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愛してると言いなさい
*小説家になろう様より移行しました。
<< 前の話

 春になったら連れて行こうと思っていた。
 そのために早くから計画を立て、準備を進め、休みの申請をし、暖かくなるのをずっと待っていたというのに――。

「仕事?」

 呆気にとられてダナンは訊き返した。
 就寝前のひととき、鏡台の前で髪の手入れをしていた妻ジーチェが漏らした一言に愕然とした。

「しかし、君は明日から十日間の長期休暇の予定を許可されていたんじゃないのか」
「ええ。でもひとり急病で倒れて、もうひとり実家が火事に遭ったという知らせがあって急に一時帰省することになったんです」
「誰か他に都合のつく者がいるだろう」
「皆、忙しいので。私は特に予定もありませんでしたし、人手が足りなくて困っているのを見過ごすわけにも参りませんので、明日一日だけお休みして、明後日から代わりに出ることにしました。あの……いけませんでした?」

 がっかりした。

 驚かせようと黙っていたのが裏目に出た。
 ダナンが眼に見えて落胆し肩を落としたのを見て、様子が変だと気がついたのだろう。ジーチェは気懸りそうな表情でこちらを窺っている。

 こんなことなら、はじめからきちんと話しておけばよかった。

 と、後悔しても後の祭りである。
 ジーチェは悪くない。責めるのはお門違いだ。たとえすべての計画が音を立てて崩れようとも、また一からやり直せばいいだけの話だ。

 だが……。

 考えた末、やはりどうしても諦めきれない思いが先に立った。



 翌朝、朝食を済ませるなりダナンはジーチェをデートに誘った。

「あなたもお休みでしたの?」
「君に合わせてね」

 するとジーチェは申し訳なさそうに肩をすぼめた。

「言ってくださればよかったのに」

 まったくだ。

 とは言わず、ダナンはジーチェのために外出用のマントを取って肩にかけた。

「時間がもったいない。行こう」
「どこにです?」
「いいから私について来なさい」

 ダナンは厩舎に立ち寄って自分の愛馬を引き出し、ジーチェを前に乗せて、魔法研究所へ赴いた。所長のローザンを掴まえて手短に事情を説明し、理由をデートから視察に変更することで転移魔法陣の使用許可を得て、早速目的の地へ送ってもらう。

 情緒もへったくれもあったものではないが、この際細かいことには眼を瞑ろう。

 転移先は北エバアル魔法研究所施設内。
 はじめ不審そうにうろたえていたジーチェだが、施設の外に出て空気を嗅ぐなり気がついたようだ。

「ここは……でも、どうして」

 戸惑うジーチェを急かして相乗りし、ダナンはまっすぐに草原へと向かった。
 都市部を離れるにつれ景色はどんどん緑が多くなっていった。人家がまばらになり、のどかな田園地帯を越えて――やがて芽吹いたばかりの広大な草原に出た。

 青い草波が風にそよぐ。
 どこかの牧場の家畜の群れがのんびりと草を食み、牧羊犬はふわふわ舞う蝶にじゃれかかり、頭上では翼を大きく広げた鳶が旋回していた。

「しっかり掴まっていなさい――ヤッ!」

 ダナンは愛馬を疾走させた。風を切り、雲を追いかけるように。
 風景が飛ぶように過ぎていく。
 雄々しい馬蹄音だけが響く中、風の匂い、土の匂い、草の匂いが入り混じって鼻をつく。
 懐かしさで胸がいっぱいになる。

「ジーチェ!」
「はい」
「君とはじめて会ったのは、ここだった」
「はい」
「懐かしいな。ここはなにも変わらない。空と草と風と光と……」

 ダナンは手綱を引いてゆるやかに停止させた。
 馬を下り、ジーチェと手を繋いで草原に寝転ぶ。額に手を翳して太陽の光を遮りながら漂う雲を眺めていると、時間が逆行し、昔に戻ったような錯覚を覚えた。
 横を見る。
 驚いたことに、ジーチェと眼が合った。
 そのまましばらく見つめ合う。
 愛するひとと共にいられる幸福を心底嬉しく思った。ありていに言って、感動した。一生こんなふうに手を繋いでいけたら、山あり谷ありの人生だろうと、二人で努力して、ゆっくり乗り越えていくことができるだろう。

「……君が、好きだ。はじめて出会ったときから、ずっと……」

 ダナンはジーチェに微笑みかけた。
 春の暖かな陽射しに包まれるジーチェは最高に美しい。

「どうしても、君と巡り会えた春の青い草原を訪れたかった。本当はゆっくり時間をかけて来ようと思っていたのだがね……まあ、それは次の機会にしよう」

 時間を見る。そろそろ帰途につかなければ日が暮れてしまう。
 ダナンが起き上がろうとすると、ギュッと手に力がこもって引き止められた。

「……どうかしたかね?」
「……もう少しだけ」

 不意に、ジーチェが甘えた瞳でダナンを見つめた。ドキッとする。他人行儀に構えたところが微塵も感じられない、無防備なまなざしだ。
 この滅多に見られない表情と寛いだしぐさにダナンが魅せられてぼーっとしていると、ジーチェは小さく笑って告げた。

「私もずっとここに戻ってきたかったんです。――あなたと二人で」

 それから秘密を囁くように、そっと一言、付け足した。

「あなたのことが大好き、だから……一緒に」

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 春になったら連れて行こうと思っていた。
 そのために早くから計画を立て、準備を進め、休みの申請をし、暖かくなるのをずっと待っていたというのに――。

「仕事?」

 呆気にとられてダナンは訊き返した。
 就寝前のひととき、鏡台の前で髪の手入れをしていた妻ジーチェが漏らした一言に愕然とした。

「しかし、君は明日から十日間の長期休暇の予定を許可されていたんじゃないのか」
「ええ。でもひとり急病で倒れて、もうひとり実家が火事に遭ったという知らせがあって急に一時帰省することになったんです」
「誰か他に都合のつく者がいるだろう」
「皆、忙しいので。私は特に予定もありませんでしたし、人手が足りなくて困っているのを見過ごすわけにも参りませんので、明日一日だけお休みして、明後日から代わりに出ることにしました。あの……いけませんでした?」

 がっかりした。

 驚かせようと黙っていたのが裏目に出た。
 ダナンが眼に見えて落胆し肩を落としたのを見て、様子が変だと気がついたのだろう。ジーチェは気懸りそうな表情でこちらを窺っている。

 こんなことなら、はじめからきちんと話しておけばよかった。

 と、後悔しても後の祭りである。
 ジーチェは悪くない。責めるのはお門違いだ。たとえすべての計画が音を立てて崩れようとも、また一からやり直せばいいだけの話だ。

 だが……。

 考えた末、やはりどうしても諦めきれない思いが先に立った。



 翌朝、朝食を済ませるなりダナンはジーチェをデートに誘った。

「あなたもお休みでしたの?」
「君に合わせてね」

 するとジーチェは申し訳なさそうに肩をすぼめた。

「言ってくださればよかったのに」

 まったくだ。

 とは言わず、ダナンはジーチェのために外出用のマントを取って肩にかけた。

「時間がもったいない。行こう」
「どこにです?」
「いいから私について来なさい」

 ダナンは厩舎に立ち寄って自分の愛馬を引き出し、ジーチェを前に乗せて、魔法研究所へ赴いた。所長のローザンを掴まえて手短に事情を説明し、理由をデートから視察に変更することで転移魔法陣の使用許可を得て、早速目的の地へ送ってもらう。

 情緒もへったくれもあったものではないが、この際細かいことには眼を瞑ろう。

 転移先は北エバアル魔法研究所施設内。
 はじめ不審そうにうろたえていたジーチェだが、施設の外に出て空気を嗅ぐなり気がついたようだ。

「ここは……でも、どうして」

 戸惑うジーチェを急かして相乗りし、ダナンはまっすぐに草原へと向かった。
 都市部を離れるにつれ景色はどんどん緑が多くなっていった。人家がまばらになり、のどかな田園地帯を越えて――やがて芽吹いたばかりの広大な草原に出た。

 青い草波が風にそよぐ。
 どこかの牧場の家畜の群れがのんびりと草を食み、牧羊犬はふわふわ舞う蝶にじゃれかかり、頭上では翼を大きく広げた鳶が旋回していた。

「しっかり掴まっていなさい――ヤッ!」

 ダナンは愛馬を疾走させた。風を切り、雲を追いかけるように。
 風景が飛ぶように過ぎていく。
 雄々しい馬蹄音だけが響く中、風の匂い、土の匂い、草の匂いが入り混じって鼻をつく。
 懐かしさで胸がいっぱいになる。

「ジーチェ!」
「はい」
「君とはじめて会ったのは、ここだった」
「はい」
「懐かしいな。ここはなにも変わらない。空と草と風と光と……」

 ダナンは手綱を引いてゆるやかに停止させた。
 馬を下り、ジーチェと手を繋いで草原に寝転ぶ。額に手を翳して太陽の光を遮りながら漂う雲を眺めていると、時間が逆行し、昔に戻ったような錯覚を覚えた。
 横を見る。
 驚いたことに、ジーチェと眼が合った。
 そのまましばらく見つめ合う。
 愛するひとと共にいられる幸福を心底嬉しく思った。ありていに言って、感動した。一生こんなふうに手を繋いでいけたら、山あり谷ありの人生だろうと、二人で努力して、ゆっくり乗り越えていくことができるだろう。

「……君が、好きだ。はじめて出会ったときから、ずっと……」

 ダナンはジーチェに微笑みかけた。
 春の暖かな陽射しに包まれるジーチェは最高に美しい。

「どうしても、君と巡り会えた春の青い草原を訪れたかった。本当はゆっくり時間をかけて来ようと思っていたのだがね……まあ、それは次の機会にしよう」

 時間を見る。そろそろ帰途につかなければ日が暮れてしまう。
 ダナンが起き上がろうとすると、ギュッと手に力がこもって引き止められた。

「……どうかしたかね?」
「……もう少しだけ」

 不意に、ジーチェが甘えた瞳でダナンを見つめた。ドキッとする。他人行儀に構えたところが微塵も感じられない、無防備なまなざしだ。
 この滅多に見られない表情と寛いだしぐさにダナンが魅せられてぼーっとしていると、ジーチェは小さく笑って告げた。

「私もずっとここに戻ってきたかったんです。――あなたと二人で」

 それから秘密を囁くように、そっと一言、付け足した。

「あなたのことが大好き、だから……一緒に」

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【2016/08/10 05:56】 | 愛してると言いなさい
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