オリジナル小説サイトです。新刊書籍 王宮書庫のご意見番 恋するきっかけは秘密の王子様 発売中  異世界の本屋さんへようこそ! 全3巻 & 既刊 愛してると言いなさい全4巻 アルファポリス様より発売中です。よろしくお願いいたします
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 そして連れて行かれた王宮は四棟からなる巨大建造物で、いままで紅緒がみたこともないくらい豪華絢爛、堂々たる風格に満ちていた。
 
 王と王妃、それに王子の居室があり、執務室のある本棟。
 王宮で働く労働者のための、左翼棟。
 国王夫妻並びに王子の側近であり、更には国務の舵取りをする宮廷人のための、右翼棟。
 王室礼拝堂のある正面棟。
 そして、警備や憲兵、親衛隊、近衛兵他、軍事を司る兵舎である別棟。

 室内装飾は豪華絢爛、すべての調度が素晴らしい細工で、紅緒の眼には眩しすぎた。

「まず寛いでくれたまえ」

 と、アワードに案内された夏用の食堂で一服しているところへ、急に押しかけたものがあった。

「師がこちらにおいでとは本当か」

 ばたん、といきなり扉が開かれる。
 血相変えて息せき切って現れたのは、茶髪茶瞳、片眼鏡(モノクル)をかけた、リゼよりも背が高い男だった。濃緑のラミザイを着て涙型の銀の耳環を下げている。
 きつい眼つきでリゼを見つけるなり、瞳孔が開いた。

「お久しぶりでございます、師よ。お元気そうでなによりです」
「元気じゃない」

 男を見るなり、「ちっ」と舌打ちしたリゼは、おもむろに顔を背けて牽制した。

「言っておくが、僕はいま忙しいからな」

 紅緒は白と青と金に縁取られた素晴らしい陶磁器のカップでお茶をいただきながら「どこが?」と横で突っ込
む。
 すると男が紅緒に視線をやって、すぐさま腕を腹に添えて深々と頭を下げた。

「休息中、突然お邪魔して失礼しました。私はリゼ・クラヴィエ師が第四弟子、ラヴェル・イングレッサと申します」
「ベニオ・サガラです。ベニオと呼んでください」
「ありがとうございます。私のことは、どうぞラヴェルとお呼びください」

 ラヴェルと名乗った男は愛想よく微笑した。ついでつかつかとリゼの傍にやってきて、にこーと笑う。だが口元だけで眼はまるで笑っていない。

「ここで会ったが百年目、逃がしませんよ」
「百年も経ってない」

 リゼは焼き菓子を口に放り込み、もぐもぐしながら、眼を合わせようとしない。

「それでも、しばらくいらしてませんよね? その間、私はずーっと、放置されていましたよね?」
「おまえに任せていたんだ」
「また適当なことを……。まあ、いいでしょう。私は過ぎたことは申しません。なにぶん師はお忙しい方ですし、風の噂も耳にしております」

 そこで、ちら、と顔を窺われて紅緒は小首を傾げた。風の噂とはなんだろう?
 ラヴェルがこほん、と付け足したように咳払いする。

「こうして……噂の方を直に拝見できましたので、無粋なことは申しますまい」
「じゃ、帰れ。僕とベニオの甘いひとときが台無しだ」
「そうはいきません。仕事がたまっております」
「あとにしろ」
「いーえ。ここで逃がしたら最後、師は行方をくらますに決まっております。絶対そうです。どうか一緒に来てください、お願いですから」
「断る」

 しかしラヴェルも負けてはいなかった。リゼの耳元に口を寄せ、紅緒には聞き取れないほどの声で囁く。

「ただとは申しません。宮廷人の情報ではどうです? 師のベニオ殿に手を出しそうな、女たらし・口説き魔で有名な危険人物ばかりを網羅した一覧名簿です。見たくないですか……?」

 リゼの眼が喰いつくように、きらっと光る。

「名簿はどこにある」
「研究室に」

 リゼはがたん、と立ちあがった。

「すまない、ちょっと野暮用ができた。行ってくる」
 
 紅緒は頷き、ひらひらと手を振った。

「行ってらっしゃい」
「にー」
「僕がいなくても浮気しないでね」

 すかさず、紅緒の右の瞼の上にキスを落とす。素早いしぐさに、避ける間もない。

「こら!」

 リゼは笑いながら身を引いて、背を返した。

「部屋は同室にするように頼んでおいたから! 夜は一緒に寝よ」

 そしてラヴェルと二人、騒々しく出ていった。

「お弟子さんなんて本当にいたんだな……」

 紅緒はぽつんと取り残されてしまい、物思う。いるとは聞いていた。だが詳しいことはなにも知らされていない。
 温くなったお茶を啜る。
 チビクロは皿に盛られたビスケットをしゃくしゃくいただいている。

「私、リゼのこと結構なんでも知ってるつもりでいたけど、本当はそれほどじゃないのかも。どうしてかな? ちょっと寂しいね……」

 ぺろり、とチビクロが紅緒の指先を舌で舐める。なぐさめてくれているのだ。
 紅緒がポケットに忍ばせていた猫じゃらしでチビクロをかまっていると、侍女が来て告げた。

「陛下よりお使いが参っております」

 案内された居室で待っていたのは、二十数名の女性。紹介もそこそこに、脱がされ、頭のてっぺんから足の爪先まで、事細かに採寸された。更にどんな香りや石鹸が好みか、好きな花、食べ物の好き嫌い、嗜好、枕の硬さ、シーツの素材等、云々。あらゆる事柄を根掘り葉掘り訊かれた。
 そのあとは入浴。マッサージ付き。てきぱき動く侍女らに最高仕立てのサラエンを着せられて、屋上の小庭園が見える小さな部屋へ案内される。
 そこで待っていたアワードに王妃カルバロッサを紹介され、三人で食事。相槌を打つのもできないほど、ほぼ一方的にジークウィーン王子のことを聞かされまくった。


 


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 そして連れて行かれた王宮は四棟からなる巨大建造物で、いままで紅緒がみたこともないくらい豪華絢爛、堂々たる風格に満ちていた。
 
 王と王妃、それに王子の居室があり、執務室のある本棟。
 王宮で働く労働者のための、左翼棟。
 国王夫妻並びに王子の側近であり、更には国務の舵取りをする宮廷人のための、右翼棟。
 王室礼拝堂のある正面棟。
 そして、警備や憲兵、親衛隊、近衛兵他、軍事を司る兵舎である別棟。

 室内装飾は豪華絢爛、すべての調度が素晴らしい細工で、紅緒の眼には眩しすぎた。

「まず寛いでくれたまえ」

 と、アワードに案内された夏用の食堂で一服しているところへ、急に押しかけたものがあった。

「師がこちらにおいでとは本当か」

 ばたん、といきなり扉が開かれる。
 血相変えて息せき切って現れたのは、茶髪茶瞳、片眼鏡(モノクル)をかけた、リゼよりも背が高い男だった。濃緑のラミザイを着て涙型の銀の耳環を下げている。
 きつい眼つきでリゼを見つけるなり、瞳孔が開いた。

「お久しぶりでございます、師よ。お元気そうでなによりです」
「元気じゃない」

 男を見るなり、「ちっ」と舌打ちしたリゼは、おもむろに顔を背けて牽制した。

「言っておくが、僕はいま忙しいからな」

 紅緒は白と青と金に縁取られた素晴らしい陶磁器のカップでお茶をいただきながら「どこが?」と横で突っ込
む。
 すると男が紅緒に視線をやって、すぐさま腕を腹に添えて深々と頭を下げた。

「休息中、突然お邪魔して失礼しました。私はリゼ・クラヴィエ師が第四弟子、ラヴェル・イングレッサと申します」
「ベニオ・サガラです。ベニオと呼んでください」
「ありがとうございます。私のことは、どうぞラヴェルとお呼びください」

 ラヴェルと名乗った男は愛想よく微笑した。ついでつかつかとリゼの傍にやってきて、にこーと笑う。だが口元だけで眼はまるで笑っていない。

「ここで会ったが百年目、逃がしませんよ」
「百年も経ってない」

 リゼは焼き菓子を口に放り込み、もぐもぐしながら、眼を合わせようとしない。

「それでも、しばらくいらしてませんよね? その間、私はずーっと、放置されていましたよね?」
「おまえに任せていたんだ」
「また適当なことを……。まあ、いいでしょう。私は過ぎたことは申しません。なにぶん師はお忙しい方ですし、風の噂も耳にしております」

 そこで、ちら、と顔を窺われて紅緒は小首を傾げた。風の噂とはなんだろう?
 ラヴェルがこほん、と付け足したように咳払いする。

「こうして……噂の方を直に拝見できましたので、無粋なことは申しますまい」
「じゃ、帰れ。僕とベニオの甘いひとときが台無しだ」
「そうはいきません。仕事がたまっております」
「あとにしろ」
「いーえ。ここで逃がしたら最後、師は行方をくらますに決まっております。絶対そうです。どうか一緒に来てください、お願いですから」
「断る」

 しかしラヴェルも負けてはいなかった。リゼの耳元に口を寄せ、紅緒には聞き取れないほどの声で囁く。

「ただとは申しません。宮廷人の情報ではどうです? 師のベニオ殿に手を出しそうな、女たらし・口説き魔で有名な危険人物ばかりを網羅した一覧名簿です。見たくないですか……?」

 リゼの眼が喰いつくように、きらっと光る。

「名簿はどこにある」
「研究室に」

 リゼはがたん、と立ちあがった。

「すまない、ちょっと野暮用ができた。行ってくる」
 
 紅緒は頷き、ひらひらと手を振った。

「行ってらっしゃい」
「にー」
「僕がいなくても浮気しないでね」

 すかさず、紅緒の右の瞼の上にキスを落とす。素早いしぐさに、避ける間もない。

「こら!」

 リゼは笑いながら身を引いて、背を返した。

「部屋は同室にするように頼んでおいたから! 夜は一緒に寝よ」

 そしてラヴェルと二人、騒々しく出ていった。

「お弟子さんなんて本当にいたんだな……」

 紅緒はぽつんと取り残されてしまい、物思う。いるとは聞いていた。だが詳しいことはなにも知らされていない。
 温くなったお茶を啜る。
 チビクロは皿に盛られたビスケットをしゃくしゃくいただいている。

「私、リゼのこと結構なんでも知ってるつもりでいたけど、本当はそれほどじゃないのかも。どうしてかな? ちょっと寂しいね……」

 ぺろり、とチビクロが紅緒の指先を舌で舐める。なぐさめてくれているのだ。
 紅緒がポケットに忍ばせていた猫じゃらしでチビクロをかまっていると、侍女が来て告げた。

「陛下よりお使いが参っております」

 案内された居室で待っていたのは、二十数名の女性。紹介もそこそこに、脱がされ、頭のてっぺんから足の爪先まで、事細かに採寸された。更にどんな香りや石鹸が好みか、好きな花、食べ物の好き嫌い、嗜好、枕の硬さ、シーツの素材等、云々。あらゆる事柄を根掘り葉掘り訊かれた。
 そのあとは入浴。マッサージ付き。てきぱき動く侍女らに最高仕立てのサラエンを着せられて、屋上の小庭園が見える小さな部屋へ案内される。
 そこで待っていたアワードに王妃カルバロッサを紹介され、三人で食事。相槌を打つのもできないほど、ほぼ一方的にジークウィーン王子のことを聞かされまくった。


 


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【2011/05/18 04:33】 | 愛してると言いなさい
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