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七月三十日 晴天と傘

 こんにちは、二度目のダウン中の安芸です。
 原稿あるのに……間をおかず風邪をひいてしまいました。微熱がひかず、咳がひどく、病院に行っても「咳は1~2週間とれないかも」と宣告されてしまいました。咳込んだら頭が痛くて思考が鈍るのに! おまけに熱があったらおとなしく寝ておけとPC禁止令を出されるのに!! 
 本日ようやく平熱になったので、PCの前に座れました。咳はまだとれません。のどが痛い……。
 皆様も体調管理にどうぞお気を付け下さい。

 Leviathan 遅ればせながら二話です。
<< 前の話

     
 南は翌日、同じ時間帯に公園へ足を運んだ。借りた傘を返すという立派な口実があるので話しかけるきっかけには困らない。
 午後二時までは学校で夏期講習があるので、それを受けてからいったん帰宅し、急いで支度をする。白のチュニックとデニムのミニスカートに黒のフラットサンダル、そして籐のかごバック。髪型は両サイドを軽く編み込んで、後ろはふわっと流した。ヘアアクセをするかどうか悩んだけど、あんまり頑張りすぎたおしゃれに見えてしまうかもと思ってやめておく。あと忘れちゃいけないのが日焼け止め。念のために汗ふきシートも持って行こうかな。
 南は昨日と同じ葉桜の木の下でそわそわしながら彼が偶然通りかかるのを待った。

「もう一度会ったら、なんて挨拶しようかなあ。こんにちは、かな? 初めまして、かな? それともお礼? ううん、やっぱり自己紹介を先にするべき?」

 再会を夢見ている間はなんだかとても幸せで、待ちぼうけを食ってもちっとも退屈しなかった。
 昨夜はついつい浮かれて幼なじみの佳澄(かすみ)にLINEで報告すると、速攻返ってきたのはシビアなメール。

『それってただの親切じゃないの?』
『でも、もしかしたら運命の出会いかもしれないし』
『うんめいのであいー? もしもーし、熱中症ですかー? 頭やられてませんかー?』
『熱中症じゃないし、頭やられてもいないよ!』
『じゃあ言うけど、あのさ、そんなに素敵な人だったならフツーに彼女がいると思うよ』
『うっ……』

 佳澄のツッコミは時々とっても手厳しい。
 南がわかりやすく凹んだのを察したのか、慌てて佳澄が取りなす。

『まあ傘を返したいっていうならそれはそれでいいけど、おかしな下心は持たない方が無難でしょ。だってどー考えても会えない確率の方が高いんだからさ』
『う、うん、そうだね。わかった……』
『……ちゃんと適当に諦めるんだよ? あんたって変に諦めが悪いから、おねーさんはちょっち心配』
『おねーさんって、佳澄の方が誕生日遅いのに!』
『ブッブー。残念でしたー。精神年齢は私の方が上でーす。だから忠告はよく聞くように! 勝手に思い詰めて一人で盛り上がるの禁止! ダメ、絶対!』

 佳澄は親切で言ってくれたのだろう。それはわかってはいたけれど、でもそんなに簡単に諦めたりもできなくて。
 南は待った。一日、二日、三日、四日……ただじっと待ち続けた。
 だが彼は現れなかった。
 会えないまま時間だけがいたずらに過ぎていった。

「七月も明日で終わり、かぁ」

 晴天だというのに傘を携え、最初に出会った葉桜の木の下に佇みながら、南は溜め息を吐いた。

 ――やっぱり、運命の出会いなんかじゃなかったのかも。ただの偶然で、相手にとっては小さな親切で、特別に思うこと自体が間違いだったのかも……。

 もし明日会えなかったら、もう諦めよう。と心に決める。今度こそ、絶対。
 というのも、期待しては失望して、をずーっと繰り返しているのでメンタル的にとてもきつい。背恰好や髪型が似ている男性を見かけては追いかけ、確認するたびに人違いだとわかりがっかりして、とぼとぼと重い足取りで家に帰る。
 あれから毎日、この調子で。
 最初こそバラ色の気分で舞い上がっていた南も、日が経つにつれ、徐々に現実が見えてきた。

「やっぱり佳澄の言う通り、無理があったんだよね……どこの誰とも知らない行きずりの相手と、偶然もう一度会おうなんて……」

 あの日、彼が消えた道の先を眺める。
 車道の向こう側の歩道沿いには商店やブティック、ファーストフード、カフェ、居酒屋、クリーニング店、美容室、書店、雑貨店、花屋、コンビニエンスストアなどが軒を連ねている。
 その中で一軒、庭付きで煉瓦造りの建物があった。
 奥にグリーンガーデンが広がる門前には真鍮のランプが置かれ、玄関横には花の寄せ植えのプランターがあり、アンティーク調の古い木の扉には小さなドアプレートが下げられている。
 一度、興味本位で門から身を乗り出し、友達とドアプレートの文字を確認したことがある。

<Leviathan>

 なんて読むのだろう? いまだに正しい読み方がわからない。
 公園に通い詰めて時間だけが無為に過ぎていく中、南がなんとなくその煉瓦造りの家を眺めていると、割と頻繁に人の出入りがあることがわかった。老若男女問わず、恰好も様々、時折は外国人まで混ざっている。
 門も普段はきっちり閉じているし看板もないので、店舗運営されているわけではない一般家庭なのだろうけど、それにしても大勢が出たり入ったりと忙しい。

「私には関係ないか」

 南は視線を頭上へと移した。抜けるような青空と力いっぱい輝く太陽が視界を埋める。

「暑いなー……」

 立っているだけでもじっとりと汗が流れて気持ち悪い。
 でも、彼は暑さとは無縁の涼しい様子だった。雨が降ったせいで余計に蒸し暑かったはずなのに、そんなそぶりは欠片もなかった。

 ――使って。
 ――返さなくていいから。
 ――じゃあ、さよなら。

 記憶に残る彼の声を思い出すたび、胸がどうしようもなく騒ぐ。
 こんなこと初めてなので、どうしたらいいのかわからない。
 ただ、もう一度会いたい。
 会って、お礼を言って、話をしたい。
 それから、それから――?
 手の中を見つめる。男物のシンプルな藍色の傘で、柄の部分に見慣れぬロゴ・マークが入っている。
 この傘の重みだけが唯一、彼と南を結ぶ絆だった。


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では、物語が少しでも皆様の心に届きますように……。

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