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 新作 Leviathan リヴァイアサン です。

 短い夏の恋物語。
 スローテンポの連載となりますが、皆様に楽しんでいただけるよう頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。
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「彼氏かあ。いいなあ。羨ましいなー。あー、私もすてきな彼氏が欲しーい!」

 うっかり声が大きくなってしまったのは、本音も本音、心の叫びだったから。
 ついさっき、幼なじみからメールで『彼氏ができました』報告をもらって『おめでとう!』の返信を打ち終えたばかりで、友達の幸せを祝福する気持ちと妬む気持ちの両方に苛まれてしまった。

 高校二年の一学期終業式が終わったこの日(明日から夏休み!)、クラスメイトとファーストフードでおしゃべりした帰り道で受け取った一通のメールが、南(みなみ)の一生を変えた。
 新着メールの着信音にスマートフォンを見た南は道のど真ん中で思わず歓声を上げた。周囲からジロジロ見られて、慌てて歩道沿いの公園に足を向け、空いているベンチに座る。幼なじみに初の彼氏ができたことが自分のことのように嬉しくて、嬉々として返信を打つ。
 だけどメール送信したあとに、ふと寂しさと妬ましさが込み上げてきた。

 ……いいなあ、と。

 実のところ、南はまだ誰とも付き合ったことがない。告白したことも、告白されたこともない。それどころか、まともに恋をしたことがないのだ。
 だから、彼氏と彼女という恋愛関係にとても憧れている。
 好きな人が自分を好きって、どんな感じなんだろう? と、ちょっと考えるだけでなんだか楽しくて。その反面、好きな人すらいない自分にがっかりもして。
 心底、幼なじみが羨ましいと思った。

「私って心が狭い……」

 なんだか凹む。

 南がちょっぴり自己嫌悪に陥ったとき、雨が降ってきた。天気予報では降水確率二〇パーセントだったので傘は持ってきていない。
 南は左手にスマートフォンを握りしめたまま、右手で鞄を掴んであわててベンチから立ち上がり、近くの葉桜の木の下に移動した。
 公園内を見まわすと、同じように傘を持たない人たちが急いで木の下に避難していた。

「通り雨だったらいいけど」

 溜め息をついて木の幹に凭れかかり呟く。
 だが、南の願いに反して雨は瞬く間に本降りになった。公園に面した表通りの歩道を歩く人々はみんな手に傘を持っている。
 時計を見るとまもなく十八時で、このままだと夕食に間に合わない。
 コンビニでビニール傘を買うか、濡れるのを覚悟で走って帰るか。
 どうしよう、と悩んだそのとき、眼の前にスッと男物の傘を差し出された。

「使って」
「えっ。あの」

 突然の出来事に驚いて、南は眼の前の若い男性を見つめた。
 優しげで、少し憂い顔の端整な長身の男の人が傘を差し出して立っていた。
 猫毛の柔らかな茶色の髪、理知的でどこか物寂しげな茶色の眼は吸い込まれそうなほど澄んでいる。イノセントなまなざしが南に向けられていて、眼が合った瞬間に、時が止まったと本気でそう思った。
 まわりの風景や雑音がすべて消えて、南の視界には彼だけが映っていた。
 だから二言目を彼が喋ったときには、ちょっとおかしいくらい動揺した。

「返さなくていいから」

 耳に低く響く声は余韻が甘く柔らかく、南が戸惑っている間に傘の柄を手に握らされた。

「じゃあ、さよなら」

 こんな土砂降りの中、傘を他人に譲って自分はどうするの? と南が焦って引き止めようとしたとき、彼の傍にいた彼より一、二歳年上の男の人が自分の傘に彼を入れた。
 雨足がいっそう強くなる。
 傘を差し、家路を急ぐ人波にまぎれて彼らの姿が見えなくなったあとも、南は足が石になったようにその場から動けなかった。

 ……びっくりした。

 映画や小説や漫画にあるような非現実的な出来事が自分の身に起こるとは、信じられなくて。

 ……こんなことって本当にあるんだ……。

 しばらくぼーっとしたあと、我に返る。胸がドキドキした。顔が火照っている。これは夢なんじゃないかと疑い、手に握る男物の傘の存在で現実にあったことなのだと実感する。
 相手にしてみれば、小さな親切だったのかもしれない。
 でも南にとっては大事件だ。こんなにロマンチックなことが人生で何度もあるわけがない。

 これはもしかしたらもしかして、運命の出会いかもしれない――?
 まさか。
 まさか、そんな。でも。

 心臓が熱い。鼓動が異様に速い。頭もくらくらした。思考はパンク寸前だ。
 おそらく過剰反応だけど、免疫がないのだからしょうがないと思う。

 ――素敵な人だったな。
 ――また会えないかな……。

 南は背中に羽が生えたような、ふわふわした気持ちのまま大事そうに傘を差して家路に着いた。

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2014.10.07 / Top↑
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