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 眼下に広がる王都は、想像以上に整備された都市だった。

「すごい……」

 紅緒は思わず身を乗り出しかけ、リゼに肩を押さえられる。

「テス、サジェ、ゆっくり旋回してくれ」

 双頭の竜はやや高度を下げつつ、翼の抑揚のない水平な遊覧飛行へと移った。

「王都ラッセンシェルは、建設当初から機能的構想のもとに計画された都市で」

 と、リゼが紅緒を左腕できつく抱えたまま説明をはじめた。
 空いた右腕を伸ばし、指であちらこちらを示していく。

「市街の中央に建つのが王宮で、通称レンヴァルツ宮殿。市街全体を囲んでいる白い筋は環状道路。宮殿から幾筋も放射状に伸びている道は、それぞれ大建造物群に続いている。たとえば、一番手前に見えるあの建物は大聖堂。その隣の道は、貴族議事堂。他にも大図書館や魔法研究所、学校、美術館、歌劇場、広場、市役所、まあ諸々の施設が環状道路沿いに建てられているんだ。あとで君の好きなときに、案内するよ」
「うん、楽しみにしてる」
「さあ、じゃ、行こう」

 リゼの合図で、竜は下降した。地上が近づくにつれ、人々のどよめきや喚声が大きくなる。
 皆、急に空が陰ったことで上を見上げ、突然現れた竜の姿に驚きいっていた。
 双頭の竜が着地点に選んだ場所は、中央の王宮敷地内、ぽっかりと空いた緑の空間で、青々とした芝生の上に舞い降りた。

「送ってくれて、ありがとう。テス、サジェ」

 揺れないよう、落ちないよう、慎重に配慮された空の旅は快適だった。紅緒が礼を言うと、竜の鼻から息が噴き出した。

 ――我らに用のあるときは遠慮なく呼びなさい。
 
 と、テス。

 ――くれぐれも間違いのないよう、主を頼む。

 と、サジェ。
 リゼに抱きあげられたまま地面に立つと、降下の際の風圧に巻き込まれないよう距離を置いて待機していた一団が、わっと集まってきた。
 先陣切って駆けつけたのは、紫を纏った身なりのいい貫禄のある壮年の男で、まっすぐにリゼのもとにやってきた。

「リゼ! よくぞ来た、待ちかねたぞ!」
「出迎えはあなただけですか」

 対するリゼはそっけなく、冷ややかに、陰険な声で言った。

「招かれざる客には挨拶もない、と。いい態度の息子ですね」
「そう皮肉るな。あれは今日トラムに出かけておる。領地相続の件でひと騒動あってな、どうしても行かねばならなかったのだ。明日には戻るだろう。戻ったら挨拶にやる。それよりも――」

 男がそわそわしながら、きょろきょろと辺りを見回す。

「どこだ? おまえ推薦の『帰したくなくなる』ほどのいい娘とやらは?」
「眼の前にいるでしょう」
「え?」

 男の視線が下がる気配がし、しげしげと見つめられて、あんまりそれが長く続くものだから、紅緒はしまいにはいたたまれなくなった。
 そして一言。

「子供じゃないか」
「帰ります」

 リゼは紅緒の肩を抱き、即座に踵を返した。まだ居残っていたテスとサジェにその旨を告げる。

「用がなくなりました。このまま家に戻ります」
「わー、待て待て! 待てと言うのに!」

 焦って、男が止めにかかる。
 リゼは肩に置かれた男の手を払いのけながら、辛辣で嫌味のこもった蔑視を注ぐ。

「あなたの無礼さには呆れました。友達やめます。金輪際もう二度と、僕に関わらないでください」
「すまぬ! 悪かった、余の失言だ。許せ、この通りだ」
「どの通りでも許しません」
「リゼ、頼む」
「いやです。僕のベニオを侮辱したんです。許しません。罰します。覚悟しておきなさい」
「ベニオ?」

 男の注意が紅緒に振られる。困り果てた様子は、必死に紅緒の助けを求めていた。

「ベニオ殿とおっしゃるのか。すまない。余が軽率だった。わざわざ遥か遠方の地よりお呼び立てしておきながら、心なき言葉であった。幾重にもお詫び申し上げる」

 男が腰を折る。本当に反省し、謝罪しているのがわかった。

「頭を上げてください」
「そなたが許してくれるまで上げられぬ」

 なかなか頑固だ。紅緒は肩で息を吐き、口をきいた。

「許します。いいでしょう、リゼ」
「許さなくていいんですよ、そんな男。あとで僕が絞めてあげます」
「私がいいと言っているんだから、いいの。リゼも許してあげて。それから、お友達に、罰するとか、覚悟しろとか言うのもやめなさい。物騒でしょ」
「物騒でも本気なので」

 リゼは反抗的に眼を怒らせたが、紅緒にたしなめられると、渋々従った。
 紅緒は男に向き直って告げた。

「私、身体は小さいですけど、これでも二十四歳です」
「えっ。あ、いや、そ、そうなのか。では、そなたの方が王子より三つほど年上だな」

 男は咳払いをして、朗らかに表情を取り繕う。

「年も近いことだ、きっと仲良くなれよう。どうか王子をよろしくお頼み申す」

 紅緒は黙っていた。ある単語が消化できず、前を向いたままリゼを呼ばわった。

「リゼ」
「はい」
「王子って、どういうこと? あなた『友達が息子さんの件で困っているから助けてあげたい』って、言わなかった?」
「嘘は言ってない」

 開き直って、やけくそ気味で、リゼが男を見る。

「(一応まだかろうじて)友達。で、息子が王子」
 
 と言うことは、眼の前のこの人物はダスタ・フォーン国第九十三代アワード国王陛下――。
 紅緒は茫然とした。頭が真っ白になって、思考が飛んだ。隣ではリゼが俯き加減に指をいじりながら、ぐずぐずとなにか唱えている。

「……だって君、王族を相手にするなんて言ったら絶対引き受けてくれなかっただろう? だから黙っていたんだ……お、怒らないで……」
 
 アワードが控えめに、だが品位のある物腰で場を取りなしてくる。

「余がそうしてくれと頼んだのだ。リゼを責めてくれるな」

 そして恭し(うやうや)く紅緒の手を取り、指先に口づけた。

「改めてご挨拶申し上げる。余はダスタ・フォーン国第九十三代国王、アワード。息子の名はジークウィーンだ」

 ジークウィーン・テラ・リュッセル・ダスタ・フォーン――正当なる第一王位継承者。
 くらりと眩暈がする。
 まさかこんなことになるなんて、と後悔しても後の祭りだった。



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2011.05.18 / Top↑
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