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愛してると言いなさい
*小説家になろう様より移行しました。
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「海に行きたいな」
「いいよ。連れて行ってあげる。いつがいい? いまでもいいけど」
「本当? じゃあ次に来たときにお願いします。私、水着とか浮輪とかビニールボールとか持って来るから、リゼは日除け用にパラソルとか用意してくれるかな」
「パラソルね。わかった」

 でも『水着とか浮輪とかビニールボール』ってなんだろう? 
 とはリゼは訊かなかった。野暮な気がして。だいたい海になにしに行くのだろう? 
 だがそんな疑問は些細なことだ。肝心なのは、

「楽しみだね」
 
 紅緒が嬉しそうに、にこっと笑う。ただそれだけでリゼはほっこり気持ちが丸くなる。

「はいっ」
 
 でれっと鼻の下を伸ばして返事をしながらリゼは早速パラソルの調達をしようと両手に広げていた魔法研究書をぱたんと閉じた。



「わあ、見えてきた! すごい。なんてきれいなエメラルドグリーンの海なの!」
「っと、それ以上身を乗り出しちゃ危ないってば。落っこちるよ」
 
 双頭の竜テスとサジェに乗り一番近くの海までの短い遊覧飛行だ。
 紅緒は眼を輝かせて興奮し、上気した頬やはしゃいだ姿がとてもかわいい。
 リゼはそんな紅緒に見とれながら目指す浜辺の上空に着くと竜をゆるく旋回させ、辺りにひとの気配がないことを見計らい斜めに滑空させ着地した。

「ありがとう、テス、サジェ。お疲れさま」
 
 紅緒が二頭にキスすると満更でもないようで竜達は「フシューッ」と鼻息を吐き長い尾をひと振りした。

「じゃあ私着替えて来るから、リゼは先にパラソルを用意してもらえるかな」
「うん、わかった。あ、着替えるってどこで? 遠くに行っちゃだめだよ」
「行きません。テスとサジェの陰に隠してもらうから平気」
「にー」
「おまえは行くな」

 すかさず紅緒のあとに続こうとした契約の猫の首をむずと掴む。まったく油断も隙もない。この見た目には無害の小さな黒猫はちょっと眼を離すとすぐに紅緒にまとわりつく性質の悪い奴だ。
 海は遠浅、浜辺はやわらかい白砂で、周囲に人家はまばらだ。
 リゼは早速パラソルを設置した。その下に寝椅子を二脚と小卓を並べる。それとは別に天幕も張り、食材や調理器具、煉瓦で囲った簡易竈はこちらに準備した。紅緒曰く、『バーベキュー』なるものをやるらしい。

「お待たせ」
「あれ、早かったね。ねぇベニオ、この鉄網はどう使う――」
 
 リゼは振り返って紅緒を一目見るなり「ぶーっ」と鼻血を噴いてひっくり返った。

「きゃあっ。リゼ、どうしたの、大丈夫?」

 ぼたぼたと血を垂らす鼻を押さえてリゼは浜辺で悶絶した。紅緒がびっくりした様子で駆け寄ってくるが、リゼは必死に「待った」をかけた。

「ぎゃーっ。寄らないで触らないで近づかないでー」
 
 我ながら情けない悲鳴を上げる。
 だがこちとら理性がぷつっと焼き切れる寸前だ。

「なんて恰好してるの、ベニオっ」
「え? 普通のビキニにパーカーを羽織ってるだけですけど……変? 似合わないかな」
 
 リゼは砂浜に四つん這いになりほとんど絶叫して言った。もう涙目である。

「似合うとか似合わないとか以前の問題だろう! なんっなの、その過激な恰好は! 脚もお腹も胸も腕も全部丸見えじゃないかっ。僕に食べられたいのっ? あああ、もう! 眼が潰れる! 堪えられない! もうだめだ! なんっておいしそうなんだ。涎が……っ。はっ。いかんいかん、いかんだろう、いかんだろうっ。うっ。鼻血が……って、はっ! おいこら、そこのクソバカチビ猫、おまえは見るなっ。テス・サジェも眼ぇ瞑っとけ! ベニオのこんな破廉恥な姿を誰にも見せてたまるか――いますぐ眼を閉じない奴ァ、俺がぶっ殺す!」

 リゼは散々喚き立て、すっくと立つと身につけていたマントで紅緒をぐるぐる巻きにした。

「暑いです」
「いいから。僕の正気を保つためにもそれ外さないで」
「せっかくリゼの分の水着も用意してきたのに」

 リゼはぎょっとして飛び退いた。

「えええっ。僕にも裸になれっての?」
「裸じゃないでしょ! 水着! 水の中に入るためのものだからこれでいいんです」
「……は? 水の中に入る? まさか海に? なんで?」
「泳ぐために決まってます」
「泳ぐ?」
 
 意味がわからない。
 訝しむリゼを紅緒は置き去りにした。鮮やかにマントを脱ぎ払い、太陽の光に白い裸身をさらして海へ駆けていく。波打ち際でちょっと足踏みし、水を掌に掬い空中に散らしながら波間にその身を躍らせる。
 リゼは息を呑んで見とれた。
 浮き沈みを繰り返し、楽しげにくるくるまわったり、遊泳したりする紅緒はきれいだった。

「リゼも来ればいいのに。気持ちいいよ!」
 
 その笑顔のなんて眩しさ――。

 リゼは額に手を翳し紅緒の伸びやかな肢体を眼に焼きつけた。身体の芯が疼く。熱が膨らみ、このままでは時間の問題でまずい事態になりそうだ。なのに視線がどうしても外せない。

「……まいったな。くそっ、なんであんなに無防備なんだ。少しは警戒心ってものがないのか? 大胆すぎるだろうが! 俺の理性の限界をどこまで試せば気が済むんだか……っ」
「リーゼー!」
 
 青い波間で手を振る紅緒は燦然と美しく、その甘い声は逆らい難く。
 リゼは白旗を掲げた。ふらっと一歩を踏み出すと、もう止まらない。ベルトを外す。ラミザイを脱ぎ捨てる。ブーツを放り出す。ざぶざぶと水を漕ぎ分けて紅緒のもとに向かう。すると紅緒は悪戯っぽい微笑を浮かべてすいっと逃げる。近づく。逃げられる。

「捕まえられるかな?」

 と挑戦的に片眼をぱちりと瞑られれば、退くわけにはいかない。

「よーし」
 
 リゼは開いた掌にぱしりと拳を打ち込んだ。
 そして千のきらめきが弾ける中、追いかけっこがはじまった。






















      おまけ



「そういえば、なんで急に海に来たいなんて言い出したの?」
「今日は海の日だからです」
「じゃあ、この溢れんばかりの食材は?」
「皆が来るかなと思って」
「皆?」
 
 ジュウジュウと煉瓦竈の上に置いた鉄網の上で串に挿した肉が焼ける音がする。辺りには香ばしい匂いが立ち込めて空き腹にはたまらない。

「もういいみたい。はい、どうぞ召し上がれ」

 肉汁を砂浜に滴らせ、こんがりと表面が焦げた肉にリゼはかぶりついた。

「いただきますっ。ん! 旨っ」
「にー……」

 猫舌のチビクロは冷めるまでお預けをくらっている。じれったそうにパタパタと尾を振る仕草を横目にリゼは肉の串と野菜の串を交互に頬張った。
 紅緒は水着にパーカーを羽織り、その上からリゼのマントを身体に巻きつけ素足にサンダルをひっかけていた。
 ひと泳ぎしたあと紅緒は手早く昼食の支度に取りかかり、いまは皿に盛った肉やら野菜やらをテスとサジェに届けにいって戻って来た。

「ねぇベニオ、皆って――あ?」
 
 突然、すぐ近くに魔法の気配を感じてリゼは結界を張ろうとしたが思いとどまった。馴染みのある気だ。次の瞬間、どやどやといつもの面子が魔法転移してきた。ジークウィーンを先頭に、カトレー、アルディ、ジーチェ、ラヴェルが揃い踏みだ。

「ベニオ!」
「こんにちは、ベニオ殿」
「お姉さまあー!」
「差し入れをお持ちしました」
「師よ、お捜しましたよー。いったいどうして気配を断っていたんです?」
 
 悪気なしにとことこと傍へやって来たラヴェルをぎろりと睨んでリゼは言った。

「……どこぞのバカ弟子が邪魔をしてベニオとの甘いひとときを台無しにするのを防ぐために決まっているだろうが」
 
 するとラヴェルは心外だ、とばかりに両手を浅く持ち上げた。

「あれ? お邪魔でした? 変ですねぇ。ベニオ殿からは時間の都合がついたらぜひ来てほしいと招待に与(あずか)ったんですけど。しかし師がどうしても帰れとおっしゃるならば引き上げますが?」
 
 帰れと言いたい。言いたいが、しかし。
 紅緒は楽しそうだ。
 
 リゼは嘆息して『二人きり』で『ロマンチック』な『甘い時間』を諦めた。
 紅緒は給仕を務めながらわきあいあいとしている。

「食事が済んだら皆でスイカ割りしませんか?」
「お姉さま、『スイカ割り』ってなんですの?」
「ええと――」

 こうなったらとことん遊び倒してやる……!
 
 リゼが半ばヤケクソ気味に今日の予定変更を覚悟したときだった。

「わ」

 と紅緒が砂に足を取られて躓いた。
 如才なくすぐ傍にいたジークウィーンが抱き止める。

「大事ないか?」
「ありがとうございます。あ」
「ん?」
 
 紅緒が身体を起こした拍子だった。はらり、とマントがほどけて肌から滑り落ちた。
 胸の形や腰のくびれも悩ましい水着とかわいい小さなお尻を半分だけ隠す短い丈のパーカー姿の紅緒があらわになって。

「……」
「おや」
「ぶほっ」

 たちまちジークウィーンが石化する。
 カトレーは尻上がりな口笛を吹いた。
 ラヴェルは咄嗟に掌で眼を覆ったが既にばっちり目撃したあとだ。

「見るなあああああっ」
 
 リゼの絶叫が青い空と海と白い浜辺に轟き渡る。
 
 俄かに浜辺は騒々しくなった。

 
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「海に行きたいな」
「いいよ。連れて行ってあげる。いつがいい? いまでもいいけど」
「本当? じゃあ次に来たときにお願いします。私、水着とか浮輪とかビニールボールとか持って来るから、リゼは日除け用にパラソルとか用意してくれるかな」
「パラソルね。わかった」

 でも『水着とか浮輪とかビニールボール』ってなんだろう? 
 とはリゼは訊かなかった。野暮な気がして。だいたい海になにしに行くのだろう? 
 だがそんな疑問は些細なことだ。肝心なのは、

「楽しみだね」
 
 紅緒が嬉しそうに、にこっと笑う。ただそれだけでリゼはほっこり気持ちが丸くなる。

「はいっ」
 
 でれっと鼻の下を伸ばして返事をしながらリゼは早速パラソルの調達をしようと両手に広げていた魔法研究書をぱたんと閉じた。



「わあ、見えてきた! すごい。なんてきれいなエメラルドグリーンの海なの!」
「っと、それ以上身を乗り出しちゃ危ないってば。落っこちるよ」
 
 双頭の竜テスとサジェに乗り一番近くの海までの短い遊覧飛行だ。
 紅緒は眼を輝かせて興奮し、上気した頬やはしゃいだ姿がとてもかわいい。
 リゼはそんな紅緒に見とれながら目指す浜辺の上空に着くと竜をゆるく旋回させ、辺りにひとの気配がないことを見計らい斜めに滑空させ着地した。

「ありがとう、テス、サジェ。お疲れさま」
 
 紅緒が二頭にキスすると満更でもないようで竜達は「フシューッ」と鼻息を吐き長い尾をひと振りした。

「じゃあ私着替えて来るから、リゼは先にパラソルを用意してもらえるかな」
「うん、わかった。あ、着替えるってどこで? 遠くに行っちゃだめだよ」
「行きません。テスとサジェの陰に隠してもらうから平気」
「にー」
「おまえは行くな」

 すかさず紅緒のあとに続こうとした契約の猫の首をむずと掴む。まったく油断も隙もない。この見た目には無害の小さな黒猫はちょっと眼を離すとすぐに紅緒にまとわりつく性質の悪い奴だ。
 海は遠浅、浜辺はやわらかい白砂で、周囲に人家はまばらだ。
 リゼは早速パラソルを設置した。その下に寝椅子を二脚と小卓を並べる。それとは別に天幕も張り、食材や調理器具、煉瓦で囲った簡易竈はこちらに準備した。紅緒曰く、『バーベキュー』なるものをやるらしい。

「お待たせ」
「あれ、早かったね。ねぇベニオ、この鉄網はどう使う――」
 
 リゼは振り返って紅緒を一目見るなり「ぶーっ」と鼻血を噴いてひっくり返った。

「きゃあっ。リゼ、どうしたの、大丈夫?」

 ぼたぼたと血を垂らす鼻を押さえてリゼは浜辺で悶絶した。紅緒がびっくりした様子で駆け寄ってくるが、リゼは必死に「待った」をかけた。

「ぎゃーっ。寄らないで触らないで近づかないでー」
 
 我ながら情けない悲鳴を上げる。
 だがこちとら理性がぷつっと焼き切れる寸前だ。

「なんて恰好してるの、ベニオっ」
「え? 普通のビキニにパーカーを羽織ってるだけですけど……変? 似合わないかな」
 
 リゼは砂浜に四つん這いになりほとんど絶叫して言った。もう涙目である。

「似合うとか似合わないとか以前の問題だろう! なんっなの、その過激な恰好は! 脚もお腹も胸も腕も全部丸見えじゃないかっ。僕に食べられたいのっ? あああ、もう! 眼が潰れる! 堪えられない! もうだめだ! なんっておいしそうなんだ。涎が……っ。はっ。いかんいかん、いかんだろう、いかんだろうっ。うっ。鼻血が……って、はっ! おいこら、そこのクソバカチビ猫、おまえは見るなっ。テス・サジェも眼ぇ瞑っとけ! ベニオのこんな破廉恥な姿を誰にも見せてたまるか――いますぐ眼を閉じない奴ァ、俺がぶっ殺す!」

 リゼは散々喚き立て、すっくと立つと身につけていたマントで紅緒をぐるぐる巻きにした。

「暑いです」
「いいから。僕の正気を保つためにもそれ外さないで」
「せっかくリゼの分の水着も用意してきたのに」

 リゼはぎょっとして飛び退いた。

「えええっ。僕にも裸になれっての?」
「裸じゃないでしょ! 水着! 水の中に入るためのものだからこれでいいんです」
「……は? 水の中に入る? まさか海に? なんで?」
「泳ぐために決まってます」
「泳ぐ?」
 
 意味がわからない。
 訝しむリゼを紅緒は置き去りにした。鮮やかにマントを脱ぎ払い、太陽の光に白い裸身をさらして海へ駆けていく。波打ち際でちょっと足踏みし、水を掌に掬い空中に散らしながら波間にその身を躍らせる。
 リゼは息を呑んで見とれた。
 浮き沈みを繰り返し、楽しげにくるくるまわったり、遊泳したりする紅緒はきれいだった。

「リゼも来ればいいのに。気持ちいいよ!」
 
 その笑顔のなんて眩しさ――。

 リゼは額に手を翳し紅緒の伸びやかな肢体を眼に焼きつけた。身体の芯が疼く。熱が膨らみ、このままでは時間の問題でまずい事態になりそうだ。なのに視線がどうしても外せない。

「……まいったな。くそっ、なんであんなに無防備なんだ。少しは警戒心ってものがないのか? 大胆すぎるだろうが! 俺の理性の限界をどこまで試せば気が済むんだか……っ」
「リーゼー!」
 
 青い波間で手を振る紅緒は燦然と美しく、その甘い声は逆らい難く。
 リゼは白旗を掲げた。ふらっと一歩を踏み出すと、もう止まらない。ベルトを外す。ラミザイを脱ぎ捨てる。ブーツを放り出す。ざぶざぶと水を漕ぎ分けて紅緒のもとに向かう。すると紅緒は悪戯っぽい微笑を浮かべてすいっと逃げる。近づく。逃げられる。

「捕まえられるかな?」

 と挑戦的に片眼をぱちりと瞑られれば、退くわけにはいかない。

「よーし」
 
 リゼは開いた掌にぱしりと拳を打ち込んだ。
 そして千のきらめきが弾ける中、追いかけっこがはじまった。






















      おまけ



「そういえば、なんで急に海に来たいなんて言い出したの?」
「今日は海の日だからです」
「じゃあ、この溢れんばかりの食材は?」
「皆が来るかなと思って」
「皆?」
 
 ジュウジュウと煉瓦竈の上に置いた鉄網の上で串に挿した肉が焼ける音がする。辺りには香ばしい匂いが立ち込めて空き腹にはたまらない。

「もういいみたい。はい、どうぞ召し上がれ」

 肉汁を砂浜に滴らせ、こんがりと表面が焦げた肉にリゼはかぶりついた。

「いただきますっ。ん! 旨っ」
「にー……」

 猫舌のチビクロは冷めるまでお預けをくらっている。じれったそうにパタパタと尾を振る仕草を横目にリゼは肉の串と野菜の串を交互に頬張った。
 紅緒は水着にパーカーを羽織り、その上からリゼのマントを身体に巻きつけ素足にサンダルをひっかけていた。
 ひと泳ぎしたあと紅緒は手早く昼食の支度に取りかかり、いまは皿に盛った肉やら野菜やらをテスとサジェに届けにいって戻って来た。

「ねぇベニオ、皆って――あ?」
 
 突然、すぐ近くに魔法の気配を感じてリゼは結界を張ろうとしたが思いとどまった。馴染みのある気だ。次の瞬間、どやどやといつもの面子が魔法転移してきた。ジークウィーンを先頭に、カトレー、アルディ、ジーチェ、ラヴェルが揃い踏みだ。

「ベニオ!」
「こんにちは、ベニオ殿」
「お姉さまあー!」
「差し入れをお持ちしました」
「師よ、お捜しましたよー。いったいどうして気配を断っていたんです?」
 
 悪気なしにとことこと傍へやって来たラヴェルをぎろりと睨んでリゼは言った。

「……どこぞのバカ弟子が邪魔をしてベニオとの甘いひとときを台無しにするのを防ぐために決まっているだろうが」
 
 するとラヴェルは心外だ、とばかりに両手を浅く持ち上げた。

「あれ? お邪魔でした? 変ですねぇ。ベニオ殿からは時間の都合がついたらぜひ来てほしいと招待に与(あずか)ったんですけど。しかし師がどうしても帰れとおっしゃるならば引き上げますが?」
 
 帰れと言いたい。言いたいが、しかし。
 紅緒は楽しそうだ。
 
 リゼは嘆息して『二人きり』で『ロマンチック』な『甘い時間』を諦めた。
 紅緒は給仕を務めながらわきあいあいとしている。

「食事が済んだら皆でスイカ割りしませんか?」
「お姉さま、『スイカ割り』ってなんですの?」
「ええと――」

 こうなったらとことん遊び倒してやる……!
 
 リゼが半ばヤケクソ気味に今日の予定変更を覚悟したときだった。

「わ」

 と紅緒が砂に足を取られて躓いた。
 如才なくすぐ傍にいたジークウィーンが抱き止める。

「大事ないか?」
「ありがとうございます。あ」
「ん?」
 
 紅緒が身体を起こした拍子だった。はらり、とマントがほどけて肌から滑り落ちた。
 胸の形や腰のくびれも悩ましい水着とかわいい小さなお尻を半分だけ隠す短い丈のパーカー姿の紅緒があらわになって。

「……」
「おや」
「ぶほっ」

 たちまちジークウィーンが石化する。
 カトレーは尻上がりな口笛を吹いた。
 ラヴェルは咄嗟に掌で眼を覆ったが既にばっちり目撃したあとだ。

「見るなあああああっ」
 
 リゼの絶叫が青い空と海と白い浜辺に轟き渡る。
 
 俄かに浜辺は騒々しくなった。

 
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【2016/08/10 05:53】 | 愛してると言いなさい
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紅葉
久しぶりに読み返しましたが、この回のお話が楽しくて好きです。
水着に馴染みのない世界の人には刺激が強いですよね~。ワンピースもパレオもあるのにビキニをチョイスする紅緒ちゃんは罪作りですね。
ぶーっと鼻血を噴いて動揺、悶絶するリゼ可愛いです。


Re: 紅葉様
安芸とわこ
 こんばんは、紅葉様。ご来訪ありがとうございます。
 お忙しいでしょうに、わざわざいらしてくださって嬉しいです~。
 今回、小説家になろう様のダイジェスト化の取り扱いについての規約に則って移動をしたのですが、作業中は懐かしい気持ちでいっぱいになりました。
 そういえば、ジークウィーンの救済がまだだったなあ、なんて思い返してみたり。笑。
 あちらは今月中に引き下げますが、せっかくいただいた感想などを残すため、内容を差し替える予定です。
 その際はこっそり告知しますので、お暇なときにでも覗いてやってください。
 いつも温かいお心遣い、とっても感謝しております!
 ではでは、引き続きよろしくお願い致します。
 安芸でした。

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コメント
この記事へのコメント
久しぶりに読み返しましたが、この回のお話が楽しくて好きです。
水着に馴染みのない世界の人には刺激が強いですよね~。ワンピースもパレオもあるのにビキニをチョイスする紅緒ちゃんは罪作りですね。
ぶーっと鼻血を噴いて動揺、悶絶するリゼ可愛いです。
2016/08/13(Sat) 20:24 | URL  | 紅葉 #-[ 編集]
Re: 紅葉様
 こんばんは、紅葉様。ご来訪ありがとうございます。
 お忙しいでしょうに、わざわざいらしてくださって嬉しいです~。
 今回、小説家になろう様のダイジェスト化の取り扱いについての規約に則って移動をしたのですが、作業中は懐かしい気持ちでいっぱいになりました。
 そういえば、ジークウィーンの救済がまだだったなあ、なんて思い返してみたり。笑。
 あちらは今月中に引き下げますが、せっかくいただいた感想などを残すため、内容を差し替える予定です。
 その際はこっそり告知しますので、お暇なときにでも覗いてやってください。
 いつも温かいお心遣い、とっても感謝しております!
 ではでは、引き続きよろしくお願い致します。
 安芸でした。
2016/08/14(Sun) 22:18 | URL  | 安芸とわこ #-[ 編集]
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