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クリスマス特別編聖なる夜 中編・ The kissing under the mistletoe

愛してると言いなさい
*小説家になろう様より移行しました。
<< 前の話

 乾杯のあとは、しばらく和やかな雰囲気だった。
 紅緒を中心に、皆が上機嫌のまま、はじめの一杯目を干した。
 リゼがターキーにナイフを入れて切り分ける。皆が舌鼓を打つ。料理はどれも好評で、味にも量にもうるさいアビオンを黙らせると言う快挙を成し遂げた。
 和気あいあいと食事が進み、デザートのケーキが運ばれてくる。

「わあ、変わった形のケーキですの! これは……丸太、ですの?」と、アルディ。
「ビュッシュ・ド・ノエルって言って、“クリスマスの薪(たきぎ)”という意味なの。これは切り株の形で、ココアとバタークリームのロール・ケーキです。はい、どうぞ」

 金箔縁の白いお皿に、苺ののった部分をアルディにあげると、アルディはさっそく三又のフォークで一口食べた。

「……おいしいですのーっ!」

 人数分切り分けて、ジーチェに配り歩いてもらう。
 紅緒は感激に眼を潤ませるアルディをクスッと笑う。

「まだたくさんあるから」
「ううう。太っちゃいますですのー……」
「いやいやいや、少しぐらいぽちゃっとしたところであなたの魅力は損なわれませんよ」

 どこからともなく降って湧いたラヴェルは、白いサラエンを若干着崩して身につけているのに、だらしなくみえない(片眼鏡の威力かもしれない)。

「あっちいってくださいですの」
「いやです」

 にこっ、とラヴェルが挑発的に微笑する。
 ひくっ、とアルディが剣呑な表情を纏う。

「私、お姉さまとお話していますの。空気の読めない男は嫌いですの」
「ゲームのお誘いに来たんです」

 言って、ラヴェルはカードの束を眼の前に翳した。

「勝負しましょう」
「お断りですの」
「おや、なにも二人きりでと申し上げているわけではないですよ?」
 
 ラヴェルはクリスマス・ツリー横の小卓をちゃっかりと確保していた。既に人数分の椅子が用意されている。

「皆で、です。もちろん、恥ずかしい罰ゲームありで」
 
 意外にも負けず嫌いなアルディの眼が、不敵な微笑をたたえるラヴェルを捉える。

「のりましたの」
「そうこなくては」

 そして意気揚々と対戦の場が組まれた。
 紅緒はパーティの主催者という立場を主張して、辞退。
 他に、アビオンとリゼはマントルピース前の席で額を突き合わせ、絶賛酒量を競う勝負の真っ最中であるため不参加。
 満腹で眠たくなったチビクロがうろんげに見つめる中、ゲーム開始。
 残った面子での恩情なき戦いは、一進一退の攻防のあと、白熱を極めて、最終戦。

「ふはははははははっ!! 正義は我にあり!!」と、ラヴェル。
「いやああああああっ!! 負けましたのー!!」と、アルディ。

 紅緒は「勝負ありです」とラヴェルに軍配を上げた。こほん、と咳払いして、ぽん、とアルディの肩を叩く。
「じゃ、行きましょうか。ジーチェ、手伝ってください」
「はい」
「え。い、行くって、ど、どちらにですの? ジーチェの手まで借りるなんて……ア、アルは怖いですのー! 助けてですの―、王妃様ああああー」

 カルバロッサは無情にも白いハンカチを振ってアルディを見送った。隣では、寸前のところでビリを免れたアワードが蒼くなってしきりに額の汗を拭いている。
 アルディが連れ去られたのは続きの間で。
 閉じられた扉の向こうからは、どたん、ばたん、どすん、ぼわん、とただならぬ物音と、悲鳴・雄叫び・泣き落とし、と三拍子揃った騒動がものものしく聞えてくる。
 そして唐突に、しーん、と静まり返った。
 だがなかなか出てこない。
 待ちくたびれて、カトレーはシャンパンのおかわりを求めて席を立った。
 未開封の一瓶を持ってきて、栓を抜く。国王夫妻のグラスにはまだ半分ほど残っていたので、空になっていたジークウィーンのグラスに注ぎ、ついで、ラヴェルのグラスを満たした。

「おや、お気遣いいたみいりますね」
「いやいや、これぐらい」
 
 二人はグラスを揺らして、きつく視線を交えた。
 先に口をきいたのはラヴェルだった。

「無駄に女性に優しいあなたのことです、てっきり、さりげなく勝ちを譲るものかと思っていましたがねぇ」
「……アルディ殿はそんな陳腐な小細工を喜ぶ女性ではないからね、余計な真似は控えましたよ。しかし、ああまでこてんぱんに負かす必要もないでしょう。おとなげない」
「なにごとにも、手加減できない性分でして。まして、他の男にちょっかいなど出された日にはもう、我慢なりませんよ」
「心外だな。今日はなにもしていないじゃないか」
「うっとりじっくりとっくり、頭のてっぺんから足の爪先まで眺めてからに、なにを言うんです。よほどその眼を抉ってやろうかと思いましたよ、ははははは」
「ははははは」

 乾いた笑い。どちらも一歩も退かず、二人は同時にグラスを呷った。
 そのとき、続きの間の扉が開いて、アルディが姿を見せた。
 途端、

「ぶーーっ!!」と、吹いたのはラヴェル。
「げぇほげぇほげぇほっ」と、噎せかえったのはカトレー。
「いやーっ。あんまり見ないでくださいですのー!!」

 半泣きになりながら、顔から火を噴く勢いで真っ赤になるアルディの背中をとんとんと叩いて、紅緒はクリスマス・ツリーの方へと促した。

「落ちついて。すごくかわいいし、ばっちり似合っているから大丈夫」
「恥ずかしいですのー! こんなの罰ゲームじゃないですのー」
「サンタクロース役は大事です。名誉だと思ってください」
「とても思えませんのー!」
「……っは、はっ、くそっ。息が……っ。待ちなさい、ベニオ殿」
「げーほげほげほげほっ、ぶほん、げほう、ごほっ!! ちょっ、ま、待った……っ! ま、待った、待ってくださいよ、ベニオ殿! アルディ殿のそ、そ、その、けしからん格好はいったいなんですかっ」

 カトレーとラヴェルはほぼ同時に制止をかけたものの、かたや直視をためらい半分背を向けて、かたや寸暇も惜しまぬ勢いで貪るように凝視する。
 紅緒はアルディの肩を抱いて言った。

「ミニスカサンタです」
「み、みにすかさんた?」

 袖なしの赤い上着と手首に白い羽ありの腕輪、ボンボン付きの白いマフラー、膝上十五センチの赤いスカート、赤いハーフ・ブーツ、赤と白の帽子。
 華奢なアルディはお世辞の必要がまったくないほど、かわいらしい。

「これから贈り物の交換会をします。皆様、クリスマス・ツリーのもとにお集まりください。贈呈者はアルディです。この恰好はサンタクロースを模したもので、サンタクロースは幸せを届けるひとのことです」

 ラヴェルはアルディのすらりとした脚線美から眼を逸らさずに、嫌そうに言った。

「……そんなきわどい恰好で?」
「き、きわどいと思ったらそんなにじっと見ないでくださいですのっ」
「いやあ、見るでしょう。見ますとも。なんたる眼の保養。いい脚だなあ。撫でてみたいなあ。いやあ、クリスマス万歳ですね! あいたっ」

 殴られて、文句を言ってやろうとしたラヴェルは口を開けたまま硬直した。
 カトレーの理性が切れている。
 普段の温厚軽薄な上辺をかなぐり捨てて、尋常ならざる剣幕で、どす黒い微笑を浮かべていた。とてもではないが、逆らえば命はないだろう。

「……卑猥なまなざしはやめてもらいましょうか?」

 こくこくこく、とラヴェルは頷いた。
 カトレーはアルディを通り越して紅緒に呼びかけた。

「ベニオ殿」
「はい?」
「お見受けしたところ、それは女性用の衣装のようですが、男性用のものもありますか?」
「ありますけど」
「アルディ殿」
「は、はいですの」
「着替えなさい。早く」
「え? で、でも」
「早く。それ以上つべこべ言うなら、問答無用で私が脱がせるよ?」

 ぎろりと恐ろしい眼で睨まれて、アルディは一も二もなく続きの間に駆け込んだ。
 ジークウィーンは静かに激しく憤るカトレーの肩に手をおいて、わずかに口辺を持ち上げる。

「……滅多に見られないものを見たな」
「……からかうんじゃないよ、ジーク」

 取り乱した自覚のあるカトレーは渋面をつくり、体裁を取り繕うとしたが、うまくいかなかった。
 かくして、アルディはぶかぶかの男性用の衣装でサンタクロースに扮した。
 クリスマス・ツリーの周囲には各自持ち寄った贈り物が寄せ集められていた。色とりどりに包装されたそれらには、それぞれ番号札が置かれている。
 紅緒はクリスマス装飾を施した小さな木箱を用意していた。

「この中に、番号を記した木札が入っています。もし自分の贈り物の番号を引いたら中に戻してください。そうじゃなければ、アルディに木札を渡して引き換えてください。あ、自分がなにを贈ったのかは内緒にしてくださいね? 誰のどんなものがあたっても文句を言ったり、交換もなしです。心のこもった記念品ですので、大事にしてください。さ、では、まず王太后殿下、どうぞ!」

 だいぶ酔いもまわってきたあとの贈り物交換会は心躍る愉しさで、全員にいきわたった後、さっそく開けてみる。わっと歓声が飛び交う。気の置けない者同士の他愛のない会話は尽きることなく、夜は更けていく。

 アルディは窓辺に立って表を眺めていた。
 いつのまにか雪が降りはじめていて、外はうっすらと銀世界だ。

「……さっきは怒鳴って悪かったね」
 
 気がつけばすぐ傍にカトレーがいた。いくぶん居心地悪そうにしている。

「……気にしていませんの」

 二人並んで、しばらく無言で佇む。
 深々と降る雪に見入るふりをして、どちらも会話の続きをさぐっていた。

「……似合っていた」
「え?」
「君の……だが、あの恰好は二度としてはいけない。夫でもない男に脚を見せるなんて、私なら相手の奴らの眼を潰して縊り殺す。いっそ、生き埋めにしてもいいくらいだ」

 言葉を失うアルディと怒りを燻らせるカトレーの視線が交差する。

 なぜか、眼が離せない……。
 うまく、口もきけない……。
 なのに、動けない……。

「あ、ヤドリギの下」
 
 紅緒のなにげない一声に二人同時に我に返る。
 お互いになんとなく焦ってしまう。
 そこへ、続きの言葉が投げかけられた。

「カトレー様、アルにキスしてください」

 アルディは仰天した。思わず飛び退いて、窓にぶつかる。
 さすがにカトレーも面喰らい、紅緒に怪訝そうな一瞥を向ける。

「……キス?」
「そうです。ヤドリギの下に居合わせた男女はキスする慣例があるんです。『争いをしないで、愛に満ちた口づけを交わす』って。だから、それが婚約者同士だと永遠に幸せになれるって伝説もあるくらい」
 
 カトレーがおもむろにアルディを振りかえった。その眼に射竦められる。洗練された物腰でゆっくりと重心を移し、窓硝子に手をついて、カトレーは咄嗟に逃げようとしたアルディを腕の中に囲い込んだ。

「……キスしても?」
 
 ふるふるふるとアルディは首を横に振った。
 カトレーはぷはっ、と笑った。

「……君はまったく意地悪のしがいのある女性だな……」

 そっと唇が触れる。浅く、ついで、やや深く。両頬をしっかりと押さえつけられているため、口づけが真剣さを帯びた気配を察したものの、逃げられず。
 アルディが甘やかな刺激的混乱に泣きそうになったとき、ラヴェルの絶叫が轟いた。

「なっ、なにを、あなたたち、なにをしているんですか――っ」
「に!?」
 
 そうして間髪おかず、なにかが一直線に飛んで来た。カトレーがアルディを背に庇うように振り返り、吹っ飛んで来たものを手に掴む。

「……」
「……」

 チビクロだった。
 紅緒の愛猫は当然怒り狂い、毛を逆立てて、ふーっと唸り、すかさずラヴェルに猛攻撃を加える。
 ラヴェルは逃げまわり、挙句、テーブルにぶつかってよろめき、その拍子にまだ三分の一ほど残っていたケーキに頭から突っ込む羽目になった。
 罵声と怒声と笑声が入り混じる中、アルディも笑い転げていた。

「アルディ殿」
「はいですの?」
 
 ふと眼を上げると、すぐ傍にカトレーの端正な顔が迫っていて。
 跳ね上がる心臓とは裏腹に、身体は緊張のため身動きできなくなる。

「……さっきの続きを、ぜひまた今度二人きりで、お相手願いたいな」

 耳元で囁かれた声は低くしっとりと艶っぽく。
 なのに眼はおもしろそうに笑っていて。
 アルディはからかわれたと思った。

「絶対絶対、お断りですのーっ」

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