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クリスマス特別編聖なる夜 後編・ Stille Nacht,heilige Nacht

愛してると言いなさい
*小説家になろう様より移行しました。
<< 前の話

 外野の喧騒をものともせず、マントルピース前の席では熾烈な争いが続いていた。

「さーあ勝負だよ、リゼ。今日という今日は決着をつけようじゃないか」
「望むところです」
 
 かくてアビオンとリゼは“どちらが大酒豪であるか対決”に火花を散らし、ごく短時間にものすごい量を飲酒して、どちらも骨の髄まで酔っ払っていた。
 それでもまだぐいぐいと飲み続け、ふらふらになってもまだ飲み続け、贈り物交換時に一旦席を離れたもののまた戻って飲み続け、とにかく延々と飲み続けた。

「リゼ! 飲みすぎですっ」と、紅緒。
「おばあさまも飲みすぎです」と、ジークウィーン。

 紅緒とジークウィーンが止めにいったときにはリゼもアビオンもかなり出来上がっていて、深刻な泥酔状態だった。にもかかわらず、まだ飲むと言って聞かない。
 それどころか、至極陽気に絡まれて、強引に席に着かされる。

「あんたたちは飲まなすぎだね。この愉快な夜に素面だなんて身体に毒じゃないか、さあ飲もう飲もう」と、アビオン。
「そうそう、飲もう飲もう」と、リゼ。

 不本意にも紅緒とジークウィーンは新しいグラスを押しつけられ、なみなみと注がれた。
 そして煽られるまま、なし崩し的に新酒の相伴に付き合ううちに――立場逆転。
 ミイラ取りが、ミイラになって。

「ベニオ! 飲みすぎだよっ」と、リゼ。
「ジーク、そのぐらいでよしときな」と、アビオン。

 ところが熱に浮かされた調子で眼の据わった二人は席を立つ気配がない。

「まだ飲めますっ!」と、紅緒。
「ああ、まだまだいける」と、ジークウィーン。

 意見の一致を見た紅緒とジークウィーンはケタケタと笑いながら、互いに酌をしあって飲み放題。
 すっかり酔いの醒めたリゼは、なんとか紅緒を立たせようとしたが、頑として譲らない。

「よ、酔っているだろう」
「酔っていません」
「酔っているね……」
「この程度の酒で酔うほどやわじゃない」

 リゼとアビオンは二人が空にした酒瓶のラベルを眺めて嘆息した。

「……相当強い酒なんだけどねぇ。これ以上飲むと、明日は二日酔いではすまないよ」
「腰が抜けて歩けなくなるな……仕方ない、今日はこれでお開きにしよう。ベニオ、ベニオ、もう夜もだいぶ遅いから、パーティは終わりだ。いいよね?」
 
 返事はない。
 さきほどから、つじつまの合わない会話を延々と交わしている。

「だから、私は優しいひとが好きなんです。恋人にだけじゃなくて、家族とか、友達とか、皆大切にできるひとじゃなきゃ嫌なんです。わかります?」
「ああ、わかる。やはり女は器量ではない。度量が肝心なのだ。あとは健康状態だな」
「そうでしょう? でもやっぱり浮気は許せないので、誠実さも大事だと思います」
「無論だ。なにせ私の跡継ぎを産んでもらわねばならん、それもたくさん必要だ。健康で頑丈で図太くて元気のいいのが一番だ」
「できれば私のごはんをおいしいって言って食べてくれる旦那様が理想です」
「そうだな。まあ一応、身体の相性もいいに越したことはない。ああそうだ、忘れるところだった。そなたに贈り物があったのだ」
「もうお腹いっぱいです。でも一口ならいけるかもしれません」
「喰うな。受け取れ」
「ごちそうさまでした」
「拝むな。手を貸せ。嵌めてやろう」
「手錠ですか?」
「そうだ。外すなよ? 外すとおかしなサンタが来るからな」
「サンタは子供の味方です」
 
 もう無茶苦茶である。
 だがこの時点でまともに立っていられたのはリゼとアビオンの酒豪と豪語して憚らない二人のみで、他は紅緒とジークウィーンと似たり寄ったりの酩酊状態だった。
 リゼとアビオンが解散を告げて皆を退出させ、二人のもとに戻って来たとき、非常に危うい場面だった。

「きれいな手錠のお礼をしないといけません。なにがいいですか?」
「口がいい」
「口はダメです。口をあげてしまうとごはんが食べられなくなって困ります」
「そうだな。困るな。私も口はふたつもいらない。だからキスでいい。そなたから私にしてくれ」
「いいですよ? じゃあちょっと乗っかります。私は結構重いです。あと唇をひらいてほしいです」

 紅緒はふらっと椅子から立ち上がり、ジークウィーンの膝に座った。額にかかる前髪をちょいと除けて、頬骨を指でなぞり、眼を瞑る。キスというより、噛むというふうに唇を半開きにして覆いかぶさった。
 唇が触れる――その寸前。
 間一髪でリゼは二人の頭をひきはがした。ジークウィーンに身体を預けた状態の紅緒を引き離し、やや乱暴な手つきで抱き上げる。

「……な・に・を・し・て・い・る・ん・で・す・か」

 睨んでも、効果はなく。
 紅緒は焦点の合わないとろんとした眼であどけなく笑む。

「きれいな手錠をもらったので、お礼に王子にキスをするところです」

 リゼはちらっと紅緒の両手首を眺めた。
 青い宝石がきらめく、銀細工の二連の腕輪。

「外しなさい、そんなもの」
「だめです。サンタが来ます。サンタは子供の味方です。私は大人だから対象外です」
「……」

 もはやなにを言っているのかすらわからない。
 リゼは長い溜め息を吐いた。アビオンに顎をしゃくる。

「そっちの、あなたの孫を頼みます。明日使いものにしたいなら、一度吐かせてからベッドに放り込みなさい」
「ああ、そうさせるよ。今日は愉しかったと、ベニオ嬢にも礼を言っておいておくれ」
「あとで伝えます。いまはこの状態ですから、なにを言ってもむだです」
 
 アビオンはジークウィーンを遮二無二立たせて出ていった。
 リゼは紅緒をベッドに運んだ。
 履物を脱がし、サラエンを着たまま寝かしつけ、掛けものを首まで引っ張り上げる。枕の位置が気に喰わないらしく、「ううう」と歯ぎしりしていたので、ちょっと変えてやると、すぐに寝息をたてた。

「まったく……そんなに飲めないくせに無茶をして……」

 リゼは紅緒の枕元に腰かけた。チビクロがてくてくやってきて、ひらりとベッドに飛び移り、隅の方に丸くなる。ちらりと片目を開けてリゼの表情を探ったものの、「あふ」と欠伸をひとつして、尻尾を身体に巻きつけた。
 リゼはしばらく紅緒の寝顔を見つめていた。
 髪を撫でる。
 完全に意識が落ちたと思っていた。ところが、

「リゼ」
「は、はい!」

 なにも後ろめたいことをしていないにもかかわらず、リゼは飛び上がった。

「雪、降らせてくれてありがとう」
 
 紅緒は眼を瞑ったまま、むにゃむにゃと言葉を紡ぐ。

「メリー・クリスマス……あのね、リゼの枕のところに……私から、の、プレ……」
 
 途中で寝入ってしまう。

「枕?」

 探ると、銀のリボンのかかった白い包みがあった。
 中は藍色の糸で編まれた手編みの手袋で、嵌めるとぴったりだった。
 リゼは口元を綻ばせながら、スィーラの懐から光珊瑚と紅水晶の首飾りを出した。いつ贈ろうかと機会を狙っていたものの、突っ返されることも考えるとなかなか渡せずにいたのだ。
 優しい眠りを妨げないよう、そろそろと指を動かして、金の細い鎖をそっと紅緒の首にまわしてつけた。
 胸に花が咲いたよう。
 思った通り、よく似合う。

「……メリー・クリスマス、ベニオ」
 
 リゼは微笑しながら身を屈めて、ちゅ、と紅緒の瞼にキスを落とした。
 

 雪が世界を白く白く覆っていく。
 静かな夜 聖なる夜――この星のすべてのひとにさいわいあれ

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では、物語が少しでも皆様の心に届きますように……。

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