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安芸とわこ

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では、物語が少しでも皆様の心に届きますように……。

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アルファポリス様
 
04/27(Wed)

八月四日・手紙

 熊本地震で被災された皆様のご無事をお祈り申し上げます。
<< 前の話 


 翌日はうだるような暑さだった。
 蝉がうるさいほど鳴いて、太陽は灼熱の光線を注いでいる。アスファルトは逃げ水のような蜃気楼がいつ見えても不思議じゃないほどの熱を持っていて、悪いことに、風もない。
 南は講習の合間の休憩時間に、全開した教室の窓からグラウンドを眺めていた。
 この炎天下で、野球部はバッティング練習やノックを受ける練習を朝からずっと続けている。
 時折、威勢のいい掛け声が響く。意味不明のものから、「走れ走れー」と叱咤する声まで。ただ立っているだけでも辛いのに、全力疾走しひたすらボールを追う野球部員たちは、たぶん感覚神経が麻痺している。常人より暑さに対するベクトルが振り切れて、おかしくなっているに違いない。

 でも、なんだか格好いい。

 汗まみれ、泥まみれで汚いのに、甲子園出場校という看板を背負った彼らの集中力はすごい。
 全身から勝利に対する執念が漂っていて、皆真剣そのものだ。
 そして絶えず聞こえる、吹奏楽部の音楽もそう。
 甲子園で定番の曲や校歌を、何度も繰り返し演奏している。トランペットの青空を突き抜けるような甲高い音、トロンボーンの表情豊かな幅広い音、ホルンの柔らかい音、チューバの低い音。
 他にも、ユーフォニウム、サックス、クラリネット、フルートに、打楽器。
 全部が絶妙に溶け合って、迫力ある音を紡いでいる。
 耳を澄まして聞いていると、元気と勇気が湧いてくるようだ。
 ふと、昨日偶然駅で会った関義弘のことを思い出した。

「関君も頑張ってるかなー」

 きっと、暑さにめげず、練習に励んでいるだろう。

「よーし、私も頑張ろうっと」

 南は自分の席に戻り、机に置いていたペットボトルの水をゴクリと飲んだ。それから英文法の課題を見直す。英語は苦手科目で、特にリスニングが不得手だ。テストではまず平均点に達しない。得意の現代文や古文に比べて点数が悪すぎる。
 この弱点を克服するため夏期講習に参加したのだ。
 だが講習の最初の数日は自分の選択を後悔した。わからないものはわからない。苦手なものは、やっぱりどうしても苦手。早々にリタイアしたい気持ちになっていたとき、奇跡が起こった。

 由良との出会い。

 彼と付き合い始めてまだ四日目だけど、かつてないくらい勉強に真剣に向き合っている。
 英語の文法がなんだ。リスニングがどうした。わからなければ、わかるまで訊いて理解すればいい。そのための努力を惜しまなければ、いずれは平均点ぐらい取れるだろう。

 恋ってすごい。

 不思議なほど前向き(ポジティブ)になれる。
 なんといっても、講習が終われば<Leviathan(リヴァイアサン)>に行ける。由良に会えるのだ。これでやる気が出ないはずがない。
 南は目の前の参考書に集中した。次第に野球部の喚声も吹奏楽部の音も気にならなくなる。
 ひと夏の短い生を歌う蝉の声だけが、蒸し暑い教室に届いていた。


 駅のトイレで身だしなみを整え、<Leviathan(リヴァイアサン)>の扉を叩く。
 有馬からは由良との交際が決定したあとに、「自由に入ってきてください」と告げられていたが、まだ厚かましいような気がして、勝手に玄関扉を開けられなかった。
 カチャ、と小さな音がして扉が開く。現れたのは有馬だった。
 今日は薄いブルーのストライプのシャツに、色の抜けたジーンズと白のスニーカーを合わせている。短めの黒髪とその服装は、ラフだけどラフ過ぎず、有馬によく似合う。

「こんにちは、南さん」
「こんにちは、有馬さん」

 南がペコリとお辞儀して顔を上げると、有馬がやや表情を曇らせて言った。

「申し訳ありません。本日、由良様はこちらにおられません」

 ガーン、と効果音付きでショックを受ける。
 その一言で、南は落胆した。たったいまのいままで世界はバラ色だったのに、この瞬間はもう眼に映るすべての景色が色褪せて見える。

「そ、そうですか……」

 別に、今日<Leviathan(リヴァイアサン)>で会うと約束したわけじゃない。
 ただなんとなく、ここに来れば由良はいるものだと勝手に思い込んでいただけだ。
 会って昨日のことを話したかった。筋肉痛にならなかったか、直接訊きたかった。すごく楽しかったから、彼さえよければまた行こうと誘ってみたかったのに。
 とても残念に思った。胸に隙間風が吹く、とはこんな感じなのかな。
 南が露骨にがっかりした顔で溜め息を吐いたのを見て、有馬は慰めの声をかけてきた。

「由良様も南さんとお会いできず、とても残念がっておいででした」

 これを聞いてちょっと気分が浮上する。社交辞令かもしれないけれど、それでも嬉しい。
 南は由良がいないならここに寄っても仕方ないかな、と思いそのまま帰ろうとしたところ、有馬に引き止められた。

「お待ちを。もしご都合がよろしければ、冷たいものでもいかがですか」
「お邪魔してもいいんですか」
「もちろんです。どうぞ」

 有馬に促されるまま、南は玄関を潜った。
 ピアノが聞こえる。
 ガーシュウィンのラプソディー・イン・ブルー。
 クラシック音楽とジャズが混然としたような自由奔放な曲で、聞いていると気分が明るくなってくる。 
 教授かな、と予想してフロアに入る。予想的中。今日みたいな猛暑でもスーツを着用した初老の男性が、気持ちよさそうな顔で鍵盤に指を躍らせている。
 他にはオープンキッチンにカフェエプロン姿のマスターが一人、新聞を広げて読んでいる。
 南を見つけるとニコリと笑い、新聞をたたむ。スツールからゆっくりと腰を上げて言う。

「おや、南ちゃん。いらっしゃい。なにか飲む? それとも食べる? なんでも作るよ」

 すぐに返事ができないでいると、有馬が背後から提案した。

「桃のフローズンヨーグルトはいかがですか。それに梅ジュース。さっぱりしますよ」

 おいしそうだ。
 南が眼を輝かせるとマスターは手を洗いながら頷いた。

「お、いいセレクト。有馬君も飲むかい?」
「はい。炭酸割りで」
「よしきた」

 そして早速、マスターは冷蔵庫を開けて作業を開始する。
 南は既に定位置としたソファに座ると、有馬に自分も座っていいかと訊かれた。

「もちろんです」

 有馬が対面に座る。咄嗟に、隣でなくてよかった、と思う。隣は由良の指定席にしたい。なんて、こんな恥ずかしいことは口にできないけど。
 南が恋愛脳に浸っていると、有馬が会釈して言った。

「考えてみれば、俺、まだ南さんに挨拶をしていませんでした。改めまして、有馬一久(ありまかずひさ)です。由良様の世話役を務めさせていただいております」
「世話役?」

 あまりなじみのない言葉を耳にして南は怪訝に思い、訊き返した。
 有馬が微苦笑して答える。

「由良様は旧家の出の方なので、由良様に限らず、お身内の皆様に俺のような者が一人は必ずついています。身辺警護や身の回りの世話、雑用全般が仕事です」

 旧家の出。

 寝耳に水だ。それってすごいお金持ちの家ってこと? いや、お金持ちとは限らないかも。でも専属のお付きの人がつくくらいなのだ、由緒正しいおうちなのかもしれない。
 心臓がドクドクと大きく鳴る。その都度、緊張が膨れ上がった。手汗をかく。血の気が引くなんて、あまり経験がなくてはっきりとは言えないけれど、こういう状態かもしれない。息をするのも苦しくなって、全身が強張っている。頭の中では、嫌な想像が忙しく駆け巡る。

 もしかしたら、身分不相応、とか? 不釣り合いだから別れてくれ、とかそういう話?
 或いはもう、決められた婚約者……本当は許嫁がいるとか、知らされるのかもしれない?

 南が心の準備を整えられないまま黙っていると、有馬はシャツの胸ポケットから黒い名刺入れを出し、名刺を一枚ローテーブルに置いた。

「俺の携帯番号とアドレス、緊急時の連絡先です。もしなにかあった際は、ここに連絡を」
「わ、わかりました。アドレス登録しておきます」
「もし不都合がなければ、南さんの携帯番号とアドレスを教えていただけますか」

 南は一も二もなく頷いた。鞄からスマートフォンを取り出して、電話帳から自分の連絡先をタップし、メニューから赤外線送信で有馬の携帯端末に送る。

「ありがとうございます」

 会話が途切れる。有馬の態度は変わらず、冷静で慎ましいままだ。
 南はおずおずと訊ねた。

「……あの、それだけですか?」

 すると有馬の方が不審そうに訊ね返してきた。

「それだけとは?」
「えっと……その、私と由良さんとの交際を反対されるのかと思って……」

 南が有馬の反応を窺うように答えると、彼は驚きに眼を軽く瞠って否定した。

「いいえ、まさか。むしろ南さんには感謝しています。あなたと由良様が交際を始めて日は浅いですが、由良様は楽しそうです。昨夜など本当に機嫌が良くて、あんなに心穏やかに笑われる様子を見られるとは思ってもいませんでした」

 有馬の紡ぐ言葉を聞いて南は安堵した。強制的に引き離されるかも、と心配してしまったが、どうやら取り越し苦労だったらしい。
 それに有馬によると、由良は機嫌がよかったという。それは初デートが成功したということだ。
 よかった。楽しいのは自分だけじゃなかったみたいで嬉しい。
 南が内心笑み崩れていると、連絡先を交換し終えた頃合いを見計らったように、マスターがガラスの器とグラスを載せたトレイを持って運んできた。

「はい、お待ちどうさま。桃のフローズンヨーグルト、バニラアイスクリーム添えと梅ジュースのソーダー割りですよ。ごゆっくり、南ちゃん」
「ありがとうございます! いただきます」

 銀のスプーンを持ち、シャーベットからいただく。舌の上でシャリシャリする塊が一瞬で溶ける。至福の瞬間だ。

 おいしくて幸せ。

 南がほにゃっと思わず顔の筋肉を弛緩させると、小さなシャッター音が聞こえた。ふと視線を上げれば、有馬がスマートフォンを南に向けて構えている。

「え」

 事態が呑み込めずスプーンを口に銜えたまま固まる南の前で、有馬が指を動かす。

「由良様に送信いたします」

 南は仰天した。

「え!? ちょ、ま、待って、いま変顔じゃなかったですか!?」
「いえいえ、自然な表情が大変おかし……素敵ですよ」
「絶対嘘です! いまおかしいって言いかけましたよね!? 不意打ちは卑怯ですよ」
「一枚だけですのでお許しを。俺のデータは削除しますので」
「どどど、どうしよう。いま、絶対変顔だった。パンダアライグマだった。まずすぎるよー」
「は? パンダアライグマ?」
「垂れ目に見えるってことです! って、なんで笑ってるんですかー!」

 有馬がくつくつ笑いながら南をなだめすかし、結局、そのままになってしまった。

「少々、失礼します」

 そう断って、有馬が一旦席を外してすぐに戻ってきた。手に便箋とボールペンを持っている。
 おもむろにそれを差し出され、南はポカンした。

「なんですか、これ」
「由良様に一筆いただけないかと思いまして」

 有馬はにこやかに、しかしさりげなく強引にテーブルの上を片付けて便箋の表紙を捲る。

「LINEでもいいのですが、充電切れになったり本体が破損すればデータは失われますので、やはりここは古典的ですが恋文……ではなく、お手紙を頂戴できれば由良様がお喜びになります」

 南は動揺しながら言った。

「な、なんでいきなり手紙なんですか」

 南が疑問をぶつけると、有馬は涼しい顔で復唱した。

「南さんのお気持ちを手紙に認め、これを届ければ、由良様はきっとお喜びになります」

 言い切られてボールペンを手渡され、南はうろたえた。

「でも、なにを書けばいいのか、全然思いつかないんですけど」
「難しいことは考えず、どうぞ素直なお気持ちを綴ってください」
「素直な気持ち……」

 真っ白い便箋を前に南はしばらく考えて、恐ろしく率直な感情をそのまま書き綴った。


『今日、由良さんに会えなくて残念でした。明日は会えると嬉しいです。
 会いたいです。
 会って、お話とかしたいです。
<Leviathan(リヴァイアサン)>で待ってます。
 会えるまでずっと、ここで待ってます。
                             南理子』


 読み返すと、会いたいという言葉ばかりが連なって、子供っぽい感情を押し付けているだけのような気がする。
 急に恥ずかしくなり、書き直したい衝動にかられた。だがグシャっと便箋を握り潰す寸前、有馬に止められる。便箋をひょいとさらわれ、件の頁を丁寧に二つ折りにして封筒に入れてしまう。

「これで十分です。ありがとうございました。間違いなく由良様にお渡ししますので」
「あのっ、やっぱりやめます。それ、少しも実のあること書けてないから、もっとちゃんと考えて書きます。書き直しさせてください」

 ところが有馬は首を横に振って、南の要求を拒んだ。
 有馬の眼が、じっと南を見つめる。細められた眼は切なさを滲ませた真剣なもので、南は胸を衝かれた。

「……書き直しなど必要ありませんよ。こんなに心を揺さぶられる手紙だったら、俺だって欲しいくらいです。由良様が羨ましいですよ」
「……本当ですか?」
「ええ。この手紙は、俺が間違いなく由良様にお届けします」

 南は自分では納得のいく出来ではないけど、有馬がそう言ってくれるなら由良も少しは喜んでくれるかもしれない、と考えて手を引いた。

 明日こそ会えるといいな。

 そう強く願いながら、南はすっかり氷の解けた梅ジュースを飲み干した。

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