間作りにご活用下さい。

興味を持たれた方には、現在雑誌代と送料とも無料で最新号をプレゼントしています。
よろしかったらホームページだけでもご覧になって下さい。
ホームページにある申込フォームから簡単に最新号をご請求出来ます。
http://www2.tbb.t-com.ne.jp/hapine/

これからもブログの運営頑張って下さい。
失礼致しました。


Re: つねさん様
安芸とわこ
 こんばんは、つねさん様! コメントありがとうございます。

 このたびは魅力的なお誘いをいただきまして、ありがとうございます。
 ホームページを拝見させていただきました。
 皆様、楽しそうに活動していらっしゃるようで素敵です。
 ただ、せっかくお声をかけていただいて恐縮なのですが、ただいま書籍刊行のための作業が立て込んでおりまして、皆様とご一緒できるような時間が都合つきそうにありません。
 基本的に空いた時間で自分の書きたい物語を書くので、定期的な活動というものができそうになく、却ってご迷惑をおかけするのではないかと思われます。
 時間に余裕ができたときに、あらためてお伺いするかもしれません。その時はどうぞよろしくお願いいたします。
 貴重なお時間をいただきまして、拙宅を訪問いただいたことにお礼申しあげます!
 ブログと小説家になろう様、及び、拙作書籍にてお付き合い願えれば幸いです。
 引き続きよろしくお願いいたします。
 安芸とわこでした。
 

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こんにちは。
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お友達がたくさん出来て、投稿に参加する度ごとに直筆のカード式のファンレターが3~30枚以上届く文芸サークル(投稿雑誌)をやっています。
ネットでのやりとりも楽しいですが、ぬくもりが伝わるアナログでの活動は温かい気持ちになり、楽しさや幸せをより感じられます。
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http://www2.tbb.t-com.ne.jp/hapine/

これからもブログの運営頑張って下さい。
失礼致しました。
2014/07/08(Tue) 07:28 | URL  | つねさん #-[ 編集]
Re: つねさん様
 こんばんは、つねさん様! コメントありがとうございます。

 このたびは魅力的なお誘いをいただきまして、ありがとうございます。
 ホームページを拝見させていただきました。
 皆様、楽しそうに活動していらっしゃるようで素敵です。
 ただ、せっかくお声をかけていただいて恐縮なのですが、ただいま書籍刊行のための作業が立て込んでおりまして、皆様とご一緒できるような時間が都合つきそうにありません。
 基本的に空いた時間で自分の書きたい物語を書くので、定期的な活動というものができそうになく、却ってご迷惑をおかけするのではないかと思われます。
 時間に余裕ができたときに、あらためてお伺いするかもしれません。その時はどうぞよろしくお願いいたします。
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 引き続きよろしくお願いいたします。
 安芸とわこでした。
 
2014/07/08(Tue) 20:21 | URL  | 安芸とわこ #-[ 編集]
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